
ジョン・レノンが、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースした、5作目で最後のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」には、二つのメドレーが収録されています。一つ目は、A面3曲目に収録された「RIP IT UP / READY TEDDY」で、それはリトル・リチャードが1956年6月にリリースしたシングルのA面とB面の2曲を繋げたものでした。そして、もう一つのメドレーが、公式盤「ROCK'N'ROLL」ではB面3曲目に収録された「BRING IT ON HOME TO ME / SEND ME SOME LOVIN'」です。ちなみに、ブートレグの「ROOTS」でもB面3曲目にメドレーが収録されていますが、曲目表記は「BRING IT ON HOME TO ME」だけになっています。このメドレーも、1974年10月の再レコーディング・セッションでの音源です。ジョンによるカヴァーは、「RIP IT UP / READY TEDDY」とは違っていて、こちらでは異なるミュージシャンによる楽曲を繋げて演奏しています。まず、最初に演奏されている「BRING IT ON HOME TO ME」は、1962年5月8日にリリースされたサム・クックのシングルA面(B面は「HAVING A PARTY(パーティを開こう)」がオリジナルです。1962年と云えば、10月5日にビートルズがシングル「LOVE ME DO」でデビューした年で、翌1963年3月22日にビートルズのデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」をリリースしています。
ビートルズのデビュー・アルバムでも、同時代の楽曲をカヴァーしていて、ロックンロール・クラシックスのカヴァーだけではなかったし、ガールズ・グループやモータウン系まで手広くカヴァーしていました。「BRING IT ON HOME TO ME」は、サム・クックが書いて歌っていて、全米13位まで上がっています。その後、アニマルズ(1965年、邦題「悲しき叫び」)や、ゾンビーズ(1965年、ビートルズもカヴァーしたミラクルズの「YOU’VE REALLY GOT A HOLD ON ME」とメドレー)や、ソニー&シェール(1966年)や、エディ・フロイド(1968年)や、ウィルソン・ピケット(1968年)や、アレサ・フランクリン(1969年)や、ルー・ロウルズ(1970年)や、ロッド・スチュワート(1974年)や、ヴァン・モリソン(1974年)や、デイヴ・メイスン(1974年)など、多くのミュージシャンにカヴァーされています。そして、ポール・マッカートニーも1988年のカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」で取り上げていて、ポールは2006年にジョージ・ベンソンとアル・ジャロウと共演で再び取り上げています。ジョンにとっても、ポールにとっても、愛すべき楽曲なのでしょう。ジョンによるカヴァー・ヴァージョンでは、珍しくクラウス・フォアマンによる「合いの手ヴォーカル」が聴けます。サム・クックは、1964年12月11日に、不可解な正当防衛によって33歳の若さで射殺されています。
ジョンがメドレーにした後半の「SEND ME SOME LOVIN'(愛しておくれ)」は、リトル・リチャードが1957年2月にリリースしたシングルのB面がオリジナルで、作者はジョン・マラスカルコとレオ・プライスです。そのシングルのA面は、ビートルズがポールのリード・ヴォーカルでカヴァーしていた「LUCILLE」です。この楽曲もカヴァーが多く、バディ・ホリー&ザ・クリケッツ(1957年)、ブレンダ・リー(1962年)、ジーン・ヴィンセント(1964年)、スティーヴィー・ワンダー(1967年)、ハンク・ウィリアムズ・ジュニア(1972年)、オーティス・レディング(死後の1992年に発掘)、などがレコーディングしています。サム・クックもカヴァーしていて、1963年に全米13位まで上がっているので、ジョンはサム・クックが歌った楽曲をメドレーにしたのでしょう。ところで、この「SEND ME SOME LOVIN'」なんですけれど、典型的なリズム&ブルース調の楽曲ではあるものの、展開がビートルズが1969年にリリースしたアルバム「ABBEY ROAD」に収録した、ポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作の「OH! DARLING」にソックリなんですよ。ポールには「LONG TALL SALLY(のっぽのサリー)」を「I'M DOWN」にしたり、「THE GIRL CAN'T HELP IT(女はそれを我慢できない)」を「BIRTHDAY」にしたりと、リトル・リチャードの曲から頂戴する前科があり捲りなので、やらかしたのでしょうなあ。元々「COME TOGETHER」の盗作疑惑から始まったアルバム「ROCK'N'ROLL」は、ビートルズの元ネタの宝庫でもあるのです。
(小島イコ)