
CD3枚組のアルバム「Complete NIAGARA SONG BOOK」は、「NIAGARA FALL OF SOUND ORCHESTRAL」名義となっている通りに、インストゥルメンタル・アルバムです。その辺の事情を知らない若いファンが、ベスト・アルバムである「B-EACH TIME L-ONG 40th Anniversary Edition」と間違えて「こっちは3枚組で曲も多いから」と買ってしまったら、いつまで経っても大滝詠一さんの歌が始まらなくて、CD3でようやく出て来たと思ったらラジオ番組のDJだけと云う結果になって「金返せ!」となるのではないかと、老婆心ながら心配してしまいます。前回で大まかに説明しましたけれど、今回のCD2には、オリジナルのアルバム「NIAGARA SONG BOOK」と「NIAGARA SONG BOOK 2」の、全20トラック19曲が「2 in 1」で丸ごと収録されていて、それに関しては文句はございません。何だ、CD1枚に両方入るんだったら、前からそうしてくれよ、なんて事は云いません。2作はレコーディング方法も違っていたし、大瀧師匠は「NIAGARA SONG BOOK」は改訂して30周年記念盤をリリースしたものの、ほとんど全てがアルバム「EACH TIME」からだった「NIAGARA SONG BOOK 2」は30周年記念盤を出さなかったので、単体としては1991年3月21日以来でのリイシューは有難いですよ。2015年3月21日の箱「NIAGARA CD BOOK II」に収録されていたとは云え、箱まで買うのはディープなファンとナイアガラーだけなので、こうして単品でリイシューされたのは喜ばしい事なのです。
そう云えば、2011年3月21日に、大瀧師匠が存命中に箱の「NIAGARA CD BOOK I」をリリースしていて、ラジオ番組でタツローこと山下達郎さんが、大瀧師匠に「僕、予約しました」と云って、大瀧師匠が驚いて「差し上げますよ」と返して、タツローが「いや、僕は見本盤のシールが嫌いなので買います」と応えていて、何せ「NIAGARA CD BOOK I」はエレックとコロムビア時代のナイアガラのアルバムをまとめた箱だったので、当然ながらタツローもSUGAR BABEやソロ曲などで大いに関わっていたのに、大瀧師匠の作品として、普通に予約して買うんだ、と驚いたもんです。さて、問題のアルバム「Complete NIAGARA SONG BOOK」のCD1は、「NIAGARA SONG BOOK 3」と題されていて、新作と云う触れ込みです。内容は、1「Niagara Moon」、2「白い港」、3「Dream Boy」、4「ガラスの入江」、5「Tシャツに口紅」、6「Bachelor Girl」、7「うれしい予感」、8「幸せな結末」、9「恋するふたり」、10「Niagara Moon(Reprise)」の、全10トラック9曲入りです。ざっと見てお分かりの通り、これらは寄せ集め音源です。アレンジャーは井上鑑さんですけれど、1曲目と最後の「Niagara Moon」だけは、教授こと坂本龍一さんがアレンジして指揮しています。これらの楽曲では「白い港」と「Bachelor Girl」は、1989年6月1日にリイシューされたアルバム「NIAGARA SONG BOOK 2」で差し替えられた2曲ですし、「幸せな結末」と「恋するふたり」は、2013年3月21日にリリースされた「NIAGARA SONG BOOK 30th Edition」でボーナス・トラックとして加えられた2曲です。
更に「Dream Boy」と「ガラスの入江」は、2020年3月21日にリリースされてしまった、ナイアガラ史上最低最悪なアルバム「Happy Ending」に収録されていた、NIAGARA FALL OF SOUND ORCHESTRAL名義での楽曲から、大滝詠一さんの鼻歌の様なヴォイスを抜いただけの音源でしょう。「うれしい予感」のインストゥルメンタルも、1996年3月21日に市販されたコンピレーション・アルバム「SNOW TIME」に収録されていました。「Niagara Moon」は、おそらく1976年2月24日にアルバム「NIAGARA TRIANGLE VOL.1」のプロモーション・フィルムを撮影した時の音源で、2015年7月29日にリリースされた「NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-」に収録された音源と元は同じでしょう。となると、完全なる初出音源は「Tシャツに口紅」だけとなり、何となく「Tシャツに口紅」もどこかで聴いた気もしてきます。つまり、ほとんどが既出音源の寄せ集めで、曲順も何だかよく分からないものなのです。これをメインで出されてもなあ、と思うしかない薄っぺらい内容です。そして、CD3ですけど、「NIAGARA SONG BOOK RARITIES」と題されていて、インストゥルメンタルでの「てぬぐいバージョン」(伴奏部分のみのストリングス)と「アカペラバージョン」(主旋律のみのストリングス)が並んでいて、楽曲は全てが本編である「NIAGARA SONG BOOK」と「NIAGARA SONG BOOK 2」と「NIAGARA SONG BOOK 3」の何れかに収録された楽曲から何かを抜いたヴァージョンです。アカペラとか書いてあるから、大滝詠一さんのコーラスでも聴けるのか、と期待しても失望の母ですよ。そして、このアルバムで最も面白いのが「スピーチ・バルーン」からの大瀧師匠のDJです。ナイアガラのインストゥルメンタル曲の歴史を嬉々として語る大瀧師匠(多羅尾伴内・名義)の語りは、素晴らしいですなあ。結局、ラジオ番組が一番楽しいんですよ。コレが入っていなかったなら、金返せ!と云いたくなる様な内容でした。
(小島イコ)