
ビートルズの公式盤からレア音源を集めた「CASUALTIES」の拡大盤は、オリジナル盤の全15曲を収録してはいるものの、内容はほとんどがオリジナル盤とは別ミックスを収録しています。パイレート盤やブートレグにオリジナルも何もあったもんじゃないのですけれど、区別する為にそう呼んでおります。拡大盤の「CASUALTIES」はCD2枚組で、オリジナルと同じ全15曲の後に「extra tracks」として、44曲ものボーナス・トラックが収録されています。まずは、CD1には、オリジナル盤と同じ15曲の後に、16「TWIST AND SHOUT」、17「MISERY」、18「THERE'S A PLACE」、19「BOYS」、20「FROM ME TO YOU」、21「I SAW HER STANDING THERE」、22「THANK YOU GIRL」、23「DON'T BOTHER ME」、24「THIS BOY」、25「I WANNA BE YOUR MAN」、26「ROLL OVER BEETHOVEN」、27「I CALL YOUR NAME」、28「YOU CAN'T DO THAT」、29「I'LL GET YOU」、30「SHE LOVES YOU」の、15曲が収録されています。「TWIST AND SHOUT」は、1986年のジョン・ヒューズ監督・脚本の映画「FERRIS BUELLER'S DAY OFF(フェリスはある朝突然に)」からのステレオ・リミックスです。「MISERY」と「THERE'S A PLACE」は、1980年の米国キャピトル編集盤アルバム「RARITIES」からのステレオ・ミックスですが、米国キャピトル編集盤ではウッカリこの2曲が収録されていなかったから「RARITIES」に入っただけで、英国や日本などでは普通に聴けるミックスです。1970年の米国キャピトル編集盤アルバム「HEY JUDE」の最初の2曲(「CAN'T BUY ME LOVE」と「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」)みたいなもんです。
つづいて、「BOYS」と「I SAW HER STANDING THERE」と「I WANNA BE YOUR MAN」と「ROLL OVER BEETHOVEN」の4曲は、1976年の編集盤「ROCK'N'ROLL MUSIC」からの、サー・ジョージ・マーティンがノーギャラで行ったと云われている米国キャピトル盤でのステレオ・リミックスです。「FROM ME TO YOU」は、1963年の英国シングル盤のモノラル・ミックスです。「THANK YOU GIRL」と「I CALL YOUR NAME」と「YOU CAN'T DO THAT」の3曲は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「BEATLES' SECOND ALBUM」からのステレオ・ミックスです。「DON'T BOTHER ME」は、1964年のカナダ盤アルバム「MEET THE BEATLES」からのステレオ・ミックスで、ジョージ・ハリスンが歌い間違えたみたいな声が残ってしまったエラー・ミックスです。「THIS BOY」は、1977年の編集盤アルバム「LOVE SONGS」からの疑似ステレオ・リミックスです。「I'LL GET YOU」と「SHE LOVES YOU」は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「BEATLES' SECOND ALBUM」からの疑似ステレオ・ミックスです。そして、CD2は全29曲すべてが、公式盤CDでは聴けなかった別ミックスを集めています。ほとんど全てが米国キャピトル盤からのコピー音源で、キャピトルは水増しアルバムを量産していただけではなく、勝手にミックスも変えていたと分かります。その辺が、サー・ジョージ・マーティン曰く「ステレオ・ミックスの中には、私が関わっていないどころか、誰がやったのかすら知らないものもある」なのでしょう。
CD2の内容は、1「CAN'T BUY ME LOVE」、2「ANYTIME AT ALL」、3「WHEN I GET HOME」、4「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」、5「AND I LOVE HER」、6「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、7「I'LL BE BACK」、8「SHE'S A WOMAN」、9「I FEEL FINE」、10「ROCK AND ROLL MUSIC」、11「KANSAS CITY / HEY, HEY, HEY, HEY」、12「BAD BOY」、13「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」、14「DIZZY MISS LIZZY」、15「HELP!」、16「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」、17「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」、18「THINK FOR YOURSELF」、19「THE WORD」、20「MICHELLE」、21「GIRL」、22「I'M LOOKING THROUGH YOU」、23「IN MY LIFE」、24「PAPERBACK WRITER」、25「DR. ROBERT」、26「AND YOUR BIRD CAN SING」、27「PENNY LANE」、28「HEY JUDE」、29「BEATLES' MOVIE MEDLEY」の、全29曲入りで、CD2枚組で全59曲入りの大作です。パイレート盤やブートレグに大作も何もなくて、法の隙間を狙ったグレーゾーン商品にすぎないのですけれども、こうやってまとめてくれると、聴く方としても大枚をはたく必要もなくて、便利ではあります。
