
ビートルズのアルバムやシングルは、1960年代から1980年代にかけては、各国で独自に選曲したカタチでリリースされていました。ソレが、1987年から1988年にかけての初CD化の際に、サー・ジョージ・マーティンの意向もあって、全世界統一規格となりました。となると、各国盤の「別ミックス音源」はレアになって、ブートレグ業者がそれらをアナログ盤からコピーしたパイレート盤をリリースする様になったのです。つまり、それまではアウトテイクやライヴ音源が中心だったブートレグに、別ミックスと云う新たな分野を与えてしまったのです。それではイカンとなって、米国キャピトル編集盤の箱「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 1」と「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 2」を2004年と2006年に公式盤CDとしてリリースして対抗したものの、2009年のリマスター盤CDをリリースしてからは、再び全世界統一規格へと逆行しました。2009年リマスターはステレオ・ミックスとモノラル・ミックスに加えて、サー・ジョージ・マーティンが初CD化の際にリミックスしたアルバム「HELP!」とアルバム「RUBBER SOUL」のオリジナル・ステレオ・ミックスも収録しているので、アップルとしては、それで充分だろうと思ったのでしょう。しかしながら、ミックス違いが最も多い米国キャピトル編集盤を蔑ろにしてしまったのはいただけません。2014年になって、米国キャピトル編集盤に米国ユナイテッド・アーティスツ・サントラ盤も加えたCD13枚組の箱「THE U.S. ALBUMS」が登場しましたが、ジャケットや選曲は米国盤仕様なのに、中味は2009年リマスター音源に差し替えられていました。
いや、別に、ファンのみんなはジャケットが欲しいのではなくてですね、中味の別ミックスが聴きたいわけで、中味が2009年リマスターだったならば、自分で編集してCDRに焼けば済む話なんですよ。ところが、2014年には箱の「THE JAPAN BOX」がリリースされて、内容は、1964年のアルバム「ビートルズ!」と、同年のアルバム「ビートルズ!No.2!」と、同年のアルバム「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」と、1965年のアルバム「ビートルズ No.5」と、同年のアルバム「4人はアイドル」の5作を初CD化したものでした。アルバム「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」は英国オリジナル・アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」のステレオ盤と同内容ですが、ジャケットが違っていて、「4人はアイドル」は英国オリジナル・アルバム「HELP!」のオリジナル・ステレオ盤と同内容ですが、ジャケットが違っています。そして、アルバム「ビートルズ!」と、アルバム「ビートルズ!No.2!」と、アルバム「ビートルズ No.5」の3作は、日本独自の編集盤で、全てがモノラルです。日本ではもう1作、1965年のアルバム「ビートルズ’65」も出ているのですけれど、内容は英国オリジナル・アルバム「BEATLES FOR SALE」のステレオ盤と同じで、ジャケット写真も同じで、タイトル文字の大きさが違うだけなので、ラインナップから外されたのでしょう。
ところが、ところがですよ、これまた中味が全て2009年リマスター音源に差し替えられていてですね、アルバム「ビートルズ!」と、アルバム「ビートルズ!No.2!」と、アルバム「ビートルズ No.5」は2009年モノラル・リマスターで、アルバム「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」は2009年ステレオ・リマスターで、アルバム「4人はアイドル」は2009年モノラル・リマスター盤のオマケで入っていた1965年オリジナル・ステレオ・ミックスなのです。精巧にCDサイズで復元されたジャケットや帯は日本盤独自のものですけれど、中味は2009年リマスターなんですから、詐欺みたいなもんです。そんな事を公式盤がやらかすから、パイレート盤やブートレグはなくならないのです。前置きが長くなりましたが、今回紹介するのは「SWEET ZAPPLE」からの2枚組CD「THE BEATLES’ JAPAN CLASSICS」です。簡潔に説明すると、このCDには、アルバム「ビートルズ!」と、アルバム「ビートルズ!No.2!」と、アルバム「ビートルズ No.5」の全42曲に加えて、日本独自のミックス違いを13曲加えた、全55曲が収録されています。全てが、おそらく盤起こし音源だと思われますけれど、この手のパイレート盤では定評があった「SWEET ZAPPLE」なので、良質な音で聴く事が出来ます。全55曲中54曲がアナログ盤では聴けた音源ばかりですけれど、全てが未CD化音源なのです。
