
ビートルズは、オリジナル曲と共に、多くのカヴァーをやっていました。特にメジャー・デビューする前のハンブルクでの箱バン時代や、デビュー後のBBCでのラジオ番組では、カヴァー曲が中心でした。故に、ジョン・レノンが1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)にアップルからリリースした5作目のソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」でカヴァーした楽曲は、ジョンが少年時代から熱中して、ビートルズとして何度も演奏していたものが多いのです。ジョンは、1973年10月から12月にかけてフィル・スペクターとのセッションでレコーディングした楽曲はほとんど収録せずに、1974年10月21日から25日にかけてのたったの5日間で再レコーディングしてアルバム「ROCK'N'ROLL」を完成出来たのは、ほとんどの楽曲を昔から演奏していたからでしょう。アルバム「ROCK'N'ROLL」のA面3曲目に収録されているのが、「MEDLEY:RIP IT UP / READY TEDDY」です。ちなみに、モーリス・レヴィが勝手にリリースしたブートレグの「ROOTS」では、A面5曲目に収録されていて、タイトルは「RIP IT UP」だけとなっていますが、公式盤と同じくメドレーが収録されています。このメドレーも「BE-BOP-A-LULA」や「STAND BY ME」同様に、1974年10月の再レコーディング・セッションでの音源です。
この2曲のメドレーは、リトル・リチャードが1956年6月にリリースしたシングルがオリジナルで、そのシングルのA面が「RIP IT UP」で、B面が「READY TEDDY」です。つまり、ジョンはシングルのA面曲とB面曲をメドレーにしているわけです。この2曲は、エルヴィス・プレスリーも別々にカヴァー(1956年のセカンド・アルバム「ELVIS」)していて、エルヴィス盤の「RIP IT UP」の邦題は「陽気に行こうぜ」で、大瀧師匠もカヴァー(死後に発掘された1997年の「ナイアガラ・リハビリ・セッション」)しています。他にも、エヴァリー・ブラザーズ(1958年) 、バディ・ホリー(死後の1964年に発掘)、チャック・ベリー(1961年)、など、ビートルズが影響を受けたロックンロールの先駆者たちがこぞってカヴァーしている名曲です。ビートルズも、1969年1月の「THE GET BACK SESSIONS」で取り上げているのですけれど、2曲をメドレーにしたのはジョンだけです。大瀧師匠もメドレーですけれど、エルヴィス盤を参考にしているので「陽気に行こうぜ(RIP IT UP)」〜「恋にしびれて(ALL SHOOK UP)」です。アルバム「ROCK'N'ROLL」は、全13トラック15曲入りですが、メドレーを分けると「RIP IT UP」と「READY TEDDY」と「SLIPPIN’ AND SLIDIN'」と「SEND ME SOME LOVIN'」と4曲もリトル・リチャードの曲をカヴァーしています。これは、アルバムで最も多いのです。
ビートルズ時代にもリトル・リチャードの楽曲は多く取り上げていて、「LONG TALL SALLY(のっぽのサリー)」や「HEY, HEY, HEY, HEY」や「LUCILLE」や「OOH! MY SOUL(あたしゃカックン!)」(トンデモ邦題)などが聴けるのですけれど、それらは全てポール・マッカートニーがリード・ヴォーカルを担当しています。ジョンはチャック・ベリーを担当で、ポールがリトル・リチャードを担当と云う様な取り決めでもあったかの様に、ジョンがリトル・リチャードの楽曲を歌う機会はありませんでした。それなのに、アルバム「ROCK'N'ROLL」では4曲も取り上げていて、見事なシャウトをキメてくれるのは、やはり、ポールへの対抗意識もあったのでしょう。正に「ポールよ、俺ならこう歌う」なのです。「SLIPPIN’ AND SLIDIN'」に至っては、BBCの番組用に「STAND BY ME」と共にスタジオ・ライヴ映像まで制作しているのです。つまり、シングル・カットまで考えていたのではないのか(実際にサンプル盤はある)、と云う出来栄えです。「MEDLEY:RIP IT UP / READY TEDDY」は、オリジナルの「ROCK'N'ROLL」以外では、2010年のCD4枚組の小箱「GIMME SOME TRUTH」で聴けますが、その小箱にはアルバム「ROCK'N'ROLL」全曲が収録されています。
(小島イコ)