
ビートルズの公式盤からレア音源を集めた、パイレート盤と云うか、ブートレグと云うか、判断に困るアルバムは、アナログ盤時代からありました。そんな中で有名なのが「CASUALTIES」です。あたくしは、1996年のCD1枚盤と、2013年のCD2枚組盤を持っていますけれど、ジャケットに「ブッチャー・カヴァー」を使っているのは同じですが、内容は大きく違っています。簡単に云えば、「ROALING MOUSE」から出ているCD1枚盤は、オリジナルのアナログ盤からの盤起こし全15曲入りで、「CHRONICLE REPRODUCTION」からのCD2枚組盤は全59曲入りの拡大盤です。拡大盤のCD1には、オリジナルの全15曲が収録されていて、その後に米国キャピトル盤を中心にした別ミックスが44曲もボーナス・トラックとして収録されているのです。が、しかし、オリジナルの全15曲も、実はミックス違いが多く含まれているので侮れません。オリジナルの内容は、1「PLEASE PLEASE ME」、2「I WANT TO HOLD YOUR HAND」、3「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、4「A HARD DAY'S NIGHT」、5「I'LL CRY INSTEAD」、6「TICKET TO RIDE」、7「YES IT IS」、8「DAY TRIPPER」、9「I'M ONLY SLEEPING」、10「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、11「I AM THE WALRUS」、12「ONLY A NORTHERN SONG」、13「REVOLUTION」、14「HER MAJESTY」、15「LET IT BE」の、全15曲です。
まず、最初の「PLEASE PLEASE ME」は、ジョンが歌詞を間違わない1963年のシングル・モノ・ミックスで、この曲はオリジナル盤も拡大盤も同じです。2曲目の「I WANT TO HOLD YOUR HAND」は、オリジナル盤では1966年のトゥルー・ステレオ・ミックスで、拡大盤では1964年のキャピトル盤ステレオ・アルバム「MEET THE BEATLES」の疑似ステレオ・ミックスです。3曲目の「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」は、オリジナル盤では1963年のモノラル・ミックスですが、拡大盤では1963年のカナダ盤「BEATLEMANIA!」からのステレオ・リミックスです。4曲目の「A HARD DAY'S NIGHT」は、オリジナル盤では1964年のトゥルー・ステレオ・ミックスですが、拡大盤では1964年の米国8トラック・テープからのモノラル・ミックスです。5曲目の「I'LL CRY INSTEAD」は、オリジナル盤では1964年のロング・ヴァージョンの疑似ステレオ・ミックスですが、拡大盤では1964年の米国ユナイテッド・アーティスツのサントラ盤からのロング・ヴァージョン・モノラル・ミックスです。6曲目の「TICKET TO RIDE」は、オリジナル盤では1965年のトゥルー・ステレオ・ミックスですが、拡大盤では1965年の米国キャピトルのサントラ・ステレオ盤からの疑似ステレオ・ミックスです。7曲目の「YES IT IS」は、オリジナル盤では1965年のモノラル・ミックスですが、拡大盤では1977年の編集アルバム「LOVE SONGS」からの疑似ステレオ・リミックスです。8曲目の「DAY TRIPPER」は、オリジナル盤では1965年の英国や日本では普通に聴けたステレオ・ミックスですが、拡大盤では1966年の米国キャピトル編集盤ステレオ・アルバム「YESTERDAY AND TODAY」からのステレオ・ミックスです。
つづけて、9曲目の「I'M ONLY SLEEPING」は、オリジナル盤ではフランス盤EPからのモノラル・ミックスですが、拡大盤では1966年の米国キャピトル編集盤ステレオ・アルバム「YESTERDAY AND TODAY」のステレオ・ミックスです。10曲目の「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、オリジナル盤も拡大盤でも1967年のステレオ・ミックスですが、前者は英国や日本でのステレオ・ミックスで、後者は米国でのステレオ・ミックスです。11曲目の「I AM THE WALRUS」は、オリジナル盤では1967年のベーシック・トラックのみのモノラル・ミックスですが、拡大盤では1980年の米国キャピトル編集盤ステレオ・アルバム「RARITIES」での編集ステレオ・ミックスです。12曲目の「ONLY A NORTHERN SONG」は、オリジナル盤では1967年のモノラル・ミックスですが、拡大盤では1996年のアルバム「ANTHOLOGY 2」からのステレオ・ミックスです。13曲目の「REVOLUTION」は、オリジナル盤では1968年のモノラル・ミックスですが、拡大盤では1976年の編集盤アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」からのステレオ・リミックスです。14曲目の「HER MAJESTY」は、オリジナル盤も拡大盤も同じ1969年の最後が切れないで完奏しているモノラル・ミックスです。15曲目の「LET IT BE」は、オリジナル盤でも拡大盤でも同じ1970年の「日本盤シングル」盤起こしニセ・モノラル・ミックスです。1枚盤には16曲目に1968年の「DEAR PRUDENCE」のモノラル・ミックスがシークレット・トラックとして収録されていて、曲がフェイドアウトしながら完奏していて、最後にスタジオ・トークが入っています。
この様に、アルバム「CASUALTIES」は、オリジナル盤と拡大盤では内容が大きく異なっています。それは何故なのかと云うと、ズバリ云ってオリジナルの「CASUALTIES」は米国向けだったので、米国キャピトル盤では聴けない音源を集めていたわけです。故に、例えば「I'M ONLY SLEEPING」や「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」のステレオ・ミックスは、英国や日本などでは普通に聴けたミックスが収録されているわけで、米国では「レア」でも英国や日本では「普通」だったのです。そこで、拡大盤は逆に米国キャピトル盤でしか聴けなかったミックスに差し替えているのです。おそらく、拡大盤の選曲や制作は、日本で行われたのでしょう。拡大盤の正式なタイトルは「CASUALTIES capitol masters expanded edition」となっていて、本編全15曲の後につづく44曲に関しても、その大部分はキャピトル盤音源からコピーしています。米国キャピトル盤は、2004年と2006年に箱の「THE CAPITOL ALBUMS」が出ていて、公式盤CDでも聴ける様にはなったのですけれど、ソレは途中の8作目までで終わっていて、其の後の2014年に箱の「THE U.S. ALBUMS」が出たものの、中味のほとんどを2009年リマスター音源に差し替えてしまったので、例えば編集盤アルバム「YESTERDAY AND TODAY」収録曲の別ミックスは公式盤CDでは聴けません。近年では、ビートルズのミックス違いに関しては研究が進んでいて、ファンの多くは常識として知っているので、ソレをお手軽にまとめたこうしたパイレート盤のニーズはあります。(つづく)
(小島イコ)