CD1は、1「I WANT TO HOLD YOUR HAND」、2「SHE LOVES YOU」、3「FROM ME TO YOU」、4「TWIST AND SHOUT」、5「LOVE ME DO」、6「BABY IT'S YOU」、7「DON'T BOTHER ME」、8「PLEASE PLEASE ME」、9「I SAW HER STANDING THERE」、10「P.S. I LOVE YOU」、11「LITTLE CHILD」、12「ALL MY LOVING」、13「HOLD ME TIGHT」、14「PLEASE MISTER POSTMAN」と、ここまでが日本でのデビュー・アルバム「ビートルズ!」全14曲です。いきなり大ヒット・シングル3連発で始まるこの選曲は、中には「DON'T BOTHER ME」や「HOLD ME TIGHT」と云ったヘッポコ曲も混じってはいますけれど、各国盤の中でも最高かもしれません。でも「PLEASE PLEASE ME」はジョンが歌詞を間違えるので、ステレオ・ミックスをモノラルにしただけです。その後には、15「CAN'T BUY ME LOVE」、16「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET」、17「THANK YOU GIRL」、18「A TASTE OF HONEY」、19「IT WON'T BE LONG」、20「I WANNA BE YOUR MAN」、21「THERE'S A PLACE」、22「ROLL OVER BEETHOVEN」、23「MISERY」、24「BOYS」、25「DEVIL IN HER HEART」、26「NOT A SECOND TIME」、27「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、28「TILL THERE WAS YOU」の、日本での2作目のアルバム「ビートルズ!No.2!」全14曲が収録されています。こちらは、デビュー・アルバムに良い曲を持っていったので、渋い選曲となっております。リンゴのヴォーカル曲が2曲も入っているのも、二番煎じならではの味です。
CD2は、1「LONG TALL SALLY」、2「SIE LIEBT DICH」、3「ANNA(GO TO HIM)」、4「MATCHBOX」、5「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」、6「SHE'S A WOMAN」、7「ASK ME WHY」、8「I FEEL FINE」、9「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」、10「CHAINS」、11「SLOW DOWN」、12「ALL I'VE GOT TO DO」、13「I CALL YOUR NAME」、14「THIS BOY」と、ここまでがアルバム「ビートルズ No.5」全14曲です。こちらは、如何にもタコにも五番煎じの寄せ集めアルバムで、ドイツ語の「SHE LOVES YOU」(「SIE LIEBT DICH」)と「I WANT TO HOLD YOUR HAND」(「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」)の2曲まで入れて、何とかアルバムにしたと云う感じです。さて、この後なんですけれど、15「I WANT TO HOLD YOUR HAND」、16「THIS BOY」の2曲は、日本盤の米国キャピトル編集ステレオ盤「MEET THE BEATLES」からの「SLOW DOWN MIX」です。こうして書くと何やらカッコよく思えますけれど、要するにテープのスピードをミスして遅くしてしまった音源です。17「PLEASE MISTER POSTMAN」、18「I'LL GET YOU」、19「SHE LOVES YOU」の3曲も、日本盤の米国キャピトル編集ステレオ盤「THE BEATLES' SECOND ALBUM」からの「SLOW DOWN MIX」で、「SHE LOVES YOU」なんか明らかに遅いので、コレを聴いて「ミックス違い」の泥沼にハマった方もいるでしょう。これらのキャピトル仕様アルバムの日本盤は、ビートルズ解散が明らかになった1970年に、3か月位の間にまとめて販売されています。別に米国キャピトルがミスしたのではなく、日本盤を制作する時にミスったのです。
つづいて、20「SIE LIEBT DICH」は、1966年の日本盤EPからの疑似ステレオ・ミックスで、このドイツ語ヴァージョンをEPで出したのもスゴイのですけれど、カップリングが「ANNA(GO TO HIM)」と「BOYS」と「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」と云う滅茶苦茶な選曲です。21「LONG TALL SALLY」、22「MATCHBOX」、23「SLOW DOWN」の3曲は、1965年の日本盤EPからの疑似ステレオ・ミックスです。24「WE CAN WORK IT OUT」、25「PAPERBACK WRITER」の2曲は、1966年の日本盤EPからの疑似ステレオ・ミックスです。26「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、1967年の日本盤EPからの疑似ステレオ・ミックスで、そのEPの1曲目は「BAD BOY」で2曲目がこの曲と云う、訳が分からない選曲でした。これらの日本盤の疑似ステレオ・ミックスは、全てがモノラル・ミックスを元にしています。最後の、27「ALL YOU NEED IS LOVE」は、1967年6月25日に世界24ヵ国で衛星生中継された「OUR WORLD」にビートルズが英国代表として出演して演奏した当時の新曲で、英国では同年7月7日にシングルが緊急発売されるのですけれど、そちらではジョンのリード・ヴォーカルなどをレコーディングし直しています。このCDでは、日本での放送をそのまんま収録しているので、最初にアナウンサーが日本語で解説している部分も含めて、オーバーダビング前の音源が完全収録されています。
(小島イコ)