
ジョン・レノンが、1974年9月26日(米国)・同年10月4日にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」は、全12曲中10曲がジョンのオリジナルで、B面最後の6曲目に収録されたジョンと当時11歳だったジュリアンとのお遊び共演曲「YA YA」はリー・ドーシーのカヴァーで、今回取り上げるA面3曲目に収録された「OLD DIRT ROAD(枯れた道)」がジョンとニルソンの共作です。何故、その2曲がジョンの単独作ではないのか、と云うと、話は1973年10月に始まった後にカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」のセッションまで遡ります。ジョンがロックンロールのカヴァー・アルバムをレコーディングしたのは、以前にも触れたビートルズの「COME TOGETHER」がチャック・ベリーの「YOU CAN'T CATCH ME」の盗作だと版権を持っていたモーリス・レヴィが訴えそうになり、裁判沙汰にするよりも、ジョンにモーリスが版権を持つ楽曲から3曲をカヴァーさせる事で示談に持ってゆく事となったからなのです。故に、1975年2月にリリースされたアルバム「ROCK'N'ROLL」には、「YOU CAN'T CATCH ME」と「SWEET LITTLE SIXTEEN」と「YA YA」の3曲が収録されるのですけれど、これまた以前にも触れた通りアルバム「ROCK'N'ROLL」のセッションは、一旦は頓挫してしまったのです。
ジョンはヘベレケ状態で、プロデュースしたフィル・スペクターも奇行が目立った上にマスターテープを持った侭で行方不明となり、ジョンは一旦はアルバム「ROCK'N'ROLL」を棚上げにして、先にアルバム「WALLS AND BRIDGES」を完成させてしまったわけですが、モーリス・レヴィとの約束があったので「YA YA」のお遊びヴァージョンを収録しているわけです。勿論、モーリス・レヴィとしては「話が違う」となって、アルバム「ROOTS」騒動となるのでした。この辺の展開は、奇しくも、1969年のビートルズによる「THE GET BACK SESSIONS」からアルバム「ABBEY ROAD」へ、そしてアルバム「LET IT BE」となるのと酷似しています。アルバム「WALLS AND BRIDGES」の前に、ジョンはハリー・ニルソンのアルバム「PUSSY CATS」をプロデュースしていて、1974年8月にリリースしています。ジャケットでジョンとニルソンが猫になって並んでいる事から分かる通り、アルバム「PUSSY CATS」は二人の共作と云える出来栄えです。全10曲中5曲がカヴァーで、ジミー・クリフの「MANY RIVERS TO CROSS」、ボブ・ディランの「SUBTERRANEAN HOMESICK BLUES」、ドリフターズの「SAVE THE LAST DANCE FOR ME」、ジョニー・サンダーの「LOOP DE LOOP」、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「ROCK AROUND THE CLOCK」と云う選曲は、ジョンが自分で歌う事も想定していたのでしょう。
1974年11月にリリースされたリンゴ・スターのアルバム「GOODNIGHT VIENNA」に、ジョンがタイトル曲を提供していて、シングル・カットしてヒットしたプラターズのカヴァー「ONLY YOU(AND YOU ALONE)」もジョンの提案とアレンジで、ジョンがギターを弾いて、ニルソンがコーラスで参加しています。それもアルバム「ROCK'N'ROLL」の流れにあるわけで、ジョンもニルソンもリンゴも、ただ酔っ払っていただけではないのです。ニルソンのアルバム「PUSSY CATS」には、カヴァー5曲の他には、ニルソンの単独作が4曲(「DON'T FORGET ME」、「ALL MY LIFE」、「OLD FORGOTTEN SOLDIER」、「BLACK SAIL」)と、ジョンとニルソンの共作「MUCHO MUNGO / MT. ELGA」が収録されています。その流れで「OLD DIRT ROAD」も共作したのでしょう。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、ピアノ)、ハリー・ニルソン(バッキング・ヴォーカル)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、ジェシ・エド・デイヴィス(エレクトリック・ギター)、ケン・アッシャー(エレクトリック・ピアノ)、クラウス・フォアマン(ベース)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、ジム・ケルトナー(ドラムス)です。荒涼とした心情を歌ったこの楽曲は、1986年のアルバム「MENLOVE AVE.」に収録された剥き出しのリハーサル音源では、更に心に響きます。1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」には別テイクが収録されていて、共作者であるニルソンは、1980年のアルバム「FLASH HARRY」でセルフ・カヴァーしています。
(小島イコ)