1960年代の現役時代のビートルズは、基本的にはシングル曲をアルバムには入れない方針を貫いていました。故に、前回に紹介した現役時代では唯一のベスト・アルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」はシングル集であって、英国では全16曲中7曲がシングルのみだった曲で、1曲は未発表曲でした。米国キャピトルでは、そんな事などお構いなしに、シングル曲もアルバムに収録した独自の水増しアルバムを連発していて、英国オリジナル・アルバムと同内容になったのは、1967年のアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」からだったのです。それも、最後に入っている「SGT. PEPPER INNER GROOVE」と呼ばれる意味不明な語り部分をカットしていました。米国キャピトルはその後も編集アルバムを出し続けていて、現在ではオリジナル・アルバムの様な顔をしている1967年のアルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」も、元々は米国キャピトルが、A面に1967年リリースの英国オリジナルEP6曲を、B面に1967年リリースの英国オリジナル・シングル5曲を入れた編集盤だったのです。そして、1970年2月26日にリリースされたアルバム「HEY JUDE」も、米国キャピトル編集盤なのです。どちらも英国ではシングルのみだった曲が多く選曲されていてですね、なんと、逆輸入盤が売れたので、英国EMIでも1976年にアルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」を、1979年にはアルバム「HEY JUDE」をリリースして、アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」に至っては初CD化の際にオリジナル・アルバムの仲間入りまで果たしてしまったわけです。
それで、元々は「THE BEATLES AGAIN」と云うタイトルだった編集盤「HEY JUDE」の内容は、A面が、1「CAN'T BUY ME LOVE」、2「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、3「PAPERBACK WRITER」、4「RAIN」、5「LADY MADONNA」、6「REVOLUTION」で、B面が、1「HEY JUDE」、2「OLD BROWN SHOE」、3「DON'T LET ME DOWN」、4「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」で、全10曲入りです。最初の2曲が1964年のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」からの曲になっているのがヘンチクリンですけれど、コレはですね、米国では映画「A HARD DAY'S NIGHT」のサントラ盤がユナイテッド・アーティスツから出たので、キャピトル編集盤には収録していなくて、ここで登場となったからです。この2曲を外して、1968年のシングルB面「THE INNER LIGHT」と、1969年のシングルA面「GET BACK」シングル・ヴァージョンを加えていたならば、この編集盤もCD化の際にオリジナル・アルバムと同等に扱われていたかもしれません。そうなるとですね、編集盤「PAST MASTERS」の内容がスカスカになっていたでしょうなあ。この編集盤「HEY JUDE」は、2014年になって箱「THE U.S. ALBUMS」でようやくCD化されていますが、元々ステレオ盤しか出ていないので「2in1」にはなっていません。モノラル・ミックスは、2009年の箱「THE BEATLES IN MONO」で聴く事が出来ます。ところが、CD化された中味は2009年リマスター音源に差し替えているので、ミックス違いも楽しめません。
そこで、毎度お馴染みのパイレート盤の登場です。まずは、以前に紹介した「絶滅シリーズ」の「HEY JUDE SPECIAL」があって、内容は初めの2曲をカットして、1「PAPERBACK WRITER」、2「RAIN」、3「LADY MADONNA」、4「REVOLUTION」、5「HEY JUDE」、6「DON'T LET ME DOWN」、7「OLD BROWN SHOE」、8「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」と来て、後は、9「HEY JUDE」、10「YER BLUES」、11「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」、12「OB-LA-DI, OB-LA-DA」、13「REVOLUTION」、14「MOTHER NATURE'S SON」、15「LADY MADONNA」、16「ACROSS THE UNIVERSE」、17「ALL YOU NEED IS LOVE」の9曲の別テイクを加えた、全17曲入りです。1966年から1969年までの音源なので、公式盤よりもまとまりがあります。