
ジョン・レノンが、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースした、5作目で最後のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」から、1975年3月10日(米国)・同年4月18日(英国)に「STAND BY ME」がシングル・カットされて、全米20位・全英30位のヒット曲となりました。ところが、その「STAND BY ME」をA面にしたシングルのB面は、ジョンのオリジナル曲「MOVE OVER MS. L.(ようこそレノン夫人)」で、アルバム未収録曲なのです。この楽曲は、ストレートなロックンロールで、1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にリリースされた、ジョンの4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」に収録予定で、一旦は完成していて、曲順も決められていて、B面に「SURPRISE, SURPRISE(SWEET BIRD OF PARADOX)(予期せぬ驚き)」と「WHAT YOU GOT」の間に入る予定だったのですけれど、結局はジョンがアルバムから外して、「WHAT YOU GOT」はA面に回されたのです。そして、ジョンは1974年10月21日から25日にかけてのアルバム「ROCK'N'ROLL」の再レコーディング・セッションで、再びこの「MOVE OVER MS. L.」をレコーディングしていて、それがシングル「STAND BY ME」のB面になったわけです。
が、しかし、話はそれで終わらず、ジョンがアルバム「WALLS AND BRIDGES」のレコーディング・セッションで完成させたヴァージョン、もしくは再レコーディングした音源のラフ・ミックスを、キース・ムーンへの提供曲としてデモ音源で渡していて、キース・ムーンは1975年3月にリリースしたソロ・アルバム「TWO SIDES OF THE MOON」に収録しているのです。そして、キース・ムーンは、シングル「SOLID GOLD」のB面として「MOVE OVER MS. L.」をシングル・カットまでしているのです。リリース時期が被っているので、この曲は「ジョンがキース・ムーンへの提供曲をセルフ・カヴァーした」もしくは「ジョンのシングルB面曲をキース・ムーンがカヴァーした」と、どちらとも取れる楽曲となっています。ジョンのヴァージョンのレコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、エレクトリック・ギター)、ジェシ・エド・デイヴィス(エレクトリック・ギター)、エディ・モトー(アコースティック・ギター)、ケン・アッシャー(ピアノ)、クラウス・フォアマン(ベース)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、ジム・ケルトナー(ドラムス)に、ホーン・セクションが参加しています。ジェシ・エド・デイヴィスは、キース・ムーンのヴァージョンにも参加しています。楽曲は、モロにチャック・ベリー・スタイルで、よくモーリス・レヴィに訴えられなかったですなあ。ビートルズの「COME TOGETHER」よりも、ずっとチャック・ベリーに似ています。
そして、この「MOVE OVER MS. L.」はアルバム未収録曲で、生前のジョンが編集したシングル集「SHAVED FISH」にも収録されていません。死後の1982年にリリースされたベスト盤「THE JOHN LENNON COLLECTION」のアナログ盤にも収録されておらず、1989年にCD化された際に収録されて聴ける様になりました。ところが、その後のベスト盤には一切収録されておらず、オリジナル・ヴァージョンはその1989年のCD盤「THE JOHN LENNON COLLECTION」でしか聴けなかったのです。1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」には、アルバム「WALLS AND BRIDGES」でのレコーディング・ヴァージョンが収録されていて、そちらにはホーン・セクションが入っていません。2025年の現在、この曲のオリジナル・ヴァージョンが聴けるのは「THE JOHN LENNON COLLECTION」と、2010年にリリースされた大箱「JOHN LENNON SIGNATURE BOX」に収録されているシングル集「SINGLES」だけです。つまり、お手軽な1枚モノのCDではリマスターもされていない「THE JOHN LENNON COLLECTION」でしか聴けず、リマスター音源をCDで聴くには高価な大箱を買うしかないのです。シングル「STAND BY ME」を買ってB面のこの曲も愛聴していたので、ショーンくん、何とかなりませんかねえ。なんて云うと、また厄介なカタチでボーナス・トラックにされそうで、それもまた困ったちゃんなのですけれどねえ。
(小島イコ)