まず「CAN'T BUY ME LOVE」は、米国ユナイテッド・アーティスツのサントラ・ステレオ盤アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」からの疑似ステレオ・ミックスなのですけれど、そのサントラ盤のステレオ盤でのビートルズによる演奏曲は全てがコレと同じで、モノラル音源を左右にパンする奇怪なミックスです。「ANYTIME AT ALL」と「WHEN I GET HOME」の2曲は、1964年の米国キャピトル編集モノラル盤アルバム「SOMETHING NEW」からのモノラル・ミックスです。ドイツ語ヴァージョンの「KOMM, GIB MIE DEINE HAND」は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「SOMETHING NEW」からのステレオ・ミックスですが、スタッフか誰かの声が入っている「いい加減にしろよ」的なミックスです。「AND I LOVE HER」は、1964年の米国ユナイテッド・アーティスツのサントラ・モノラル盤アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」からのモノラル・ミックスで、ポールのヴォーカルがシングル・トラックです。「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」は、1982年の編集盤アルバム「REEL MUSIC」からのステレオ・リミックスです。「I'LL BE BACK」は、1964年の米国キャピトル編集モノラル盤アルバム「BEATLES ’65」からのモノラル・ミックスです。「SHE'S A WOMAN」と「I FEEL FINE」は、1964年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「BEATLES '65」からの疑似ステレオ・ミックスで、深いエコーがかけられています。
「ROCK AND ROLL MUSIC」と「KANSAS CITY / HEY, HEY, HEY, HEY」と「BAD BOY」と「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」と「DIZZY MISS LIZZY」の5曲は、1976年の編集盤アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国盤からのステレオ・リミックスで、このアルバムは前述の通り、サー・ジョージ・マーティンがノーギャラでリミックスしたのですけれど、それは米国キャピトル盤にしか使われず、英国や日本では元のステレオ・ミックスでした。英国EMIでは、ビートルズの音源に手を加えてはならないと云う決まりがあったのです。ところが、1980年に廉価盤がバラ売り(元々が2枚組だった)された時に、英国盤はチャッカリとリミックス音源に差し替えています。つまり、日本でだけサー・ジョージ・マーティンが「こんな音じゃ出せん!」と云ったミックスでしか販売されなかったのです。どちらにしろ、編集盤アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」は未CD化です。「HELP!」は、1965年の米国キャピトル・サントラ・ステレオ盤「HELP!」からのステレオ・ミックスで、イントロに「なんちゃってジェイムズ・ボンドのテーマ」が入っていますが、この米国盤ミックスは米国キャピトル盤の「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」にも収録されています。アナログ盤時代の「赤盤」と「青盤」は、他にも英国盤と米国盤でぞれぞれ別ミックスを収録していました。「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」は、1982年の編集盤アルバム「REEL MUSIC」からのステレオ・リミックスです。
「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」と「GIRL」と「IN MY LIFE」の3曲は、1977年の編集盤アルバム「LOVE SONGS」からの米国盤ステレオ・リミックスです。1987年にビートルズが初CD化された時に、サー・ジョージ・マーティンが1965年のアルバム「HELP!」とアルバム「RUBBER SOUL」をリミックスした(2009年ステレオ・リマスターもソレを元にしている)のですけれど、マーティンはそれ以前からその二つのアルバムの曲をリミックスしていたのです。「THINK FOR YOURSELF」は、1976年にEMIが勝手に出したジョージ・ハリスンのベスト・アルバム「THE BEST OF GEORGE HARRISON」からのステレオ・リミックスで、全体的にエコーがかかっているのですけれど、選曲ばかりかリミックスまで勝手にやられていたわけですなあ。「THE WORD」は、1965年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「RUBBER SOUL」からのステレオ・ミックスで、「MICHELLE」は同編集モノラル盤アルバム「RUBBER SOUL」からのエンディングが長いモノラル・ミックスです。「I'M LOOKING THROUGH YOU」は、1965年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「RUBBER SOUL」からの、イントロをトチるステレオ・ミックスです。「PAPERBACK WRITER」は、1973年のベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」の米国盤ステレオ・リミックスです。
「DR. ROBERT」と「AND YOUR BIRD CAN SING」の2曲は、1966年の米国キャピトル編集ステレオ盤アルバム「YESTERDAY AND TODAY」からのステレオ・ミックスです。「PENNY LANE」は1967年のキャピトル盤プロモ・シングルのモノラル・ミックスで、エンディングにトランペットが入っているヴァージョンですけれど、1980年の米国キャピトル編集盤「RARITIES」に収録されたステレオ・ミックスは、元々のステレオ・ミックスの最後にこのプロモ・モノラル・ミックスのトランペットを付け加えた「インチキ・ステレオ・ミックス」です。米国盤「RARITIES」には「I AM THE WALRUS」の新たに編集したステレオ・リミックスも入っていて、全く、キャピトルはワルですなあ。「HEY JUDE」は1982年の編集盤アルバム「20 GREATEST HITS」用に編集されたステレオ・ミックスで、5分余りでフェイドアウトするのですけれど、英国盤と米国盤で選曲が違うそのアルバムは、アナログ盤1枚に20曲も詰め込んだ為に、長い「HEY JUDE」を短縮しないと入りきらなくなってしまったのです。この短縮版を聴くと、やはり「HEY JUDE」は7分余りなければ盛り上がらないと分かります。最後の「BEATLES’ MOVIE MEDLEY」は、1982年のシングルで、公式盤では黒歴史化されていて未CD化音源です。と云うわけで、ガッツリと公式盤レア音源が全59曲も楽しめる拡大盤「CASUALTIES」は、ジャケットの裏に「ブッチャー・カヴァー」の別ショット(画像参照)が使われています。
(小島イコ)