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2025年01月27日

「ポールの道」#628「LENNON SONGS」#053 「INTUITION」

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ジョン・レノンが、1973年10月29日(米国)・同年11月16日(英国)にアップルからリリースした、3作目のソロ・アルバム「MIND GAMES」は、過去に何度かCD化されています。まず、1988年に初CD化されていて、それは単純にアナログ・マスターをデジタル変換しただけの「余計な事はやっていない」CDでした。次に、2002年にピーター・コビンによるリミックス盤CDがリリースされていて、賛否両論があったわけですけれど、2002年のCDには「AISUMASEN(I’M SORRY)」と「BRING ON THE LUCIE(FREDA PEOPLE)」と「MEAT CITY」と3曲のデモ音源がボーナス・トラックで入っています。それで「ジョンのミックスに戻す」と云う方針で、2010年にはリマスター盤CDが出たわけで、普通ならばそれで一件落着のはずでした。ところが、記憶も新しい昨年(2024年)にアルバム「MIND GAMES」の箱がリリースされて、「なんちゃってリミックス」を多く含む内容と、浮世離れしすぎた価格設定で顰蹙を買う事となったのです。箱には6CDと2BDが収録されていますけれど、CD1が本編のリミックス盤で、CD6がアウトテイク集で、他の4枚は「なんちゃってリミックス」です。CD1とCD6だけを収録した2枚組普及盤CDも出ていて、ズバリ云ってそれだけで充分です。

他のCD2からCD5は、ジョンの箱ではお馴染みとなった「なんちゃってリミックス」で、勝手に、CD2「THE ELEMENTAL MIXES」とか、CD3「THE ELEMENTS MIXES」とか、CD4「THE EVOLUTION DOCUMENTARY」とか、CD5「THE RAW STUDIO MIXES」とかを作ってしまったのです。ショーンくんは、父親が遺した音源で遊び捲っているだけで、ジョンの生前には「こんなものはない」音源なのです。普及盤にも入っている本編のリミックス盤も、あるべき音がなくなっていたりして、どうなのかと思います。更に、普及盤や箱にはボーナス・トラックが収録されているのですけれど、特殊な操作をしないと聴けない仕様になっていたり、CD1の本編のリミックス盤が、12トラック目の「MEAT CITY」が終わってから無音の78トラックがつづいて、90トラック目で「YES」と表示されて終わるとか、意味不明な事をやらかしています。それは、ジョンが初めてヨーコさんに逢った時の展示物に、梯子を登ってルーペで見ると「YES」と書いてあった事に由来するのでしょうけれど、それは1966年の出来事であって、アルバム「MIND GAMES」とは無関係です。確かに表題曲「MIND GAMES」には「YES IS THE ANSWER」と云う歌詞があるし、「OUT THE BLUE」では二人の出逢いも歌われていますけれど、父親と母親の美しき純愛物語を持ち込むのは、アルバム「MIND GAMES」ではないでしょう。それどころか、このアルバムの制作中からジョンとヨーコさんの関係は悪化していたのですから、違うでしょう。

さて、アルバム「MIND GAMES」のB面1曲目に収録されているのが、「INTUITION」です。「INTUITION」とは「直感」で、ジョンは生まれてからこの時まで「直感」を行動原理としていた事を歌っています。アナログ盤でひっくり返せばB面に、の1曲目に収録したと云う事は、ジョン自身がこの楽曲を重要だと思っていたからで、楽曲としては後の「AOR」の先駆けとなっています。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、ギター)、デヴィッド・スピノザ(ギター)、ピート・クレイナウ(ペダル・スティール・ギター)、ケン・アッシャー(ピアノ)、ゴードン・エドワーズ(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、マイケル・ブレッカー(サックス)、サムシング・ディファレント (バッキング・ヴォーカル)からなる「プラスティック・UF・オノ・バンド」で、この楽曲では「スタッフ」に加入するゴードン・エドワーズによるゴリゴリとしたベースが目立っていますし、ケン・アッシャーのピアノや、マイケル・ブレッカーのサックスも、粋です。このAOR的な感覚は、1973年当時としては早過ぎる路線で、ジョンの天性の才能が炸裂している名曲です。この新路線を編み出した事で、ブラック・ミュージックを自分の範疇に収めたジョンは、ある意味、音楽的にもビートルズを超えました。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする