
ビートルズの全213曲は、1987年から1988年にかけて初CD化されて、その時に1963年のデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」から1964年の4作目のアルバム「BEATLES FOR SALE」まではモノラルで、1965年の5作目のアルバム「HELP!」と6作目のアルバム「RUBBER SOUL」はサー・ジョージ・マーティンがリミックスしたステレオで、1966年の7作目のアルバム「REVOLVER」から1970年の13作目のアルバム「LET IT BE」まではステレオで、更にシングルのみだった曲はアルバム「PAST MASTERS」に基本的にはステレオで収録されました。それだけなら良いのですけれど、その全213曲は初CD化音源に全世界統一されてしまったのです。英国オリジナルではシングルは1968年の「HEY JUDE / REVOLUTION」まではモノラルだったし、アルバムは1968年の「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」まではモノラルとステレオの両方がリリースされていて、それだけでも色々なミックス違いがあります。更に、1960年代には各国で勝手にアルバムをリリースしていて、特に米国キャピトルでは水増しアルバムを乱発していて、好き勝手に独自のミックスをしていたのですけれど、それらは全てが「なかった事」にされたのです。英国盤のベスト・アルバムやコンピレーション・アルバムなども、その多くがCD化はされていません。
公式盤CDが全世界統一規格となったので、それらのミックス違い音源はブートレグ業者の餌食となりました。本来ならば公式盤で普通に聴けていた音源が、ブートレグでしか聴けない貴重音源になってしまったのです。アナログ盤からのコピーなので、つまりはブートレグではなくパイレート盤なのですけれど、肝心な公式盤がCD化されなかったので、大量な「レアリティーズ」が一瞬にして出来上がってしまったのです。ブートレグ業者は、笑いが止まらなかったでしょう。そんな中から、今回は「THE GOLDEN ANALOG EXPERIENCE」を紹介します。このブートレグは、未発表音源を収録したものではなく、公式のアナログ盤からコピーしたパイレート盤の範疇に入る音源集です。CD3枚組で、CD1は、1963年の英国盤アルバム「WITH THE BEATLES」と、1964年の日本盤アルバム「ビートルズ!」の「2in1」です。CD2は、1964年の日本盤アルバム「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」と、1965年の日本盤アルバム「4人はアイドル」の「2in1」です。CD3は、1965年の英国盤アルバム「RUBBER SOUL」と、1966年の英国盤アルバム「REVOLVER」の「2in1」です。つまり、CD3枚組にアナログ盤6枚をそのまんまコピーしただけのパイレート盤なのです。それの何が一体貴重なのかと云うとですね、CD化で全世界統一規格になった音源とは違っているからなのです。アナログ盤の雰囲気を損なわれない様に、曲間のスクラッチ・ノイズなどもそのまんま修正せずに入っています。
まず、CD1の最初のアルバム「WITH THE BEATLES」全14曲は、所謂ひとつの「ラウド・カット」と呼ばれているモノラル初回盤のコピーです。音圧を上げ過ぎて、針飛びの原因になるとクレームがついて、カッティングし直したわけですけれど、その前にごく少数出回った貴重な「ラウド・カット」を聴く事が出来ます。次は日本でのデビュー・アルバム「ビートルズ!」全14曲で、これは日本独自の選曲で元々がモノラル盤しか出ていません。これは、赤いテスト盤からのコピーです。CD2は、日本盤アルバム「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(A HARD DAY'S NIGHT)」全13曲と、日本盤アルバム「4人はアイドル(HELP!)」全14曲です。どちらも英国盤と同じ内容ですが、日本ではステレオ盤のみのリリースで、やはり赤いテスト盤からコピーした音源です。CD3は、まずは英国盤アルバム「RUBBER SOUL」全14曲で、アルバム「WITH THE BEATLES」同様に、ごく僅か出回ってしまった初回モノラル「ラウド・カット」盤からのコピーです。またしてもレベル・オーバーしてカッティングをやり直していたわけで、懲りないですなあ。最後は英国盤アルバム「REVOLVER」全14曲の初回モノラル盤からのコピーなのですけれど、これはですね、最後に収録されている「TOMORROW NEVER KNOWS」の別ミックス・ヴァージョンを間違えて収録してしまった盤が、ごく少数出回ってしまったのです。
この「TOMORROW NEVER KNOWS」の別ミックス・ヴァージョンは、2022年にリリースされた公式盤のアルバム「REVOLVER」の箱に収録されたので、現在では珍しくはありません。この3枚組CDは、あたくしは1800円位で中古で買ったのですけれど、オリジナルのアナログ盤はプレミアが付き捲りなので、雰囲気だけ味わうにはお手軽でよろしいのではないでしょうか。特に「WITH THE BEATLES」と「RUBBER SOUL」の「ラウド・カット」盤に関しては、盤起こしのこのCDでも充分にデカイ音は楽しめます。個人的には、最近はほとんどアナログ盤を聴く事はない(一応、プレイヤーは持ってはいる)ので、これがあればいいかな、って感じです。いや、そこはやっぱり大枚をはたいて、オリジナルの「ラウド・カット」盤を聴かなければ、本当に聴いた事にはならない、なんて当たり前田のクラッシャー・バンバン・ビガロな事を云われたなら、そりゃあ、そうでしょう、とやんわりと返すしかありませんなあ。アルバム「REVOLVER」のモノラル盤に関しては、現在では公式盤CDでも聴ける様になったし、そもそも「TOMORROW NEVER KNOWS」の別ミックス・ヴァージョン以外は普通のモノラル盤と違わないのです。逆に、日本盤のアルバム「ビートルズ!」は、箱で出たのが2009年リマスター音源に差し替えられているので、こっちの方が貴重と云えば貴重です。まあ、その辺に関しては別のブートレグと云うかパイレート盤も出ているので、追々紹介してゆきます。この「CONTRA BAND MUSIC」からリリースされた「THE GOLDEN ANALOG EXPERIENCE」は、以前は緑色のジャケットで出ていて、後に白いジャケットに変えられていますけれど、内容は同じです。
(小島イコ)