nana.812.png

2025年04月20日

「ポールの道」#706「THE BEATLES BLACK VOX」
#015「ROCK'N'ROLL MUSIC」US&UK

BeatlesRockNRollMusicalbumcover.jpg


元・ビートルズの4人である、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターは、1976年2月にEMIと1967年に交わした9年間の契約が満了しました。それで、それぞれが新たな契約を結ぶ事となって、ウイングスで絶好調だったポールはEMIとの契約を延長して、ジョージは既に1974年にレーベルを作っていたA&M傘下のダーク・ホースへ(その後揉めてレーベルごとワーナーへ)、リンゴはポリドール(英国・日本)・アトランティック(米国・カナダ)へ移籍して、ジョンはどのレコード会社とも契約せずに「ハウス・ハズバンド」になりました。ところが、EMIにはビートルズの既発音源を使ったコンピレーション・アルバムを制作する権利を得る、新たな契約が結ばれたのです。それで、最初にリリースされたのが、2枚組のアルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」でした。このアルバムは、米国キャピトル主導でリリースされていて、選曲は米国キャピトルと日本の東芝EMIが行って、1976年6月7日に米国キャピトル(SKBO 11537)から、同年6月11日に英国パーロフォン(PCSP 719)から、それぞれステレオ盤で出ています。結果から云えば、アルバムは全米2位・全英11位と大ヒットして、米国でシングル・カットされた「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE / HELTER SKELTER」は全米7位(カナダでは首位!)となり、英国でシングル・カットされた「BACK IN THE U.S.S.R / TWIST AND SHOUT」は全英19位まで上がっています。ちなみに、米国でこのアルバムが2位だった時の首位!は、ウイングスのアルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」です。

内容は、A面が、1「TWIST AND SHOUT」、2「I SAW HER STANDING THERE」、3「YOU CAN'T DO THAT」、4「I WANNA BE YOUR MAN」、5「I CALL YOUR NAME」、6「BOYS」、7「LONG TALL SALLY」で、B面が、1「ROCK'N'ROLL MUSIC」、2「SLOW DOWN」、3「KANSAS CITY」、4「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、5「BAD BOY」、6「MATCHBOX」、7「ROLL OVER BEETHOVEN」で、C面が、1「DIZZY MISS LIZZY」、2「ANY TIME AT ALL」、3「DRIVE MY CAR」、4「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」、5「THE NIGHT BEFORE」、6「I'M DOWN」、7「REVOLUTION」で、D面が、1「BACK IN THE U.S.S.R.」、2「HELTER SKELTER」、3「TAXMAN」、4「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、5「HEY BULLDOG」、6「BIRTHDAY」、7「GET BACK」の、2枚組全28曲入りです。曲名表記は、全て原本ママです。基本的にはステレオ・ミックスで収録されていて、EP「LONG TALL SALLY」の4曲やシングルB面だった「I'M DOWN」などは初ステレオ・ミックスでした。最後の「GET BACK」はフィル・スペクターがプロデュースしたアルバム「LET IT BE」からのアルバム・ヴァージョンですが、他の27曲はサー・ジョージ・マーティンのプロデュースです。そして、米国キャピトルはサー・ジョージ・マーティンに「ステレオ・ミックスで収録して欲しい」とリ・プロデュースを依頼した事で、話がややこしくなりました。

