
1960年代の現役時代のビートルズは、英国オリジナル盤以外にも、各国で独自に選曲した編集盤が数多くリリースされていました。しかしながら、1987年から1988年にかけてビートルズが初CD化された際に、全世界統一規格となってしまい、多くのミックス違いを含む各国盤は闇に葬られてしまったのです。するとですね、当然の如くブートレグ業者がソコに目を付けて、アナログ盤時代には普通にレコードで聴けた各国盤の別ミックスを集めたパイレート盤CDを出す事となったのです。特にミックス違いが多いのは米国キャピトル編集盤で、公式盤としてもブートレグに対抗して、2004年に「THE CAPITOL ALBUMS VOL.1」(「MEET THE BEATLES」、「THE BEATLES' SECOND ALBUM」、「SOMETHING NEW」、「BEATLES ’65」)と、2006年に「THE CAPITOL ALBUMS VOL.2」(「THE EARLY BEATLES」、「BEATLES Y」、「HELP!」、「RUBBER SOUL」)の、計8作をステレオとモノラルの「2in1」でリリースしたのです。当然、「VOL.3」で「YESTERDAY AND TODAY」や「HEY JUDE」などもリリースされるのかと期待したのですけれど、このシリーズは2箱で打ち止めになってしまい、2014年になってCD13枚組の「THE BEATLES U.S. ALBUMS」がリリースされて、一件落着となったかの様に思えました。ところが、「THE BEATLES U.S. ALBUMS」はジャケットや選曲が米国キャピトル編集盤仕様なのに、中味は多くの曲を2009年リマスター音源に差し替えてしまっていて、つまりは米国編集盤での独自のミックスの多くが聴けないと云う状況になりました。
ソレを、ブートレグ業者が見逃すわけがなく、前回のアルバム「CASUALTIES」の様にキャピトル編集盤音源を集めたパイレート盤の意味がある事態となりました。今回紹介する「THE U.S. ALBUMS RARITIES」は、2014年に「dap」から出たCD2枚組で、公式盤の箱「THE BEATLES U.S. ALBUMS」には収録されていない米国編集盤の別ミックスを集めています。つまりは、公式盤が中途半端なリイシュー盤をリリースしたので、その隙を突いたわけです。しかも、内容は2013年に出たパイレート盤「CASUALTIES」拡大盤全59曲とはダブらない様に配慮しています。内容は、CD1が、1「I WANT TO HOLD YOUR HAND」、2「THIS BOY」、3「ROLL OVER BEETHOVEN」、4「THANK YOU GIRL」、5「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」、6「DEVIL IN HER HEART」、7「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、8「YOU CAN'T DO THAT」、9「LONG TALL SALLY」、10「I CALL YOUR NAME」、11「PLEASE MISTER POSTMAN」、12「I'LL GET YOU」、13「SHE LOVES YOU」、14「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」、15「A HARD DAY'S NIGHT」、16「TELL ME WHY」、17「I'LL CRY INSTEAD」、18「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」、19「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、20「IF I FELL」、21「AND I LOVE HER」、22「CAN'T BUY ME LOVE」、23「SHE'S A WOMAN」、24「I FEEL FINE」、25「LOVE ME DO」、26「P.S. I LOVE YOU」、27「YES IT IS」、28「HELP!」、29「TICKET TO RIDE」、30「I'VE JUST SEEN A FACE」、31「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」、32「YOU WON'T SEE ME」の、全32曲入りです。
つづいて、CD2は、1「THINK FOR YOURSELF」、2「THE WORD」、3「MICHELLE」、4「IT'S ONLY LOVE」、5「GIRL」、6「I'M LOOKING THROUGH YOU」、7「IN MY LIFE」、8「WAIT」、9「RUN FOR YOUR LIFE」、10「I'M ONLY SLEEPING」、11「DR. ROBERT」、12「AND YOUR BIRD CAN SING」、13「DRIVE MY CAR」、14「I'M ONLY SLEEPING」、15「DR. ROBERT」、16「I'M ONLY SLEEPING」、17「DR. ROBERT」、18「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、19「PENNY LANE」、20「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、21「I AM THE WALRUS」、22「PENNY LANE」、23「BABY YOU'RE RICH MAN」、24「ALL YOU NEED IS LOVE」、25「I AM THE WALRUS」、26「PAPERBACK WRITER」、27「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」の、全27曲入りで、合計59曲入りです。まず、「I WANT TO HOLD YOUR HAND」と「THIS BOY」の2曲は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「MEET THE BEATLES」からの疑似ステレオ・ミックスです。「ROLL OVER BEETHOVEN」と「THANK YOU GIRL」と「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」と「DEVIL IN HER HEART」と「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」と「YOU CAN'T DO THAT」と「LONG TALL SALLY」と「I CALL YOUR NAME」と「PLEASE MISTER POSTMAN」の9曲は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「THE BEATLES' SECOND ALBUM」からの、デイヴ・デクスター・ジュニアによるステレオ・ミックスで「DEXTERIZED MIX」と呼ばれるエコーとリバーブがかけられた音源です。
