
1971年9月9日(米国)・同年10月8日(英国)に、ジョン・レノンがアップルからリリースした2作目のソロ・アルバム「IMAGINE」には、表題曲「IMAGINE」の様な世界平和を願う曲がある一方で、元・相方であるポール・マッカートニーを貶し捲った「HOW DO YOU SLEEP?」の様な楽曲も収録されていて、ジョンの二面性が表れていました。しかしながら、レコーディングを記録したドキュメンタリー作品を観ると、とても印象的な場面があります。それは、ラリッたビートルズ・ファンの青年がジョンの屋敷に侵入して来て、ジョンはガードマンなどには任せずに、自分で青年と対話するのです。ジョンは青年を納得させると「腹減ってないか?」と云って、自宅に青年を招いて、一緒に食事するのでした。記録映画でその場面を観ると、泣きそうになります。そんな、純粋で真摯であったが為に、ジョンは殺されてしまったのでしょう。当時、ジョンがヨーコさんと行っていた平和活動は、一緒にベッドに入ったり、各国の首脳にドングリを送ったり、唐突に「戦争は終わった」と宣言したり、果てには「架空国家」を建立したりと、一般人には理解不能な事が多くて、ビートルズ・ファンはそうした奇行を「純真なジョンが、ヨーコさんのせいでバカになった」と思っていたのですが、ヨーコさんの発言を聞くと、どうやらそう云う事はジョンが主導で突っ走っていたらしいのです。何事も夢中になると行くところまで行ってしまうのが、ジョン・レノンです。
ジョンはかねがね、永遠に残る「クリスマス・ソング」を書きたいと思っていて、アルバム「IMAGINE」をリリースした直後である1971年10月に「HAPPY XMAS(WAR IS OVER)」を書いて、同年10月28日と31日に、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオでレコーディングしました。米国では、同年12月1日にアップルからリリースされたのですけれど、英国では翌1972年11月24日になってようやくリリースされています。楽曲は、ジョンとヨーコさんの共作となっていて、プロデュースはジョン&ヨーコさんとフィル・スペクターです。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、ギター)、オノ・ヨーコさん(ヴォーカル)、ハーレムコミュニティ合唱団(バッキング・ヴォーカル)、メイ・パン(バッキング・ヴォーカル)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ、チャイム、グロッケンシュピール)、テディ・アーウィン(ギター)、ヒュー・マクラッケン(ギター)、クリス・オズボーン(ギター)、スチュアート・シャーフ(ギター)、ジム・ケルトナー(ドラムス、そりの鈴)、クラウス・フォアマン(ベース)です。チャート上の成績は、クリスマス・ソングと云う事で対象外でしたが、後にジョンの死後に英国で2位まで上がり(その時の首位!は「IMAGINE」)、米国のクリスマス・ソング・チャートでは3位まで上がり、ジョンが望んだ結果にはなっています。その後を考えると、ヨーコさんとメイ・パンが共演しているのがポイントでしょうか。
ビートルズは、1963年から1969年までファン・クラブ会員に毎年「クリスマス・レコード」を制作して贈っていました。最後の1969年盤では、ジョンとヨーコさんが「HAPPY XMAS」と何度も云っているので、もうその頃には着想があったのでしょう。他のメンバーも、1974年にはジョージ・ハリスンが「DING DONG, DING DONG」を、1979年にはポール・マッカートニーが「WONDERFULL CHRISTMASTIME」を、1999年にリンゴ・スターがアルバム「I WANNA BE YOUR SANTA CLAUS」を、それぞれリリースしています。「HAPPY XMAS(WAR IS OVER)」は、アルバム未収録曲でしたが、1975年にジョン自身が編集したシングル集「SHAVED FISH」に収録されました。但し、その時には「GIVE PEACE A CHANCE」のライヴ・ヴァージョンとのメドレーになっていました。ジョンの死後にリリースされたベスト盤には、定番曲としてオリジナル・シングル・ヴァージョンが収録されています。フィル・スペクターには極上の「クリスマス・アルバム」である1963年の「A CHRISTMAS GIFT FOR YOU」もあるので、この手の曲をプロデュースするのは得意中の得意であったのでしょう。そのアルバムは、1972年にサンタクロースに扮したフィル・スペクターのジャケットで「PHIL SPECTOR'S CHRISTMAS ALBUM」と改題して、アップルからリイシューされています。
アレンジはジョージがロニー・スペクターに書いて、フィル・スペクターとジョージが共同プロデュースした1971年の「TRY SOME, BUY SOME」(1973年にジョージがセルフ・カヴァー)を参考にしているし、曲はフィル・スペクターがかつて手掛けた1961年のパリス・シスターズの「I LOVE HOW YOU LOVE ME」に似ています。しかし、もっと似ているのが、英国のフォーク・ソング「SKEWBALL」です。「HAPPY XMAS(WAR IS OVER)」は、日本盤は1971年12月10日に「ハッピー・クリスマス」の邦題でリリースされましたが、クリスマス期間が終わったので、1972年にセカンド・プレスで「戦争は終わった」と改題していて、その後にまた「ハッピー・クリスマス」に戻されたので、「戦争は終わった」は激レア盤になりました。1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」には1971年10月28日にレコーディング(クラウス・フォアマンがドイツからの飛行機が到着せずに不参加)したラフ・ミックスが聴けますけれど、Bメロに子どもたちの合唱(10月31日にオーバーダビング)がないので、ヨーコさんがひとりで歌っていて、困ったちゃんなのです。イントロで、ヨーコさんが京子さんへ、ジョンがジュリアンに「HAPPY XMAS」と云っているのですが、シングル集「SHAVED FISH」の歌詞カードでは間違って、それぞれヨーコさんとジョンになっていて、その後のCD化でも直されていません。PVは旧ヴァージョンと新ヴァージョンが制作されていて、旧ヴァージョンは他の楽曲と同じく現在ではDVD化されていません。
(小島イコ)