
ジョン・レノンが、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースした5作目で最後のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」では、ジョンが少年時代から親しんでいたロックンロール・クラシックスのカヴァーで全曲が構成されています。ジョンが好きだったロックンロールと云う事は、相方であったポール・マッカートニーも好きだった楽曲も多いのです。故に、ポールも後に、1988年リリースの最初は旧ソ連限定だったカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」や、1999年のほとんどがカヴァーのアルバム「RUN DEVIL RUN」と云った作品で、多くのロックンロール・クラシックスのカヴァーを発表しています。ポールは他にもライヴ・アルバムでも多くのカヴァーをやっていて、ジョンの死後になってカヴァー・アルバムをリリースしたのは、ジョンのマネをしたと思われたくなくて、リリースのタイミングを計っていたと発言しています。そもそも、ビートルズも最初はカヴァーばかりやっていたわけで、レノン=マッカートニーはオリジナルだけではなく、カヴァーにおいても最高のコンビだったのです。
ジョンのアルバム「ROCK'N'ROLL」では、A面5曲目に収録されているのが、ファッツ・ドミノの「AIN'T THAT A SHAME」です。ちなみに、ブートレグ「ROOTS」ではA面2曲目です。この楽曲は、ファッツ・ドミノとデイヴ・バーソロミュー作で、ファッツ・ドミノが1955年4月14日にシングル「AIN'T IT A SHAME」としてリリースしたのがオリジナルです。全米10位(R&Bチャートでは首位!)となったヒット曲ですが、ファッツ・ドミノがリリースした直後の1955年5月26日に、パット・ブーンが「AIN'T THAT A SHAME」と改題してカヴァーしていて、全米首位!の大ヒット曲となって、より多くの人に知られる事となりました。当時は、黒人ミュージシャンがオリジナルの楽曲を、白人ミュージシャンがソフトにお行儀よくカヴァーしてヒットさせるのが流行っていたわけですが、そこに黒人の様に歌う白人のエルヴィス・プレスリーが登場して既成の概念を破壊して、ビートルズやローリング・ストーンズも黒人音楽からの影響をストレートに表現した事でのし上がっていったのです。ジョンによるカヴァー・ヴァージョンも、当然ながらパット・ブーンではなく、オリジナルのファッツ・ドミノを参考にしています。
ジョンによるカヴァー・ヴァージョンは、1974年10月のアルバム「ROCK'N'ROLL」の再レコーディング・セッションでレコーディングされています。「SLIPPIN' AND SLIDIN'」同様にシングル化も検討されて、サンプル盤があります。この「AIN'T THAT A SHAME」は、前述の通りポールもカヴァーしていて、1988年のカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」にスタジオ・ヴァージョンが、初来日公演での音源も収録された1990年のライヴ・アルバム「TRIPPING THE LIVE FANTASTIC」にライヴ・ヴァージョンが収録されています。他にも、フォー・シーズンズも1963年にカヴァーして全米22位のスマッシュ・ヒットさせていますが、特に有名なカヴァー・ヴァージョンは、チープ・トリックによるものです。チープ・トリックによるカヴァーは、ライヴ・ヴァージョンで、日本の武道館でライヴ・レコーディングされた1978年の「チープ・トリック at 武道館」収録されています。当時のチープ・トリックは、日本でだけ異常に人気があったバンドで、本人たちも日本に来たらまるでビートルズみたいに大歓迎されて驚いたそうです。ライヴ盤も日本限定発売だったのですけれど、逆輸入盤が米国でヒットしたので米国でもリリースされて、「AIN'T THAT A SHAME」はシングル・カットされて全米35位のヒットとなりました。チープ・トリックによるカヴァーは、ジョンによるカヴァーの影響も感じられます。
(小島イコ)