「I'LL GET YOU」と「SHE LOVES YOU」の2曲は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「THE BEATLES' SECOND ALBUM」からの疑似ステレオ・ミックスです。「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」は、米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「SOMETHING NEW」からのステレオ・ミックスで、「CASUALTIES」にも入っていた何者かの声が入っている音源です。「A HARD DAY'S NIGHT」と「TELL ME WHY」と「I'LL CRY INSTEAD」と「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」と「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」と「IF I FELL」と「AND I LOVE HER」と「CAN'T BUY ME LOVE」の8曲は、1964年のユナイテッド・アーティスツのサントラ・ステレオ盤アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」からの疑似ステレオ・ミックスで、例のモノラル・ミックスを左右にパンさせている奇怪なミックスです。映画会社であるユナイテッド・アーティスツには、マトモなミキサーがいなかったのでしょうか。「SHE'S A WOMAN」と「I FEEL FINE」の2曲は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「BEATLES ’65」からのエコーが深い疑似ステレオ・ミックスです。「LOVE ME DO」と「P.S. I LOVE YOU」の2曲は、1965年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「EARLY BEATLES」からの疑似ステレオ・ミックスです。「YES IT IS」は、1965年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「BEATLES Y」からの疑似ステレオ・ミックスです。「HELP!」は、1965年の米国キャピトルのサントラ・モノラル盤アルバム「HELP!」からのモノラル・ミックスで、イントロに「なんちゃってジェイムズ・ボンドのテーマ」入りです。「TICKET TO RIDE」は、1965年の米国キャピトルのサントラ・ステレオ盤アルバム「HELP!」からの疑似ステレオ・ミックスです。
「I'VE JUST SEEN A FACE」と「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」と「YOU WON'T SEE ME」と「THINK FOR YOURSELF」と「THE WORD」と「MICHELLE」と「IT'S ONLY LOVE」と「GIRL」と「I'M LOOKING THROUGH YOU」と「IN MY LIFE」と「WAIT」と「RUN FOR YOUR LIFE」の12曲は、キャピトル編集ステレオ盤アルバム「RUBBER SOUL」全曲ですが、全てがデイヴ・デクスター・ジュニアによるステレオ・ミックスの通称「DEXTERIZED MIX」です。「I'M ONLY SLEEPING」と「DR. ROBERT」と「AND YOUR BIRD CAN SING」の3曲は、1966年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「YESTERDAY AND TODAY」からの疑似ステレオ・ミックスで、英国オリジナル盤アルバム「REVOLVER」からの先出し楽曲だったので、ステレオ・ミックスが間に合わず、疑似ステレオで出してしまったのです。「DRIVE MY CAR」と「I'M ONLY SLEEPING」と「DR. ROBERT」の3曲は、米国キャピトル編集モノラル盤アルバム「YESTERDAY AND TODAY」からのモノラル・ミックスですが、「DRIVE MY CAR」はステレオ・ミックスをモノラルにしただけの音源ですし、他の2曲は独自のモノラル・ミックスです。「I'M ONLY SLEEPING」と「DR. ROBERT」は、1966年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「YESTERDAY AND TODAY」からのステレオ・ミックスで、途中からステレオ・ミックスに差し替えられたものの、英国オリジナル盤とは違うミックスです。「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」は、米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「REVOLVER」からのステレオ・ミックスで、これまた「DEXTERIZED MIX」です。
米国キャピトル盤のアルバム「REVOLVER」は、アルバム「YESTERDAY AND TODAY」で先出しした3曲を抜いただけの全11曲でリリースしてしまったトンデモ盤です。「PENNY LANE」は、1967年の米国キャピトル・プロモーション・シングル盤のモノラル・ミックスで、トランペット・エンディングです。「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」と「I AM THE WALRUS」の2曲は、米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」からのキャピトル独自のステレオ・ミックスです。「PENNY LANE」と「BABY YOU'RE RICH MAN」と「ALL YOU NEED IS LOVE」の3曲も、米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」からですが、疑似ステレオ・ミックスです。アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」は、現在ではオリジナル・アルバムの様に扱われているものの、元々は米国編集盤で、英国ではシングルのみだった曲はモノラル・ミックスしかなくて、疑似ステレオ・ミックスで収録されたのです。「I AM THE WALRUS」は、キャピトル独自のシングル・モノラル・ミックスです。「PAPERBACK WRITER」と「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」の2曲は、1970年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「HEY JUDE」からのステレオ・ミックスで、「PAPERBACK WRITER」は左右のチャンネルが逆になっていて、「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」はエンディングでのフェイドアウトが早いミックスで、1988年の初CD化の時にはこちらが収録されていたのですけれど、2009年リマスター音源では、アナログ盤時代の最後のポールによるドラムスの音も大きく聴こえるミックスに戻っています。こう云う以前はレアだった音源が、逆に普通になる逆転現象があるのも「ミックス違い」の面白いところのひとつです。2017年からは、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルによるリミックスも行われているので、ミックス違いの泥沼の深さは増すばかりなのです。
(小島イコ)