
ジョン・レノンが、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースした、5作目で最後のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」は、全編がロックンロール・クラシックスのカヴァーで構成されています。元々は、ビートルズが1969年にリリースしたジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品「COME TOGETHER」が、チャック・ベリーの「YOU CAN'T CATCH ME」の盗作だと版権を持つモーリス・レヴィに訴えられて、裁判沙汰にせずに、ジョンにモーリス・レヴィが版権を持つ楽曲から3曲カヴァーさせる条件で示談する事となったのです。それで、前にも書いたのですけれど、確かに「COME TOGETHER」を書いたのはジョンですが、作者は「レノン=マッカートニー」なのに、何故にポール・マッカートニーは蚊帳の外だったのでしょうか。ポールは「COME TOGETHER」に関して、ジョンが書いた時に「YOU CAN'T CATCH ME」に似ているからヤバイよと忠告したとか、ジョンが書いた時はテンポが速くてチャック・ベリー・スタイルの曲だったから、元ネタがバレない様にスローテンポにアレンジしたよ、とか呑気な事を云っています。挙句の果てに、ジョンがアルバム「ROCK'N'ROLL」でバディ・ホリーの「PEGGY SUE」もカヴァーしているので、バディ・ホリーの版権を持つポールも、チャッカリと印税で儲けています。
そんな天然バカボンなポールは、後にマイケル・ジャクソンに版権ビジネスを教えて、マイケルに「レノン=マッカートニー」の版権を買われてしまうのです。マイケルは「COME TOGETHER」をカヴァーしていますが、亡くなったジョンの代わりに自分を加えて「ビートルズ再結成」まで企んでいたらしく、流石にソレは却下されました。話を戻すと、ジョンはアルバム「ROCK'N'ROLL」で、モーリス・レヴィが版権を持つ3曲をカヴァーしていて、その内の2曲はチャック・ベリーの「YOU CAN'T CATCH ME」と「SWEET LITTLE SIXTEEN」です。そして、もう1曲が「YA YA」で、この「YA YA」は、ジョンが1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」の最後に、ジョンと当時11歳だったジュリアン・レノンとの親子共演でお遊びトラックとして、既にカヴァーしていました。モーリス・レヴィとしては、自分が版権を持つ楽曲をジョンにカヴァーさせて、あわよくばシングル・カットもさせて儲けようと企んでいたでしょうから、そんなお遊びトラックにされたのでは困ったちゃんだし、そもそも3曲のはずが1曲しかカヴァーされていない事に激怒したのです。それで、ジョンはアルバム「ROCK'N'ROLL」で、再び「YA YA」も取り上げたわけです。
アルバム「ROCK'N'ROLL」ではB面5曲目に収録された「YA YA」は、ブートレグの「ROOTS」ではB面6曲目に収録されていて、最後から2番目と云う位置は同じです。ブートレグ「ROOTS」では、「YA YA」の前にロネッツの「BE MY BABY」が収録されています。「YA YA」のオリジナルは、1961年2月にリリースされたリー・ドーシーなのですけれど、作者は、リー・ドーシー、C.L.ブラスト、ボビー・ロビンソン、モーリス・レヴィの4人です。つまり、この曲はモーリス・レヴィが作者として関わっているわけです。リー・ドーシーによるオリジナル・ヴァージョンは、全米7位(R&Bチャート首位!)の大ヒット曲で、1973年の映画「アメリカン・グラフィティ」のサントラ盤にも収録されています。音源としては遺っていないものの、ビートルズ時代にもジョンのリード・ヴォーカルでハンブルク時代によく演奏していた楽曲です。ビートルズが1961年にトニー・シェリダンのバック・バンドを務めた時の音源を含むアルバムには、トニー・シェリダンが歌う「YA YA」が収録されていますが、バック・バンドはビートルズではありません。ジョンによる2度目のカヴァー・ヴァージョンは、1974年10月のアルバム「ROCK'N'ROLL」の再レコーディング・セッションの音源で、こっちはマジメにカヴァーしています。日本などでアルバム「ROCK'N'ROLL」から第2弾シングル・カットされた「BE-BOP-A-LULA」のB面にもなっているのは、モーリス・レヴィへの配慮もあったのでしょう。
(小島イコ)