1982年11月リリースのアルバム「GONE TROPPO」から1987年11月リリースのアルバム「CLOUD NINE」までの5年間もアルバムをリリースしなかったジョージ・ハリスンですが、その空白期間にアルバム「CLOUD NINE」以降の再ブレイクを予感させる音楽活動も行っています。ジョージはその期間には映画制作に没頭していたので、映画絡みの楽曲が幾つか発表されていて、前回に取り上げた「I DON'T WANT TO DO IT」もそのひとつです。そして、ジョージはプロモーション・シングルを制作もしていて、それが1986年の「SHANGHAI SURPRISE(上海サプライズ)」と、1987年の「HERE COMES THE SUN(LIVE)」です。1986年の「SHANGHAI SURPRISE」は、同名映画の主題歌としてジョージが書き下ろした楽曲で、ジョージとヴィッキー・ブラウンがデュエットしています。映画「SHANGHAI SURPRISE(上海サプライズ)」は、当時は夫婦だったマドンナとショーン・ペンが共演していて、ジョージは音楽と制作総指揮を担当していて、カメオ出演もしているのですけれど、評判は散々で、第7回ゴールデンラズベリー賞で7部門にノミネートされて、マドンナが最低主演女優賞を受賞しています。
ジョージは映画「SHANGHAI SURPRISE(上海サプライズ)」のサントラ盤をリリースしていなくて、その一部の楽曲が後にアルバム「CLOUD NINE」に収録されています。前記の第7回ゴールデンラズベリー賞で最低主題歌賞にノミネートされていた主題歌の「SHANGHAI SURPRISE」は、現在ではアルバム「CLOUD NINE」のボーナス・トラックで聴けます。ジョージがカメオ出演した場面で同じバンドの一員として出演していたのが、ELOのジェフ・リンで、共通の友人であるデイヴ・エドモンズを介して親しくなっていって、アルバム「CLOUD NINE」を共同プロデュースする事となり、ご存知の通り、その後にはトラヴェリング・ウィルベリーズを結成しているだけではなく、1995年と1996年にはビートルズの新曲「FREE AS A BIRD」と「REAL LOVE」をジェフ・リンがプロデュースして、1997年リリースのポール・マッカートニーのアルバム「FLAMING PIE」をポールとジェフ・リンで共同プロデュースする事となるのです。つまり、ジョージとジェフ・リンが映画「SHANGHAI SURPRISE(上海サプライズ)」で出逢っていなければ、その後の展開が全く違っていたわけで、そう云った意味では大いに意味がある映画なのです。
ジョージとジェフ・リンは意気投合して、ジョージにとっては5年ぶりのアルバム「CLOUD NINE」を制作するのですけれど、1987年6月には「プリンス・トラスト」にジョージとリンゴが出演していて、ジョージは「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」と「HERE COMES THE SUN」を、リンゴは「WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS」と、ビートルズ・ナンバーを演奏しています。「プリンス・トラスト」には前年にポールが出演していて、やはりビートルズ・ナンバーを披露していて「元ビートルズのメンバーがビートルズ・ナンバーを演奏する」と云う至極当然な事がようやく肯定される様になっていました。その時に「HERE COMES THE SUN」でジョージと一緒にアコースティック・ギターを弾いていたのがジェフ・リンです。つまり、1985年のシングル「I DON'T WANT TO DO IT」から、1986年のプロモーション・シングル「SHANGHAI SURPRISE」へ、そして1987年のプロモーション・シングル「HERE COMES THE SUN(LIVE)」の流れは、そのまんま1987年のアルバム「CLOUD NINE」へと繋がっているのです。やはり、貯めがある時のジョージは強い、と思わされる展開ではあります。
(小島イコ)