
リンゴすったもんだあったジョン・レノンの5作目で最後となってしまったソロ・アルバム「ROCK'N'ROLL」は、1975年4月リリースの予定を、モーリス・レヴィによるブートレグ「ROOTS」が先に出た為に、1975年2月17日(米国)・同年2月21日(英国)に前倒しして、アップルからリリースされました。ブートレグ「ROOTS」は、公式盤の「ROCK'N'ROLL」のラフ・ミックスを使用していて、公式盤「ROCK'N'ROLL」が全13トラック15曲入りのところ、ブートレグ「ROOTS」には「ANGEL BABY」と「BE MY BABY」が加わった全15トラック17曲入りです。曲順もそれぞれで違っているのですけれど、A面1曲目が「BE-BOP-A-LULA」で、B面の最後が「JUST BECAUSE」となっているのは同じです。それぞれに2トラックあるメドレーに関しては、公式盤「ROCK'N'ROLL」では2曲を正しく「メドレー」としてクレジットされていますが、ブートレグの「ROOTS」ではそれぞれの最初に演奏される曲名だけが記されていて、如何にもブートレグらしさを醸し出しているし、ジャケットのいい加減なデザインもタコにもブートレグです。ブートレグ「ROOTS」は、公式盤の登場で販売差し止めとなっていて、市場に出たのはたったの3日で、1,270枚しか売れておらず、その後の裁判でもジョンとEMIが勝訴しているので、結果的にモーリス・レヴィは損をしています。
アルバム「ROCK'N'ROLL」とブートレグ「ROOTS」の両方でA面1曲目となった「BE-BOP-A-LULA」は、ジーン・ヴィンセントとシェリフ・テックス・デイヴィスの共作(ジーン・ヴィンセントとドナルド・グレイヴスによる共作と云う説もある)で、1956年6月4日にジーン・ヴィンセント&ヒズ・ブルー・キャップスがデビュー・シングルとしてリリースしたのがオリジナルです。この楽曲は、元々は「WOMAN LOVE」のB面だったのですけれど、A面だった「WOMAN LOVE」がBBCで放送禁止となって、AB面を逆にして再リリースされていて、全米7位・全英16位のヒット曲となりました。ポール・マッカートニーが初めて買ったシングルで、1957年7月6日にジョンとポールが出逢った時に、ポールがギターの弾き語りで披露した曲のひとつです。ビートルズとしてもカヴァーしていて、1962年12月のハンブルクのスター・クラブでの演奏(但し、リード・ヴォーカルは別人)が、劣悪な音質ですが聴けます。ジョンによるカヴァーは、1974年10月21日から25日にかけて行われたアルバム「ROCK'N'ROLL」の再レコーディング・セッションで取り上げられて、オリジナル盤ではイントロなしでジョンが「WELL」と歌い出します。2004年のアルバム「ROCK'N'ROLL」のリミックス盤では、その前にジョンがカウントを取る部分から始まっています。
ジョンによるカヴァー・ヴァージョンは、日本などでは第2弾シングル(B面は「YA YA」)として、1975年9月5日にリリースされていますけれど、ヒットはしていません。英米ではシングル・カットされておらず、日本では第1弾シングル「STAND BY ME」が売れたので第2弾シングル・カットしたのでしょう。前述の通り、ポールにとっても忘れられない重要な楽曲なので、1991年5月20日リリースのポールのアルバム「UNPLUGGED:THE OFFICIAL BOOTLEG(公式海賊盤)」のA面1曲目でカヴァーしています。ポールのヴァージョンは、1991年1月25日に収録された「MTV」の番組「アンプラグド」でのアコースティック・ライヴ音源です。1990年代にはアンプラグドが流行して、多くのミュージシャンが番組に出演してライヴ・アルバムをリリースしていますけれど、云わばポールは草分けでした。何せ、1976年のライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」の時点で、既にアコースティック・コーナーがあったのです。ジョンによるカヴァー・ヴァージョンは、2010年10月4日リリースのCD4枚組の小箱「GIMME SOME TRUTH」にも収録されています。と云うか、その小箱にはアルバム「ROCK'N'ROLL」の全曲が収録されているのです。4枚にそれぞれテーマがあって、アルバム「ROCK'N'ROLL」全曲を中心としたCDには、皮肉にも「ROOTS」と名付けられています。
(小島イコ)