1982年11月にリリースされたアルバム「GONE TROPPO」を最後に、ジョージ・ハリスンは音楽活動を休止してしまいました。それから5年後の1987年11月になってアルバム「CLOUD NINE」で大復活を遂げるわけですけれど、アルバム「GONE TROPPO」のハチャメチャな内容に、リリース当時はファンも呆れてしまい、ジョージが音楽活動を休止している事すら話題にならなくなっていました。ジョージ本人も映画制作に没頭していて「僕はもう音楽業界では引退した人間だから」などと云っていたのです。それで、米国ではシングル「I REALLY LOVE YOU」を、日本ではシングル「DREAM AWAY(オ・ラ・イ・ナ・エ)」を1983年2月にアルバム「GONE TROPPO」からシングル・カットしたのを最後に、1987年のアルバム「CLOUD NINE」までが空白期間となっているのですけれど、実はその間に、1985年3月にリリースされた映画「ポーキーズ・リヴェンジ」に収録された「I DON'T WANT TO DO IT」があるのです。この楽曲はボブ・ディランが1968年に書いた曲で、ジョージは1970年リリースのアルバム「ALL THINGS MUST PASS」のセッションでもリハーサルしていて、その音源も、現在では2021年リリースのアルバム「ALL THINGS MUST PASS」50周年記念盤の箱で聴く事が出来ます。
サントラ盤からのシングル・カットとして、1985年4月22日にリリースされていて、サントラ盤LPとはミックスが違っています。シングルA面がジョージの「I DON'T WANT TO DO IT」で、シングルB面はデイヴ・エドモンズの「QUEEN OF THE HOP」が収録されています。デイヴ・エドモンズが両面共にプロデュースしていて、ジョージが歌う「I DON'T WANT TO DO IT」は1984年11月にデイヴ・エドモンズと共にレコーディングされています。つまりは、アルバム「ALL THINGS MUST PASS」からの音源ではなくて、サントラ盤の為に新たにレコーディングされていて、アルバム「GONE TROPPO」からアルバム「CLOUD NINE」までの空白期間を埋める音源なのです。2009年6月にリリースされたジョージの名ばかりはオールタイム・ベスト盤「LET IT ROLL」には、サントラ盤のヴァージョンをジャイルズ・マーティンとデイヴ・エドモンズがリマスターして収録されていて、シングル・ヴァージョンはシングルでしか聴けません。サントラ盤もシングルも、ダーク・ホース・レーベル(ワーナー)からではなく、コロムビアからのリリースだったので、ベスト盤「LET IT ROLL」の目玉はこの曲です。
それで、その何故かオールタイム・ベスト盤と云う事になっている「LET IT ROLL」なのですけれど、内容は、1「GOT MY MIND SET ON YOU」(1987)、2「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」(1973)、3「BALLAD OF SIR FRANKIE CRISP(LET IT ROLL)」(1970)、4「MY SWEET LORD」(1970)、5「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS(LIVE)」(1968, 1971)、6「ALL THINGS MUST PASS」(1970)、7「ANY ROAD」(2002)、8「THIS IS LOVE」(1987)、9「ALL THOSE YEARS AGO(過ぎ去りし日々)」(1981)、10「MARWA BLUES」(2002)、11「WHAT IS LIFE(美しき人生)」(1970)、12「RISING SUN(悠久の輝き)」(2002)、13「WHEN WE WAS FAB」(1987)、14「SOMETHING(LIVE)」(1969, 1971)、15「BLOW AWAY」(1979)、16「CHEER DOWN」(1989)、17「HERE COMES THE SUN(LIVE)」(1969, 1971)、18「I DON'T WANT TO DO IT」(1985)、19「ISN'T IT A PITTY」(1970)の、全19曲入りなのです。
1970年リリースのアルバム「ALL THINGS MUST PASS」から5曲、1971年8月1日のライヴを収録したライヴ盤「THE COCERT FOR BANGLA DESH」から3曲(全てビートルズ・ナンバー)、1973年リリースのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」から1曲、1979年リリースのアルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」から1曲、1981年リリースのアルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND(想いは果てなく〜母なるイングランド)」から1曲、1985年のサントラ盤から1曲、1987年リリースのアルバム「CLOUD NINE」から3曲、1989年のシングルから1曲、2002年リリースのアルバム「BRAINWASHED」から3曲となっていて、アルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」とアルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」とアルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND」からの1曲ずつはヒット・シングルなので、要するにアルバム「ALL THINGS MUST PASS」とアルバム「CLOUD NINE」とアルバム「BRAINWASHED」の3作からに、シングル・ヒットをチョロっと入れて、ライヴ盤「THE COCERT FOR BANGLA DESH」からビートルズ・ナンバーを加えた内容で、「どこがオールタイム・ベスト盤なの?」とツッコミどころが満載の選曲です。内容としては、EMIが勝手に選曲した「THE BEST OF GEORGE HARRISON」並みに酷いと思います。この「I DON'T WANT TO DO IT」と、シングル「CHEER DOWN」がリマスターされて収録されているのが救いではあります。
(小島イコ)