
ジョン・レノンが、1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」は、オリジナル・アナログ盤では変型ジャケットになっていて、表面はジョンが11歳の頃に描いた絵が3種類、開いて見れる様になっていて、裏面はジョンの百面相になる様になっていました。この少年時代に描いた絵は、元々はアルバム「ROCK'N'ROLL」となるカヴァー・アルバムのジャケットにしようとジョンが考えていたものです。それが、結局はアルバム「WALLS AND BRIDGES」に使われたのですけれど、それまでのソロ・アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と「IMAGINE」と「MIND GAMES」とは決定的に違っているのが「ヨーコさんの不在」です。アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」は二人の2ショットで、ヨーコさんのアルバム「YOKO ONO / PLASTIC ONO BAND(ヨーコの心)」と対になっていたし、アルバム「IMAGINE」のジャケットはヨーコさんが撮影したジョンの顔で、ヨーコさんのアルバム「FLY」のジョンが撮影したヨーコさんの顔と対になっていたし、アルバム「MIND GAMES」のジャケットには、ジョンよりも大きくヨーコさんの顔が山の様にデザインされていました。
それがアルバム「WALLS AND BRIDGES」とカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」にはヨーコさんは居なくて、それはそれらのアルバムが制作されたのが、ジョンとヨーコさんの18か月の別居期間である「失われた週末」時代だったからです。しかしながら、アルバム「WALLS AND BRIDGES」に収録された楽曲には、やはりヨーコさんへ向けられた楽曲が多く収録されていて、A面5曲目に収録された「BLESS YOU(果てしなき愛)」もそのひとつです。「BLESS YOU」のレコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、クラウス・フォアマン(ベース)、ケン・アッシャー(エレクトリック・ピアノ、メロトロン)、ジェシー・エド・デイヴィス(ギター)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、エディ・モトー(アコースティック・ギター)の「プラスティック・オノ・ニュークリア・バンド」で、ジョンは「フレッド・ガーキン牧師」と云う変名でアコースティック・ギターを弾いています。「BLESS YOU」は、アルバム「WALLS AND BRIDGES」に収録された曲の中でも、シングル・カットしてヒットした「#9 DREAM(夢の夢)」と並んで美しい楽曲です。しかしながら、内容は「BLESS YOU」の方が重くて、敢えてそこまではコマーシャルにせずに発表した楽曲です。
その重さが、アルバム「MIND GAMES」とは違っていて、同じヨーコさんへ向けて書かれた楽曲でも、実際に別居して離れていたからこそ書かれた内情は雲泥の差なのです。それをより深く思わされるのが、リハーサル音源やアウトテイクです。1986年の未発表音源集である「MENLOVE AVE.」のB面には、アルバム「WALLS AND BRIDGES」のリハーサル音源が収録されていて、「STEEL AND GLASS(鋼のように、ガラスの如く)」、「SCARED(心のしとねは何処)」、「OLD DIRT ROAD(枯れた道)」、「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)(愛の不毛)」、「BLESS YOU(果てしなき愛)」の5曲が聴けます。内容は、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)の3ピース・バンドをバックにジョンがギターもしくはピアノを弾いて歌っていて、まるっきりアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」です。ジョンはコマーシャルにする為にアレンジを変えたわけで、本質的にはシンプルな編成でのアルバムだったと分かります。それにしても、このアルバムの邦題は気合が入っています。何かと云うと「幸せのナントカ」とか邦題が付けられていたポール・マッカートニーとの、落差が凄いですなあ。ジョンには思想があるけれど、ポールにはない、みたいな偏見を呼んだ原因のひとつは、邦題にあった気もします。「BLESS YOU」のアウトテイクは、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」にも別ヴァージョンが収録されています。
(小島イコ)