サー・ジョージ・マーティンは1960年代のビートルズのステレオ・ミックスを聴いて「こんな音では出せない!」となり、全編をリミックスする事を希望して、一説には「ノー・ギャラ」で、左右のチャンネルを逆にしてヴォーカルをセンターにするリミックスをしたのです。ところが、英国EMIでは「ビートルズの音源に手を加えてはならない」と云う決まりがあって、サー・ジョージ・マーティンのリミックスは却下されました。それが、昔から勝手にリミックスしていた米国キャピトルでは甘くて、サー・ジョージ・マーティンによるリミックス音源が使用されたのです。つまり、この編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」は、米国キャピトル盤と英国パーロフォン盤では内容が違ってしまったのです。ジャケットも米国キャピトル盤はギンギンギラギラな派手な仕様で、英国パーロフォン盤は地味な仕様となっています。日本盤はと云うと、ジャケットは米国キャピトル盤と同じギンギンギラギラなのに、中味は英国パーロフォン盤と同じリミックスされていない音源と云う、悪いトコ取りをしたものになってしまいました。このアルバムに限らず、ビートルズの日本盤は盤起こしが普通だった様で、ガッツのないショボクレた音質です。この「ROCK'N'ROLL MUSIC」は、1980年10月にバラ売りされたのですけれど、その時には英国盤もリミックス音源を使っています。ところが、日本盤は元の音源の侭で出しているのです。つまり日本では、サー・ジョージ・マーティンが「こんな音じゃ出せん!」と云った音源でしか出ていません。

このアルバムにはジャケットでもひと悶着あって、ジョンは「ロックンロールならば、俺だろう」と、キャピトルに自らデザインすると申し出たものの却下されてしまい、出来上がったジャケットを見て「モンキーズのボツになったアルバム・カバーみたいだ」と怒っていて、尻馬に乗ったリンゴからも「ビートルズが安っぽく見える」と云われてしまいました。それでも前述の通り、たかが昔の音源を並べただけの編集盤が大ヒットしたのですから、レコード会社は笑いが止まりませんわなあ。選曲は、1973年にリリースされたオールタイム・ベスト・アルバムである「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」と「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」とは、「DRIVE MY CAR」、「REVOLUTION」、「BACK IN THE U.S.S.R.」、「GET BACK」の4曲しかダブリがなく、こちらの「GET BACK」は別ヴァージョンなので、実質3曲しかダブっていない、好選曲です。それと云うのも、カヴァーが全28曲中12曲も選ばれていて、レノン=マッカートニー作品が15曲、ジョージ・ハリスン作が1曲となっています。リード・ヴォーカルは、ジョンが11曲、ポールが10曲、ジョンとポールが1曲、ジョージが3曲、リンゴが3曲と、まあ、パワーバランス通りですが、20曲目までが1963年から1965年までの曲で、1966年から1970年までがたったの8曲と云うのは、些か前期に集中している感じはします。

この編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」は、他の多くの編集盤と同様に、未CD化です。そこで登場するのがパイレート盤と云うわけでして、あたくしは2枚持っています。どちらもオリジナル通りの全28曲入りで、74分17秒なのでCD1枚に収められています。何故に同じ選曲のパイレート盤を2枚持っているのかと云うと、ご説明した通り、この編集盤は米国キャピトル盤と英国パーロフォン盤でミックスが違っているからなのです。まずは米国キャピトル盤仕様は「THE BEATLES ROCK'N'ROLL MUSIC DIRECT FROM ACETATE」で、米国キャピトル盤「SKBO 11537」のアセテート盤からの盤起こし音源です。流石にアセテート盤がソースなのでスクラッチ・ノイズも聴こえますが、サー・ジョージ・マーティン入魂のリミックス音源が楽しめます。1曲目の「TWIST AND SHOUT」からして、ジョンのヴォーカルがセンターになっているステレオ・リミックスです。コレは「CONTRA BAND MUSIC」からで、アノ「THE GOLDEN ANALOG EXPERIENCE」も出しているメーカーなので、盤起こしには定評があります。ジャケットは、キャピトル・ビルの写真です。もう1枚は英国パーロフォン盤仕様の「ROCK'N'ROLL MUSIC」で、英国パーロフォン盤「PCSP 719」のコピー盤です。こちらのジャケットはオリジナル通りで、内ジャケットや裏ジャケットまで復刻している「BOOM EDIT」からのパイレート盤となっております。中味は1曲目の「TWIST AND SHOUT」からして、左右に泣き別れした英国オリジナル・ステレオ・ミックスです。ノリノリなロックンロール満載の編集盤なので、選曲も良いし、公式盤でCD化しても良さそうな内容です。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする