
ジョン・レノンが、1973年10月29日(米国)・同年11月16日(英国)にアップルからリリースした3作目のソロ・アルバム「MIND GAMES」は、ジョンのアルバムの中でも特殊な印象を聴き手に感じさせます。まずは、本来はロックンローラーであるジョンのアルバムにしては、ストレートなロックンロール曲がほとんど収録されていません。このアルバムはそれまでのフィル・スペクターとの共同プロデュースではなく、ジョンがひとりで行っていて、それならば尚の事ロックンロールが前面に出ていてもおかしくはなかったのです。それが、肩透かしされた様にロックンロールではなく、かと云って前作でヨーコさんとの共作だったアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の様に政治的で過激でもなく、全体的にはメロウでバラード曲の比重が多過ぎます。そのバラードも全てはヨーコさんに捧げられていて、それもソロ・アルバムとしては前作だった1971年のアルバム「IMAGINE」での「OH YOKO!」の様な軽快であけっぴろげでもなく、只々ヨーコさんに謝罪する「AISUMASEN(I’M SORRY)」に代表される様な、情けなく嘆願している様な、ヘナチョコな曲ばかりが並んでいます。それは、当時に二人の関係が悪化していたからこそ、そうなったわけですが、余りにも軟弱な路線で、リリース当時の評価が低かったのです。
アルバム「MIND GAMES」のB面4曲目に収録された「I KNOW(I KNOW)」も軟弱路線で、この曲ではヨーコさんだけではなく、かつての相方であったポール・マッカートニーにも向けて書かれているとも解釈できる内容となっています。ポールへ向けたと思えるのは、イントロのギターが1969年1月のビートルズによる「THE GET BACK SESSIONS」で演奏されて、1970年のアルバム「LET IT BE」に収録された、本当の意味でのレノン=マッカートニー作品である「I'VE GOT A FEELING」に酷似している点や、歌詞に「TODAY I LOVE YOU MORE THAN YESTERDAY」と云うフレーズが出て来る事などがあげられます。このフレーズは、ポールが1971年のアルバム「WINGS WILD LIFE」でジョンに向けて書いたと思われる「TOMORROW」に対する返答ともとれますし、事実として仲違いしていたジョンとポールはこの時期から雪解けに向かっていたのです。そうした経緯があったからか、ポールは近年のライヴではデミックスによってジョンのヴォーカルを抽出した音源に合わせて「I'VE GOT A FEELING」のバーチャル共演をしているのでしょう。なんだかんだ云っても、ジョンとポールはクオリーメンから数えれば15年近い期間に「レノン=マッカートニー」として行動を共にしていたわけです。
「I KNOW(I KNOW)」のレコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター、タンバリン)、デヴィッド・スピノザ(エレクトリック・ギター)、ケン・アッシャー(ピアノ、オルガン)、ゴードン・エドワーズ(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、マイケル・ブレッカー(サックス)による「プラスティック・UF・オノ・バンド」です。「I KNOW(I KNOW)」のアウトテイクは、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」や、2024年のアルバム「MIND GAMES」の箱などに収録されています。ベスト盤だと、2020年の「GIMME SOME TRUTH.」にリミックスが収録されていて、2024年の「MIND GAMES」の箱もリミックス音源です。つまり、オリジナル・ミックスはアルバム「MIND GAMES」にしか収録されていません。他のアルバム「MIND GAMES」の収録曲も、オリジナル・ミックスは、1988年の初CD化音源と2010年のリマスター盤でしか聴けない曲が多いのです。そうなるとですね、やはり2024年の「MIND GAMES」の箱などは、リミックス音源やなんちゃってリミックスしか収録されていないのが難点だし、後世に遺すものとしては「欠陥商品である」と断じるしかありません。音楽雑誌などで好意的に書かれているのは、それが単なる宣伝だからにすぎません。
(小島イコ)