前作アルバム「THIRTY THREE & 1/3」から約2年半ぶりとなる1979年2月20日(米国)・同年2月23日(英国)・同年2月25日(日本)に、ジョージ・ハリスンはビートルズ解散後では6作目でワーナー移籍後では2作目のスタジオ・アルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」を、ダーク・ホース/ワーナーからリリースしました。内容は、A面が、1「LOVE COMES TO EVERYONE(愛はすべての人に)」、2「NOT GUILTY」、3「HERE COMES THE MOON」、4「SOFT-HEARTED HANA」、5「BLOW AWAY」で、B面が、1「FASTER」、2「DARK SWEET LADY」、3「YOUR LOVE IS FOREVER(永遠の愛)」、4「SOFT TOUCH」、5「IF YOU BELIEVE」の、全10曲入りです。この内「IF YOU BELIEVE」のみジョージとゲイリー・ライトの共作で、他の9曲はジョージの単独作です。プロデュースはジョージとラス・タイトルマンで、レコーディング・メンバーは、ジョージ・ハリスン(ギター、リード&バッキング・ヴォーカル、ベース)、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、ウィリー・ウィークス(ベース)、ニール・ラーセン(キーボード、ミニ・モーグ)、レイ・クーパー(パーカッション)、スティーヴ・ウィンウッド(ポリモーグ、ハーモニウム、ミニ・モーグ、バッキング・ヴォーカル)、エミリー・リチャード(マリンバ)、ゲイル・レヴァント(ハープ)、エリック・クラプトン(ギター「LOVE COMES TO EVERYONE」)、ゲイリー・ライト(オーバーハイム「IF YOU BELIEVE」)、デル・ニューマン(ストリング&ホーン・アレンジ)です。
そして、第1弾シングルとして「BLOW AWAY」を、1979年2月4日(米国)・同年2月16日(英国)・同年3月25日(日本)にリリースするのですけれど、B面が米国では「SOFT-HEARTED HANA」で、英国では「SOFT TOUCH」で、日本では「IF YOU BELIEVE」と、各国盤でそれぞれ違っています。アルバムは全米14位・全英39位で、シングル「BLOW AWAY」は全米16位・全英51位でした。アルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」は、ファンの間では1970年リリースのアルバム「ALL THINGS MUST PASS」や、1973年リリースのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」や、1987年リリースのアルバム「CLOUD NINE」と云った名作で商業的にも成功したアルバムと同等の高評価を得ているし、個人的にはジョージのアルバムでは最も優れた出来栄えだと思うのですけれど、リリース当時は「パンクだ!ニューウェーブだ!」と云った状況で、ジョージは「パンクはクズだ」と公言していて、極上のAORポップ路線で勝負していたわけで、チャート・アクションだけでは語れない名盤だと思います。全10曲が全てシングル・カット出来そうな佳曲揃いで、実際に「NOT GUILTY」と「HERE COMES THE MOON」と「DARK SWEET LADY」以外の7曲はシングルのAB面になっています。
そのシングルになっていない3曲も侮れない楽曲で、「NOT GUILTY」は1968年リリースのビートルズのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」に収録予定で100テイク以上もレコーディングした挙句の果てにボツになった曲の蔵出しで、ビートルズでのヘヴィーなアレンジとは違ってアコースティックな仕上がりです。「HERE COMES THE MOON」は、1969年リリースのビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」に収録されたジョージの傑作のひとつである「HERE COMES THE SUN」のセルフ・パロディで、ラトルズもニール・イネスも吃驚な名曲です。「DARK SWEET LADY」は、ジョージの妻となったオリヴィアさんに捧げた曲で、ジョージならではの美しいメロディーです。ジョージはこの頃にオリヴィアさんと再婚して、長男のダニー・ハリスンも誕生して、私生活でも充実していたので、こうした穏やかで優しく優れたアルバムを作れたのでしょう。他の7曲は、何らかのカタチでシングル・カットされているのですから、ジョージも自信を持ってタイトルを「GEORGE HARRISON」と名付けているのでしょう。しかしながら、日本では当初はアルバム「ALL THINGS MUST PASS」に「ジョージ・ハリスン」と邦題を付けていたので、こちらには「慈愛の輝き」と云う邦題が付いています。ビートルズ関連の邦題にはナイスなものもありますけれど、このアルバム・タイトル「慈愛の輝き」もそのひとつです。
シングル「BLOW AWAY」にもプロモーション・ヴィデオがあって、なんと、まあ、ニール・イネス(元・ボンゾ・ドッグ・バンド〜ラトルズ)が監督を務めています。ジョージは、1978年のラトルズのTV特番「ALL YOU NEED IS CASH」にも出演しているし、以前からエリック・アイドルに監督させたりしているので、そっちの方でも交流がお盛んなのです。また、ジョージは1980年に自伝「I ME MINE」を上梓しているのですけれど、ソレを読んだジョン・レノンが「ガキの頃からあれだけ可愛がってやったのに、俺に関する事がほとんど書かれていないとは、何事だ!」と怒って、すぐさま「BLOW AWAY」を引用した「THE RISH KESH SONG」を書いています。ジョンはボブ・ディランが改宗した事にも腹を立てて「SARVE YOURSELF」を書いているのですけれども、どちらもジョンが引退状態だった頃に書かれていて、つまりはホーム・デモ音源しか遺されてはいません。それらが公開されたのはジョンの死後で、ジョンが生きていたならばどうなっていたかは分かりません。まあ「HOW DO YOU SLEEP?」を発表しちゃったジョンですから、悪意丸出しでレコーディングしていたかもしれませんけれどね。アルバム「IMAGINE」の記録映像を観ると、ジョンがピアノの弾き語りでジョージに「HOW DO YOU SLEEP?」を聴かせて、ジョージが「まさか、そんな曲をレコーディングしないよね?」と訊くと、ジョンが「するに決まっているだろう」と悪魔の様な顔で笑いながら返す場面があって、どこが「愛と平和の偉人」なんだって話です。
(小島イコ)