
ジョン・レノンが、1971年9月9日(米国)・同年10月8日(英国)にアップルからリリースした2作目のソロ・アルバム「IMAGINE」の、A面4曲目に収録されているのが、「IT'S SO HARD」です。このブルース調の楽曲は、同年10月11日に米国でシングル・カットされた「IMAGINE」のB面にも収録されていて、日本でも同年11月10日に同じカップリングのシングルがリリースされています。「IT'S SO HARD」のベーシック・トラックは、1971年2月11日に、ジョンの自宅にあるアスコット・サウンド・スタジオで初めてレコーディングされていて、同年7月4日にニューヨークのレコード・プラント・イーストでストリングスが、翌7月5日にサックスが、それぞれオーバーダビングされて完成しています。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、エレクトリック・ギター、ピアノ)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジム・ゴードン(ドラムス、タンバリン)、キング・カーティス(テナーサックス)、ザ・フラックス・フィドラーズ(ストリングス)で、ベーシック・トラックは前作アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と同じ3ピースですが、ジョンがギターとピアノを弾いているし、前述の通りに、ストリングスやサックスをオーバーダビングしている「フィル・スペクター流」です。
キング・カーティスは、この曲と次に収録されている「I DON'T WANT TO BE A SOLDIER」でサックスを披露していますが、元々はジョンが愛聴していた1958年のコースターズのヒット曲「YAKETY YAK」などでサックスを吹いていて、1971年当時はビリー・プレストンとバンドを組んでいました。おそらく、そのラインでの参加だったのでしょう。元・ビートルズのリーダーとの共演は、キング・カーティスにとっても喜ばしく光栄な事だったのでしょう。ところが、ジョンのレコーディングに参加した約一か月後の1971年8月13日に、ニューヨークの自宅前でドラッグ中毒のホームレスに刺殺されてしまったのでした。つまり、キング・カーティスは、自分がプレイしたジョンのレコードが発売される前に殺されてしまったのです。そして、約10年後には、ジョンがニューヨークの自宅前で殺されるのです。「IT'S SO HARD」には性的な描写も含んでいて、歌詞には、同じく性的な描写があった、ジョン主導で書いたレノン=マッカートニー作品である1968年リリースのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」に収録された、ビートルズの「HAPPINESS IS A WARM GUN」と同じフレーズも出てきます。シングル「IMAGINE」のB面にもなっているので、ジョンのお気に入りの曲だったのでしょう。
シングルのB面になったのは、A面の「IMAGINE」では夢想家で理想を歌ってはいるものの、実際には「IT'S SO HARD」なのだよ、と云う意味も含んでいるのでしょう。ジョンの数少ないソロでのライヴでも、この楽曲は演奏されています。まずは、1972年1月13日放送の「デビット・フロスト・ショー」で披露して、1972年2月14日に放送された「マイク・ダグラス・ショー」でエレファンツ・メモリーをバックに披露していて、その番組では、やはり「IMAGINE」も披露しているので、表裏一体だったのでしょう。そして、ジョンにとってはソロになって唯一のフル・ライヴとなってしまった1972年8月30日の「ワン・トゥ・ワン・コンサート」でも、昼夜2回共に、やはりエレファンツ・メモリーとドラマーのジム・ケルトナーをバックに「IT'S SO HARD」を演奏しています。「マイク・ダグラス・ショー」は、DVDにもなったし、先日NHK BSでも抜粋したドキュメンタリーが放送されたので観る事が出来ます。「ワン・トゥ・ワン・コンサート」も、1986年にライヴ盤「LIVE IN NEW YORK CITY」が出ているので、音源も聴けますし、映像も観る事が出来ます。勿論、「IMAGINE / THE FILM」には、PVも収録されています。「IT'S SO HARD」のライヴ音源やデモ音源やアウトテイクは、1998年の「JOHN LENNON ANTHOLOGY」や、2018年の「IMAGINE」の箱などで聴く事が出来ます。
(小島イコ)