
1980年12月8日にジョン・レノンは射殺されて、1980年11月17日にゲフィンからリリースされたオノ・ヨーコさんとの共作アルバム「DOUBLE FANTASY」が遺作となりました。その後、ジョンが遺した未発表音源が発掘されてリリースされる様になって、まずは、1984年1月19日(米国)・同年1月27日(英国)に、ヨーコさんとの共作にした「MILK AND HONEY」がポリドールからリリースされて、ジョンの「I'M STEPPING OUT」、「I DON'T WANNA FACE IT」、「NOBODY TOLD ME」、「BORROWED TIME」、「(FORGIVE ME)MY LITTLE FLOWER PRINCESS」、「GROW OLD WITH ME」の6曲が蔵出しされたのですけれど、それらは全てがリハーサル音源やデモ音源でした。そして、ジョンのレコードは古巣のEMI・キャピトルへと戻されて、1990年代後半には、アルバム「DOUBLE FANTASY」も遺稿集「MILK AND HONEY」もEMI・キャピトルへと移っています。1986年1月24日(米国・キャピトル)・同年2月24日(英国・EMI/パーロフォン)には、ライヴ・アルバム「LIVE IN NEW YORK CITY」がリリースされていて、それは1972年8月30日にマディソン・スクエア・ガーデンで行われた「ワン・トゥ・ワン・コンサート」でのライヴ音源なのですけれど、映像版ではヨーコさんが歌う曲や、ヨーコさんの奇声が入っていたものの、レコード盤ではヨーコさんの意向でそれらがカットされていて、ジョンのソロ・ライヴ仕様になっています。
そのライヴ・アルバムでジョンのソロとしての初出楽曲は、ビートルズの「COME TOGETHER」と、エルヴィス・プレスリーによるヴァージョンが有名な「HOUND DOG」の2曲です。ライヴ音源としては、1974年11月28日のマディソン・スクエア・ガーデンでジョンがエルトン・ジョンと共演した3曲(「LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS」、「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT」、「I SAW HER STANDING THERE」)もありますが、「I SAW HER STANDING THERE」は1975年2月にエルトン・ジョンがシングル「PHILADELPHIA FREEDOM」のB面に収録して、1981年3月には3曲全てを収録したEPをリリースしています。これらの5曲は、全てが1990年10月リリースの箱「LENNON」に収録されています。その箱には、1984年のヨーコさんのトリビュート盤に収録された「EVERY MAN HAS A WOMAN WHO LOVES HIM」や、アルバム「DOUBLE FANTASY」と遺稿集「MILK AND HONEY」のジョンの13曲が全て収録されています。1986年11月30日(米国・キャピトル)・同年11月3日(英国・EMI/パーロフォン)には、未発表音源集「MENLOVE AVE.」がリリースされていて、アナログ盤のB面は1974年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」のリハーサル音源ですが、A面には1973年のフィル・スペクターとのセッションから「HERE WE GO AGAIN」、「ANGEL BABY」、「SINCE MY BABY LEFT ME」、「TO KNOW HER IS TO LOVE HER」の4曲と、1973年のアルバム「MIND GAMES」のアウトテイク「ROCK AND ROLL PEOPLE」を加えた未発表曲5曲が蔵出しされました。
1988年10月8日リリースのサントラ盤「IMAGINE」では、「IMAGINE」のリハーサル音源と、未発表曲「REAL LOVE」が収録されて、「REAL LOVE」は後にビートルズ名義でリリースされます。1990年10月には前述したCD4枚組全73曲入りの箱「LENNON」がリリースされて、初出音源はないものの、ライヴ・アルバム「LIVE PEACE IN TORONT 1969」からの4曲(「BLUE SUEDE SHOES」、「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」、「DIZZY MISS LIZZY」、「YER BLUES」)は、初CD化でした。1988年から1992年にかけては、ラジオ番組「THE LOST LENNON TAPES」が放送されて、1998年11月にその一部(と云ってもCD4枚組全94トラック)の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」がキャピトルからリリースされました。これはジョンが遺した膨大なデモ音源やリハーサル音源やライヴ音源などを収めた箱で、ほとんど全てが公式盤としては初収録されています。但し、多くの曲はスタジオ・レコーディングされた完成形が発表されている楽曲で、完全な未発表曲はそれほど多くはありません。CD4枚はそれぞれ副題が付いていて、ほぼ年代順に並べられています。まず、CD1「ASCOT」は、1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と、1971年のアルバム「IMAGINE」でのアウトテイクが中心で、未発表曲としては「LONG LOST JOHN」だけですけれど、1972年のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」でフランク・ザッパと共演したライヴ・ヴァージョンが収録されていた「WELL(BABY PLEASE DON'T GO)」のスタジオ・ヴァージョンや、シングル「GOD SAVE US」のジョンが歌った「GOD SAVE OZ」とB面の「DO THE OZ」が珍しい音源です。
