1973年10月29日(米国)・同年11月16日(英国)に、ジョン・レノンが3作目のソロ・アルバムとしてリリースしたアルバム「MIND GAMES」は、他のソロ・アルバムに比べると評価が低い様です。それは、1990年に没後10年でリリースされたCD4枚組全73曲入りの箱「LENNON」での選曲にも表れています。ジョンのオリジナル・ソロ・アルバムは、1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と、1971年のアルバム「IMAGINE」と、1973年のアルバム「MIND GAMES」と、1974年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」の4作しかありません。他にはその時点では、1975年のカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」と、1968年から1969年にかけてのヨーコさんとの前衛3部作と、プラスティック・オノ・バンドの1969年のライヴ・アルバム「LIVE PEACE IN TRONT 1969」と、ヨーコさんとの共作での1972年のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」と、1980年の「DOUBLE FANTASY」と、遺稿集で1984年の「MILK AND HONEY」と、1972年の「ワン・トゥ・ワン・コンサート」を蔵出しした1986年の「LIVE IN NEW YORK CITY」と、未発表音源集で1986年の「MENLOVE AVE.」位しかありませんでした。故に、全73曲入りとなると、ほとんど全曲集に近いカタチになっています。
それで、箱「LENNON」には、アルバム未収録シングルA面曲は全て収録されていて、アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」からは全11曲中全曲!、アルバム「IMAGINE」からは全10曲中9曲、アルバム「WALLS AND BRIDGES」からは全12曲中9曲と、ほとんどの曲が収録されています。前衛3部作は無視されていますけれど、それはまあ仕方ない事で、ヨーコさんとの共作であるアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」のスタジオ盤からはジョンがソロで歌った全3曲が全て収録されていますし、アルバム「DOUBLE FANTASY」とアルバム「MILK AND HONEY」からはジョンが書いてソロで歌った全13曲が全て収録されています。更に「LIVE PEACE IN TRONT 1969」からもスタジオ・レコーディングとダブらない4曲は全て収録しているし、1971年のフランク・ザッパとの共演ライヴ「WELL(BABY PLEASE DON'T GO)」や、1972年の「ワン・トゥ・ワン・コンサート」からの「COME TOGETHER」と「HOUND DOG」や、1974年のエルトン・ジョンとの共演ライヴ全3曲(「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT」、「LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS」、「I SAW HER STANDING THERE」)まで収録しています。カヴァー・アルバムである「ROCK'N'ROLL」からですら、全13曲中6曲も収録していて、当時はアウトテイクで1986年に蔵出しされた「ANGEL BABY」まで収録しているのです。それなのに、アルバム「MIND GAMES」からは、全12曲(実質11曲)中たったの5曲なのです。
2010年の全72曲入りの小箱「GIMME SOME TRUTH」では7曲と増えて、今回紹介する「TIGHT A$」も収録されましたが、それでも他のアルバムからよりは少なかったのです。昨年(2024年)に、その辺の低評価を覆そうとしたのか、アルバム「MIND GAMES」の50周年記念盤がリリースされましたけれど、ショーンくんがハリキリ過ぎたのか、箱は6CDと2BDで日本盤が3万5千2百円(税込み)で、音源が同内容と思われるアナログ盤10枚(LP9枚+EP1枚)とCD6枚とBD2枚のメガ箱に至っては、24万7千5百円!(税込み)と、浮世離れした価格設定で困ったちゃんでした。同時期にリリースされたボブ・ディランの「偉大なる復活:1974年の記録」は3万5千6百4十円(税込み)でしたけれど、CD27枚組全431曲入りでした。ディランの箱は1974年のツアー40公演から現存するライヴ音源を全て収録した27枚組なのに、ジョンの箱はCD6枚にBD2枚でほぼ同じ値段です。しかも、ジョンの場合はCD4枚は「なんちゃってリミックス」なのです。それは、2018年リリースのアルバム「IMAGINE」の箱や、2021年リリースのアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」の箱でも同様で、本編のリミックス盤とアウトテイク集のCD2枚以外は、全てが「なんちゃってリミックス」なんですから、どうかと思いますよ。
さて、アルバム「MIND GAMES」のA面2曲目に収録されているのが「TIGHT A$」です。このロカビリー調の楽曲は、タイトルが「TIGHT AS」と「TIGHT ASS」のシャレになっていて、1954年のエルヴィス・プレスリーのデビュー・シングル「THAT'S ALL RIGHT(MAMA)」(オリジナルは1946年のアーサー・クラダップ)や、1955年のシングル「BABY LET'S PLAY HOUSE」(オリジナルは1954年のアーサー・ガンター)からの影響が強い楽曲です。「THAT'S ALL RIGHT(MAMA)」は、ビートルズ時代にBBCでポール・マッカートニーのリード・ヴォーカルでカヴァーしていて、アルバム「LIVE AT THE BBC」で聴く事が出来ますし、ポールはソロでもカヴァーしています。「BABY LET'S PLAY HOUSE」は、ビートルズ時代の1965年リリースのアルバム「RUBBER SOUL」に収録されたジョン主導で書いたレノン=マッカートニー作品「RUN FOR YOUR LIFE」で歌詞を引用しています。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、タンバリン)、デヴィッド・スピノザ(エレクトリック・ギター)、ケン・アッシャー(ピアノ)、ゴードン・エドワーズ(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、スニーキー・ピート・クライナウ(ペダル・スティール・ギター)で、アルバム全体でペダル・スティール・ギターを「ロックンロール文脈でフィーチャー」しているのが、ジョンの真骨頂です。
(小島イコ)