
1973年8月に公開された、ジョージ・ルーカス監督の映画「アメリカン・グラフィティ」は大ヒットしましたが、1962年が舞台だった映画に挿入歌として多くのオールディーズ・ナンバーが使われていて、それらをまとめたサントラ盤も大ヒットしました。映画のエンディングではビーチ・ボーイズの1964年のアルバムタイトル曲「ALL SUMMER LONG」が使われていて、翌1974年6月24日にリリースされたビーチ・ボーイズの初期作品を集めたベスト盤「ENDLESS SUMMER」が全米首位!を獲得して、ビーチ・ボーイズ・リヴァイバルが巻き起こったのです。当時のビーチ・ボーイズは、1967年に頓挫したアルバム「SMILE」からブライアン・ウィルソンがパッパラパーになってしまい、新作アルバムは苦戦していたのですけれど、10年前の音源を集めたベスト盤で復活したのでした。ジョン・レノンの5作目のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」は、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースしていますけれど、当初の予定では1973年10月から12月にかけてのフィル・スペクターとのセッションでレコーディングして、1974年の春にはリリース予定だったわけで、ジョンはどこまで本気なのか分かりませんけれど「オールディーズ・ブームに乗り遅れた」と語っております。
映画「アメリカン・グラフィティ」の舞台は1962年なので、前述のビーチ・ボーイズによる「ALL SUMMER LONG」以外は、1962年までの楽曲が使われています。つまり、1964年のビートルズの全米制覇よりも前のアメリカン・ポップスやロックンロール・ナンバーで構成されているわけです。サントラ盤には、ファッツ・ドミノの「AIN'T THAT A SHAME」や、リー・ドーシーの「YA YA」や、ボビー・フリーマンの「DO YOU WANNA DANCE(踊ろよベイビー)」と云った、ジョンがアルバム「ROCK'N'ROLL」でカヴァーした曲のオリジナルや、リンゴ・スターがカヴァーしたジョニー・バーネットの「YOU'RE SIXTEEN」(ポール・マッカートニーが参加して全米首位!)や、プラターズの「ONLY YOU(AND YOU ALONE)」(ジョンがアレンジして参加して全米6位)や、ジョンがプロデュースしてハリー・ニルソンがカヴァーしたビル・ヘイリー&ザ・コメッツの「ROCK AROUND THE CLOCK」と云った、ジョン絡みのカヴァーのオリジナルが多数収録されています。そして、アルバム「ROCK'N'ROLL」のA面6曲目に収録されているのが、ボビー・フリーマンの「DO YOU WANNA DANCE」です。ブートレグの「ROOTS」では、A面7曲目に収録されていて、その前のA面6曲目が公式盤には未収録の「ANGEL BABY」です。
「DO YOU WANNA DANCE」は、1958年3月にボビー・フリーマンが自ら書いたデビュー・シングルがオリジナルです。当時のボビー・フリーマンは若干17歳で、このデビュー曲は全米5位(R&Bチャート2位)の大ヒットとなりました。その後、ボビー・ヴィー(1961年)、クリフ・リチャード&ザ・シャドウズ(1962年、シングルB面なのに全英2位)、デル・シャノン(1964年、全米47位)、フォー・シーズンズ(1964年)、ビーチ・ボーイズ(1965年)、ママス&パパス(1966年)、キム・カーンズ(1971年)、ベット・ミドラー(1972年、全米17位)、ラモーンズ(1977年)、デイヴ・エドモンズ(1985年)と云った、錚々たるミュージシャンにカヴァーされている名曲です。特に1965年のビーチ・ボーイズによるカヴァー・ヴァージョンは、「DO YOU WANNA DANCE?」として、シングルが全米12位まで上がって、名作アルバム「THE BEACH BOYS TODAY!」のA面1曲目にも収録されています。ビーチ・ボーイズの「TODAY!」は、本当に素晴らしいアルバムなので、特にアルバム「PET SOUNDS」が好きでそれしか聴いていない方は必聴盤です。ジョンによるカヴァー・ヴァージョンは、レゲエ風のアレンジになっていて、1974年10月のアルバム「ROCK'N'ROLL」の再レコーディング・セッションでの音源です。
(小島イコ)