
ジョン・レノンが、1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」の、B面5曲目に収録されているのが、アルバムの中でも最重要曲と云える「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)(愛の不毛)」です。アルバム「WALLS AND BRIDGES」は、1970年にリリースされたジョンの1作目のソロ・アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」に匹敵する傑作だと思うのですけれど、この「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)」は、アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」の「GOD」の様な位置づけがされています。「GOD」が本編の最後で、その後に「MY MUMMY'S DEAD」を入れていた様に、この「WALLS AND BRIDGES」でも「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)」の後に「YA YA」を入れています。こうした手法は、ビートルズの1967年のアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」や、1969年のアルバム「ABBEY ROAD」でも用いられていますし、ポール・マッカートニーも、1971年のアルバム「WINGS WILD LIFE」や、1973年のアルバム「BAND ON THE RUN」や、1975年のアルバム「VENUS AND MARS」や、1993年のアルバム「OFF THE GROUND」などで、この技を用いています。
つまり、アルバムを大団円で終わらせず、その後にオマケを入れるのが「レノン=マッカートニー」流なのです。「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)」と云うタイトルは、1923年のブルース・ナンバー「NOBODY KNOWS YOU WHEN YOU DOWN AND OUT(だれも知らない)」のモジリになっていて、そちらは1970年にデレク&ザ・ドミノスが、世紀の不倫アルバム「LAYLA AND OTHER ASSORTED LOVE SONGS」でカヴァーしています。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター)、ジェシ・エド・デイヴィス(エレクトリック・ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、ケン・アッシャー(オルガン)、リトル・ビッグ・ホーンズ(ボビー・キーズ、スティーブ・マダイオ、ハワード・ジョンソン、ロン・アプレア、フランク・ヴィカーリ)(ホーン)の、「プラスティック・オノ・ニュークリア・バンド」です。この楽曲も、1986年のアルバム「MENLOVE AVE.」にリハーサル音源が収録されていて、ジェシ・エド・デイヴィスのギターと、クラウス・フォアマンのベースと、ジム・ケルトナーのドラムスで、ジョンの歌詞が違っていたり、気が滅入る様な歌い方をしていて、完成版とはまた違った魅力があります。歌詞の内容も痛々しく、「君が落ち込んでいる時には、誰も君を愛してくれない」と始まり、「それでも愛している?と訊くのか、これは只のショービジネスなんだよ」と、内面をさらけ出して歌われています。
この楽曲は、1973年10月にジョンがヨーコさんと別居したばかりだった時期に書かれていて、デモ音源ではギターでの弾き語りだったのを、ドラマティックなアレンジに変えていて、ジョンは「フランク・シナトラに歌って欲しい」と語っていました。特に中間部でジョンがシャウトする部分が凄まじく、大仰とさえ思えるホーンやオーケストラが導入されていても、全く引けを取らない絶唱です。いずれ、そう遠くない未来に、アルバム「WALLS AND BRIDGES」の箱も出るのでしょうけれど、お願いだから「なんちゃってリミックス」はやめて欲しいですなあ。しかしながら、アルバム「MIND GAMES」のメガ箱がグラミー賞を受賞してしまったので、やっぱり「なんちゃってリミックス」満載で価格は更に値上げして50万円とかになりそうですなあ、買わんけど。「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)」は、他にも、オリジナル・ヴァージョンが1990年の箱「LENNON」と2010年の小箱「GIMME SOME TRUTH」に収録されて、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」には別テイクが、2005年のベスト盤「WORKING CLASS HERO - THE DEFINITIVE LENNON」にはリミックス音源が、同年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」のリミックス盤にはリミックス音源と、別テイクからジョンの歌とギターだけ抜き出した「なんちゃってリミックス」が収録されていて、既に「なんちゃってリミックス」は作られているわけで、困ったちゃんなのです。
(小島イコ)