ジョージ・ハリスンが1982年11月にダーク・ホース/ワーナーからリリースしたアルバム「GONE TROPPO」は、ファンからまで酷評された作品でした。現在では、それほど悪くないアルバムだと云われているものの、リリース当時の評判は最悪で、松村雄策さんからまで「今、ジョージがやっているのは、ビートルズ・ファンへの裏切り行為だ」とまで書かれていました。個人的には、このぶっ飛んだジョージも好きなのですけれど、何故そんなに叩かれたのかを考えると、つまりはアルバムにトータルなテーマが欠如していて、バラバラな楽曲が並べられていたからでしょう。ジョージのアルバムは、1970年リリースの「ALL THINGS MUST PASS」も、1973年リリースの「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」も、1974年リリースの「DARK HORSE」も、1975年リリースの「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」も、1976年リリースの「THIRTY THREE & 1/3」も、1979年リリースの「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」も、全てアルバムに統一した流れがあって「アルバムで聴く」と云う構造になっていました。しかし、1980年リリース予定だった「SOMEWHERE IN ENGLAND」を、その統一した流れで完成させたのに、ワーナーの要望で全10曲中4曲を差し替える事となって、1981年にリリースして、アルバムのトータルな構造がぶち壊されています。
つまり、前作アルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND」の内容を不本意なカタチにしてしまった事で、一寸キレてしまったジョージが、だったら無茶苦茶な事をやってしまおうと、敢えて統一感を無視したアルバム「GONE TROPPO」を制作したとも考えられます。アルバム冒頭を飾り第1弾シングルともなった「WAKE UP MY LOVE」は、ニューウェーブ風のシンセサイザー・ポップで、ビートルズにシンセサイザーを持ち込んだ男の面目躍如です。アルバムが全米108位とどん底でしたが、シングル「WAKE UP MY LOVE」は全米53位まで上がっています。そして、1983年2月9日には、米国とオランダで第2弾シングル「I REALLY LOVE YOU / CIRCLES」がリリースされました。A面の「I REALLY LOVE YOU」は、リロイ・スウェアリンゲン作で、1961年にステレオズがリリースしたドゥーワップのカヴァーです。ステレオズによるオリジナルは、全米29位・R&B15位で、そんなに爆発的に売れた曲ではありません。その辺がジョージらしいところで、日本で云ったらタツローこと山下達郎さんみたいな事をやっています。タツローは同好の仲間がいないのでひとりで多重録音しますが、ジョージには一緒にドゥーワップをやってくれる仲間がいるのですけれど、何故シングル・カットしたのかは謎です。このシングルは、チャート入りしていません。
そして、B面には「CIRCLES」が収録されています。この「輪廻転生」を歌った楽曲は、1968年11月22日リリースのビートルズのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」用に書かれた曲で、1968年5月にジョージの自宅で行われた「イーシャー・デモ」では演奏されていたものの、本番のレコーディングでは取り上げられなかった曲のひとつです。「イーシャー・デモ」は、以前はブートレグの定番でしたが、2018年にリリースされたアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」の50周年記念盤の箱で全曲が公式盤となって聴ける様になりました。箱を買わなくとも、アルバム本編2枚に「イーシャー・デモ」全曲を加えたCD3枚組のパッケージでも聴く事が出来ますし、ジャイルズ・マーティン曰く「ブートレグとは一線を画す出来栄え」なのですけれど、オリジナルの2トラックまで遡ってリミックスされていて、アルバムの曲順に並べ替えています。故に、曲順を直さずリミックスされていない音源でのブートレグの価値もあるわけです。その「CIRCLES」を、14年後に正式にレコーディングしたわけで、アルバム「GONE TROPPO」では最後に収録されています。雑多な楽曲がバラバラなまんまで放り出された様なアルバム「GONE TROPPO」は、ジョージ版の「ホワイト・アルバム」だと考えると、なるほどね、と合点がいくのです。
(小島イコ)