CD2「NEW YORK CITY」は、1972年のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」と、1973年のアルバム「MIND GAMES」でのアウトテイクが中心です。完全な未発表音源としては、1973年にリンゴ・スターに提供した「I'M THE GREATEST」と、1974年にやはりリンゴに提供した「GOODNIGHT VIENNA」のジョンが歌ったヴァージョンと、後にビートルズ名義でリリースされる「REAL LOVE」のサントラ盤「IMAGINE」とは別のデモ音源位しかありませんが、多くの曲のデモ音源やライヴ音源が聴けます。CD3「THE LOST WEEKEND」は、ジョンがヨーコさんと別居中だった、1974年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」と、1975年のカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」のアウトテイクが中心です。完全な公式盤での未発表曲は、ロネッツの「BE MY BABY」のカヴァー位で、ビートルズの「YESTERDAY」や、ジーン・ヴインセントの「AIN'T SHE SWEET」もリストにはありますが、どちらも30秒ほどのおふざけヴァージョンです。3トラックも入っている「PHIL AND JOHN」は、スタジオで喧嘩腰で会話するフィル・スペクターとジョンで、曲ではありません。後は、「I'M LOSING YOU」の元になった「STRANGER'S ROOM」も収録されています。CD4「DAKOTA」は、1976年から1980年までのデモ音源やアウトテイクで、アルバム「DOUBLE FANTASY」と遺稿集「MILK AND HONEY」のアウトテイクが多いわけですけれど、他にも正式にはレコーディングされなかった楽曲も多く収録されています。「GROW OLD WITH ME」は、サー・ジョージ・マーティンがストリングスを加えたヴァージョンになっています。
未発表曲は、ボブ・ディランが改宗した事を攻撃した「SAVE YOURSELF」、「(JUST LIKE)STARTING OVER」に発展する「MY LIFE」、リンゴに提供する予定だった「LIFE BEGINS AT 40」(「NOBODY TOLD ME」もリンゴへ提供するはずだった)、ジョージ・ハリスンが自伝でジョンに関してほとんどスルーした事に腹を立てて書いた「THE RISH KESH SONG」、ショーンくん用に書いたと思われる「MR. HYDE'S GONE(Don't Be Afraid)」、何故かここに入っている1974年にリンゴへ譲った「ONLY YOU(AND YOU ALONE)」のジョンによるカヴァー・ヴァージョン、自分自身に歌いかけた「DEAR JOHN」、更にラジオ番組みたいな寸劇風の「THE GREAT WOK」、1974年にハリー・ニルソンに書いた「MUCHO MUNGO」、ディランのモノマネみたいな「SATIRE」3テイク、ギターと口笛の「IT'S REAL」と、この「DAKOTA」が圧倒的に多いのです。それは、つまり、ジョンが亡くなってしまったので、正式にはレコーディングされなかったからなのです。その後、2000年10月にリリースされたアルバム「DOUBLE FANTASY」のリマスター盤には、「WATCING THE WHEELS」の原曲である「HELP ME TO HELP MYSELF」が収録されました。そして、2004年11月にリリースされたアルバム「ACOUSTIC」には、ジョンがギターの弾き語りでのデモ音源がまとめられたのですけれど、全16曲中半数以上の9曲が箱の「JOHN LENNON ANTHOLOGY」とダブっていますし、未発表曲はありません。2010年10月リリースのCD11枚組の箱「JOHN LENNON SIGNATURE BOX」に収録された「HOME TAPES」には、ビートルズもカヴァーしたカール・パーキンスのカヴァー「HONEY DON'T」と、未発表曲「ONE OF THE BOYS」と「INDIA, INDIA」が収録されています。2018年以降は「なんちゃってリミックス」が主流となりますが、ジョンには例えば「WHATEVER HAPPENED TO」の様な優れた未発表曲がまだまだあるので、そっちを発掘して欲しいものですなあ。
(小島イコ)