
ジョン・レノンとヨーコさんが、1972年6月12日(米国)・同年9月15日(英国)にアップルからリリースした2枚組のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の、B面2曲目に収録されているのが「THE LUCK OF THE IRISH」です。ジョンとヨーコさんの共作と云う事になっていて、二人でデュエットしているアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」らしい楽曲のひとつです。考えてみると、後の共作アルバム「DOUBLE FANTASY」の様にお互いの楽曲を代わる代わるに収録したのではなく、ジョンとヨーコさんのデュエットがスタジオ盤の全10曲中半数近い4曲も収録されているのは、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」だけです。この「THE LUCK OF THE IRISH」も、前曲である「SUNDAY BLOODY SUNDAY(血まみれの日曜日)」同様に、北アイルランド問題に関する楽曲なのですけれど、ジョンとヨーコさんは1972年1月30日の「血の日曜日事件」の前に、1971年にはこの曲を既に完成させてライヴで披露していました。同じ北アイルランド問題を扱っていても、「SUNDAY BLOODY SUNDAY」は怒りを込めた曲調ですけれど、この「THE LUCK OF THE IRISH」はフォーク・ソング風な優しい楽曲になっています。
まず、1971年11月にはアコースティック・ギターでの弾き語りデモをレコーディングしていて、最初はジョンがひとりで、次にヨーコさんを加えてデモを制作しているので、主に曲を書いたのはジョンなのでしょう。そして、1971年12月10日にアナーバーのミシガン大学クリスラー・アリーナで行われた「ジョン・シンクレア・フリーダム・ラリー」で、初めてライヴで披露しています。そして、翌1972年1月13日に放送されたテレビ番組「デヴィッド・フロスト・ショー」で、1971年12月16日に収録したスタジオ・ライヴを披露しています。更に1972年2月18日に放送された「マイク・ダグラス・ショー」では、同年1月28日に収録したスタジオ・ライヴを披露しています。更に、1972年2月5日にも、ニューヨークのブリティッシュ・オーバーシーズ・エアウェイズ・コーポレーションのオフィスで行われた血の日曜日事件の抗議集会でも、ライヴで披露しています。とても良い曲ではあるのですけれど、何度でも云いますが、ジョンとヨーコさんのデュエットは全く噛み合っていないので、楽曲の良さが台無しです。
何せ、ヨーコさんはビートルズ時代の1968年11月22日にリリースされたアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」に収録されたジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作の「THE CONTINUING STORY OF BANGALOW BILL」で、たったひとこと歌っただけでぶち壊しにしてしまった「ジョン・レノン・クラッシャー」なのですから、全編でデュエットなんかされたなら酷くなるのは当たり前田のクラッシャー・バンバン・ビガロなのです。ジョンもその辺の事を理解したから、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の後にはデュエットなんかしなかったのでしょう。隠れた名曲「THE LUCK OF THE IRISH」は、如何なるジョンのベスト盤にも収録されていません。実は「THE LUCK OF THE IRISH」がA面で「ATTICA STATE」をB面にしたシングル・カットも予定されていたのですけれど、やはり両面がデュエットでは弱いと考えたのか中止されて「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD / SISTERS, O SISTERS」に変更されています。前述の通りライヴ音源が多いので、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」と2004年の「ACOUSTIC」には、1971年12月10日の初披露したライヴ音源が収録されています。ライヴ音源は他にもあるので、それぞれで別ヴァージョンを収録して欲しかったです。
(小島イコ)