そして、パイレート盤としては「THE CAPITOL MASTERS」と云うシリーズがあって、米国キャピトル編集ステレオ盤を「2in1」で収録した盤なのですけれど、その「VOL.6」が編集盤「HEY JUDE」全10曲と1977年リリースのライヴ・アルバム「THE BEATLES AT THE HOLLYWOOD BOWL」全13曲の「2in1」で、全23曲入りとなっております。このパイレート盤が出た当時は、編集盤「HEY JUDE」も、ライヴ・アルバム「THE BEATLES AT THE HOLLYWOOD BOWL」も未CD化だったので、音源的にも大いに意味がありました。この「THE CAPITOL MASTERS」は、次の「VOL.7」がキャピトル編集盤「THE BEATLES RARITIES」と、デッカ・オーディション音源「DAWN OF THE SILVER BEATLES」の「2in1」で、そっちも良いですよ。
レア音源集としては、「WALRUS」からの「THE ALTERNATE HEY JUDE ALBUM」があります。本編は、1「HEY JUDE」、2「REVOLUTION」、3「PAPERBACK WRITER」、4「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、5「LADY MADONNA」、6「CAN'T BUY ME LOVE」、7「DON'T LET ME DOWN」、8「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」、9「RAIN」、10「OLD BROWN SHOE」で、それぞれの別テイクや別ミックスを収録しています。つづいて「ボーナス・トラック」として、11「HEY JUDE」、12「HEY JUDE」、13「HEY JUDE」、14「HEY JUDE」、15「REVOLUTION」、16「LADY MADONNA」、17「OLD BROWN SHOE」、18「HEY JUDE」、19「OLD BROWN SHOE」の9曲が加わった、全19曲入りです。まさかの「HEY JUDE」4連発を含む「HEY JUDE」が合計6回も入っている、正に「HEY JUDE」盤です。そして、パイレート盤では最も良い出来栄えなのが、「MASTER OF ORANGE」からの、その名も「HEY JUDE」です。コレはですね、全20曲入りで、まずは、1「CAN'T BUY ME LOVE」、2「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、3「PAPERBACK WRITER」、4「RAIN」、5「LADY MADONNA」、6「REVOLUTION」、7「HEY JUDE」、8「OLD BROWN SHOE」、9「DON'T LET ME DOWN」、10「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」と、オリジナル通りの曲順で並んでいるのですけれど、「ORIGINAL VERSION(NON CD VERSION)」と書かれている、盤起こし音源です。
つづいて、11「HEY JUDE」、12「OLD BROWN SHOE」、13「DON'T LET ME DOWN」、14「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」、15「CAN'T BUY ME LOVE」、16「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、17「PAPERBACK WRITER」、18「RAIN」、19「LADY MADONNA」、20「REVOLUTION」の10曲が加わった、全20曲入りです。後半の10曲は「AMPEX REEL-TO-REEL VERSION」と書いてある、テープ起こし音源です。テープだとレコードのAB面が逆になっていて、いきなり「HEY JUDE」から始まる構成になっているのです。前半が「NON CD VERSION」となっている事から、少なくとも編集盤「HEY JUDE」が箱「THE U.S. ALBUMS」で初CD化された2014年よりも後になってリリースされたパイレート盤です。内容的には、この「HEY JUDE」が余計な事をしていなくて最も良いです。但し、ジャケットは「絶滅シリーズ」の「HEY JUDE SPECIAL」以外の3作は、オリジナル編集盤と同じ写真を使っているのですけれど、流石にオリジナル盤は綺麗です。内容的には最も良い最後に紹介したパイレート盤「HEY JUDE」が、ジャケットがくすんでいるのが欠点ではあります。それにしても、ビートルズのシングルで最もヒットした「HEY JUDE」を、英国ではオリジナル・アルバムには未収録だったのですから、驚きです。英国ではシングル曲をアルバムには入れない決まりがあったとも聞きましたけれど、普通ならば「HEY JUDE」は入れるでしょう。しかしながら、その時期にビートルズが出したアルバムは2枚組の「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」全30曲入りだったのですから、更に驚きます。
(小島イコ)