
ジョン・レノンは、ビートルズを結成してリーダーとして活躍しましたけれど、ビートルズ以外の音楽活動でも先駆者として活躍しました。40歳で亡くなるまで、ジョンは様々な音楽活動を行っていて、ヨーコさんとの前衛3部作や、ビートルズの「REVOLUTION 9」などは、ビートルズのジョンがやった事に価値があって、無名なミュージシャンが同じ事をやったとしても、後年まで語られる事とはなっていなかったでしょう。1968年12月に、ジョン(ヴォーカル、ギター)と、エリック・クラプトン(ギター)と、キース・リチャーズ(ベース)と、ミッチ・ミッチェル(ドラムス)で一夜限りのバンド「THE DIRTY MAC」を結成して、ローリング・ストーンズの番組「ROCK AND ROLL CIRCUS」で「YER BLUES」を演奏したのは、所謂ひとつの「スーパー・バンド」の先駆けですし、1969年からの「PLASTIC ONO BAND」はメンバーが流動的なバンドで、そう云う発想自体がそれまでにはなかった事でした。前々回と前回で取り上げたフランク・ザッパとの世紀の共演も、ジョン・レノンだからこそ実現したし価値があります。ジョンのソロ活動は1969年から1980年までで、その内の5年間は主夫をやっていて引退状態だったので、実質7年程しかありません。
となると、ビートルズとしての活動の方が長くて、とは云えメジャー・デビューしてからのビートルズの活動も実質7年位しかなかったわけで、メジャー・レーベルで音楽活動を行ったのはビートルズとソロを合わせても14年位しかなくて、それが2025年の現在でも聴かれ続けて語られ続けているのは、ある意味、奇跡的な事です。ソロ活動の7年では、前述のフランク・ザッパとの共演以外にも、ミック・ジャガーをプロデュースしたり、ニルソンをプロデュースしたり、エルトン・ジョンと共演したり、デヴィッド・ボウイと共演したり、夢の共演を次々と実現していたわけで、同時代である1970年代にウイングスで活動していたポール・マッカートニーとは違ったフットワークの軽さが目立っています。ポールが「ロケストラ」をやったのは1979年だったし、スティーヴィー・ワンダーや、マイケル・ジャクソンや、エリック・スチュワートや、エルヴィス・コステロなどと共演したのは1980年代だったのですから、ジョンの先見性には驚かされます。ポールは1982年リリースのアルバム「TUG OF WAR」ではカール・パーキンスとも共演しているのですけれど、そうしたロックンロールの先駆者との共演も、1969年の段階で「トロント・ロックンロール・リヴァイバル」でジョンは実現していたのでした。
その時には出演者として名を連ねただけだったジョンですけれど、1972年2月16日に放送された「マイク・ダグラス・ショー」では、ジョンが「マイ・ヒーロー」と紹介したチャック・ベリーとの共演が実現しました。ジョンは「ロックンロールを言い換えるならば、それはチャック・ベリーだ」と公言していて、チャック・ベリーの熱狂的なフォロワーでした。その二人の共演は、「MEMPHIS, TENNESSEE」(1959年)と「JOHNNY B. GOOD」(1958年)の2曲で、ジョンは本当に楽しそうにチャック・ベリーと共にギターを弾いて歌っています。「MEMPHIS, TENNESSEE」も「JOHNNY B. GOOD」も、ビートルズ時代にも演奏していて、オリジナル・アルバムではカヴァーしていませんが、BBC音源でジョンのヴォーカルで披露しています。「MEMPHIS, TENNESSEE」は、デッカ・オーディションでも演奏しています。チャック・ベリーが「お前の歌だ」と云って披露した「JOHNNY B. GOOD」では、ジョンが感極まって涙目になっています。しかしながら、ロックンロールとは縁遠いヨーコさんが「キエーッ!」とやらかして、チャック・ベリーが「おりゃ?」と云う顔になるのも一興です。チャック・ベリーはジョンの死後にジュリアン・レノンとも「JOHNNY B. GOOD」を共演するのですけれど、終わったらチャック・ベリーがジュリアンに「帰ったら、オヤジによろしくな」と云って、ジュリアンが号泣するのでした。
オリジナル・ヴァージョンは2曲共にチャック・ベリーが書いていて、「MEMPHIS, TENNESSEE」は1959年6月にシングル「BACK IN THE U.S.A.」のB面としてリリースされています。ビートルズはBBCのスタジオ・ライヴで5回も演奏していて、その内の1963年7月10日録音の「POP GO THE BEATLES」での演奏と、同年9月7日録音の「SATURDAY CLUB」での演奏が「LIVE AT THE BBC」と「ON AIR」に収録されていますし、他の録音はブートレグで聴けます。「JOHNNY B. GOOD」は、1958年4月にシングルA面でリリースされた、ロックンロールのスタンダード曲です。ビートルズによるカヴァーは、1964年1月7日の「SATURDAY CLUB」での演奏が「LIVE AT THE BBC」で聴けますし、ビーチ・ボーイズ、エルヴィス・プレスリー、エアロスミス、AC/DC、ジミ・ヘンドリックス、ジョニー・ウィンター、ジューダス・プリースト、セックス・ピストルズ、プリンス、等々もカヴァーしています。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にも使われて、主人公のマーティの演奏を電話越しに聴いたチャック・ベリーがマネして作曲する顛末が有名です。ビートルズは他にも、公式盤で「ROLL OVER BEETHOVEN」や「ROCK AND ROLL MUSIC」を、BBCでは「I'M TALKING ABOUT YOU」や「I GOT TO FIND MY BABY」や「CAROL」や「SWEET LITTLE SIXTEEN」や「TOO MUCH MONKEY BUSINESS」を、ジョンはソロで「YOU CAN'T CATCH ME」や「SWEET LITTLE SIXTEEN」等々、多くのチャック・ベリー・ナンバーをカヴァーしています。
(小島イコ)