
1976年6月にリリースされたビートルズのコンピレーション・アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」はLP2枚組全28曲入りで、1973年にリリースされたオールタイム・ベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」全26曲入りと「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」全28曲入りの合計54曲とは、4曲しかダブリがありません。それは、「DRIVE MY CAR」、「REVOLUTION」、「BACK IN THE U.S.S.R.」、「GET BACK」で、「GET BACK」は編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」ではアルバム・ヴァージョンなので、実質的には3曲しかダブっていません。コレは、選曲したレコード会社が、ファンは既に「赤盤」と「青盤」を持っているだろうと、ご親切に考えて選曲してくれたのでしょう。しかも、前回で触れた通りに、編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国キャピトル盤は、サー・ジョージ・マーティンがノー・ギャラでリミックスをしているので、既にビートルズの全ての音源を持っているディープなファンにとっても見逃せないアルバムでした。そして、全28曲中12曲がカヴァー曲であったのも、新鮮な選曲でした。現在では「赤盤」と「青盤」は、2023年に曲を増やしてリミックスもした拡大盤がリリースされていて、カヴァー曲も選曲されたのですけれど、オリジナルの「赤盤」と「青盤」は、全54曲全てがオリジナル曲のみで構成されていたのです。
1987年から1988年にかけてビートルズが初CD化される前には、ビートルズのレコードは各国盤で別ジャケットだったり別選曲だったりして、結構、集め甲斐がありました。特に有名なのは米国キャピトル盤ですが、日本でも独自の選曲をした盤があったし、それどころか日本では、1978年にはオランダ編集盤の「THE BEATLES' GREATEST」やドイツ編集盤の「THE BEATLES BEAT」を、1982年にはイタリア編集盤「THE BEATLES IN ITALY」を出していたりもするのです。内容はどうと云う事もない編集盤でしたが、オランダ盤の「THE BEATLES' GREATEST」には「ALL MY LOVING」のイントロ・ハイハット・ミックスが入っていたりもしました。そんな中で、特筆すべきな編集盤は、1983年にチェコスロバキアでリリースされた編集盤「EXPEDICE R'N'R」です。内容は、A面が、1「ROCK’N'ROLL MUSIC」、2「LONG TALL SALLY」、3「DIZZY MISS LIZZY」、4「SLOW DOWN」、5「CHAINS」、6「BABY IT'S YOU」、7「BOYS」、8「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」で、B面が、1「TWIST AND SHOUT」、2「KANSAS CITY」、3「HONEY DON'T」、4「A TASTE OF HONEY」、5「MR. MOONLIGHT」、6「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、7「PLEASE MISTER POSTMAN」、8「WORDS OF LOVE」(全て、表記は原本ママ)の、全16曲入りです。御覧になってお分かりの通り、これらの全16曲は、全てがカヴァー曲なのです。
この編集盤「EXPEDICE R'N'R」は、盤起こしでは定評がある「SWEET ZAPPLE」からパイレート盤が出ていて、本編16曲を聴くとヴォーカルがセンターにリミックスがされているので、それならばサー・ジョージ・マーティンが1976年に行った米国キャピトル盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」でのリミックスを使用していると思えるものの、編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」には未収録の「CHAINS」、「BABY IT'S YOU」、「A TASTE OF HONEY」、「MR. MOONLIGHT」、「WORDS OF LOVE」も同じ様にヴォーカルがセンターのリミックス音源なので、一体いつ誰が行ったリミックスなのかは謎です。パイレート盤の「EXPEDICE R'N'R」は、オリジナルのチェコスロバキア盤全16曲につづいて、17「ANNA(GO TO HIM)」、18「TILL THERE WAS YOU」、19「ROLL OVER BEETHOVEN」、20「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」、21「DEVIL IN HER HEART」、の5曲が英国オリジナル・泣き別れ・ステレオ・ミックスで、更に、22「MATCHBOX」、23「BAD BOY」、の2曲が米国キャピトル盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」からのステレオ・リミックスで、そして、24「MATCHBOX」、25「SLOW DOWN」、26「LONG TALL SALLY」、の3曲が英国オリジナル・モノラル・ミックスで、ボーナス・トラックとして収録された、全23曲で全26ミックス入りの、カヴァー曲に特化した充実の拡大盤となっております。
ビートルズの公式213曲の内で、カヴァー曲は25曲ですが、1曲はトラディショナル曲「MAGGIE MAE」なので実質24曲です。その中から、このパイレート盤「EXPEDICE R'N'R」には、リンゴ・スターが歌ったバック・オーウェンスのカヴァー「ACT NATURALLY」を除いた23曲が入っているのです。ミックス違いの重複曲が3曲あるのに、何故「ACT NATURALLY」だけをハブにしたのかは謎ではありますけれど、一応はタイトルに「R'N'R」とあるので、カントリーの「ACT NATURALLY」は場違いだと外されたのでしょうか。でもですね、それだと、ちっともロックンロールではない「A TASTE OF HONEY」や「TILL THERE WAS YOU」などが混じっているのも変なのです。おそらく、選曲者が「ACT NATURALLY」の存在を忘れていたのでしょう。米国や日本では、アノ「YESTERDAY」をB面にして、A面が「ACT NATURALLY」のシングル盤が出たと云うのに、立場がないですなあ。ビートルズが公式盤でカヴァー曲を入れていたのは、1965年8月にリリースされたアルバム「HELP!」までなので、このパイレート盤には、1963年から1965年までの前期のカヴァー曲が、1曲を除く23曲の26ミックスで収録されていて、編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」をも凌ぐ鮮度抜群な選曲となっております。ジャケット・デザインは何だかよく分かりませんけれど、中味は良い出来栄えです。
(小島イコ)