1976年11月8日にリリースされたジョージ・ハリスンのワーナー移籍第1弾アルバム「THIRTY THREE & 1/3」からは、米国(1976年11月5日)・英国(1976年11月8日)・日本(1976年12月10日)では「THIS SONG」が先行シングルとしてリリースされていて、全米25位とそこそこヒットしたものの、英国ではチャート入りしていません。それで、米国(1977年1月24日)や日本(1977年4月24日)には第2弾シングルとして「CRACKERBOX PALACE(人生の夜明け)」をリリースして全米19位となっているのですが、英国ではシングル・カットされていません。更に、シングル「THIS SONG」のB面は、各国盤で共通していて「LEARNING HOW TO LOVE YOU(愛のてだて)」なのですけれど、米国では「CRACKERBOX PALACE」のB面も同じ曲が入っていて、日本盤では「PURE SMOKEY」となっています。そんなドサクサ紛れに、英国アップルは1976年12月にシングル「MY SWEET LORD / WHAT IS LIFE」をジャケット違いで再発していて、1977年4月には米国キャピトルがシングル「DARK HORSE / YOU」をリリースしています。これらはEMIが勝手に編集したベスト盤「THE BEST OF GEORGE HARRISON」からのシングル・カットと云う事なのでしょうけれど、アルバムもシングルもワーナーからの新作と意図的にバッティングさせています。ジョージは、何も悪い事をしていないはずなのに、不遇な扱いをされていました。
それにしたって、アルバム「THIRTY THREE & 1/3」の中でも最もジョージらしい佳曲である「CRACKERBOX PALACE」をシングル・カットしなかった英国は、どうかしています。「CRACKERBOX PALACE」は、1989年10月23日にリリースされたダーク・ホース時代のベスト盤「BEST OF DARK HORSE 1976-1989」にも、ジョージ自身の選曲で収録されていて、「THIS SONG」が未収録なので、アルバム「THIRTY THREE & 1/3」からは唯一選曲されている楽曲です。ジョージには公式のベスト盤が3作あって、1976年のEMIが勝手に選曲した「THE BEST OF GEORGE HARRISON」と、ジョージ自身が選曲した1989年の「BEST OF DARK HORESE 1976-1989」と、死後の2009年にオリヴィアさんが選曲した事になっているオールタイム・ベスト盤「LET IT ROLL」なのですが、ジョージが選曲してソロの楽曲のみなのは「BEST OF DARK HORESE 1976-1989」だけです。ソレは新曲が3曲(「POOR LITTLE GIRL」と「COCKAMAMIE BUSINESS」と「CHEER DOWN」)も入っていて、シングル・ヴァージョンや編集ヴァージョンも入っている「ベスト盤の鑑」の様なアルバムです。新曲はシングルもしくはそのベスト盤でしか聴けず、「COCKAMAMIE BUSINESS」はこのベスト盤でしか聴けず、「POOR LITTLE GIRL」と「COCKAMAMIE BUSINESS」は未だにリマスターされてもいません。
話が逸れましたが、「CRACKERBOX PALACE」をシングル・カットしなかった英国では、何故か1977年2月に第2弾シングルとして「TRUE LOVE / PURE SMOKEY」を、更に1977年6月には第3弾シングル「IT'S WHAT YOU VALUE / WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME」を、ピクチャー・スリーブも付けずにシングル・カットしています。「TRUE LOVE」はコール・ポーター作で、オリジナルは1956年のミュージカル映画「上流社会」の挿入歌で、ビング・クロスビーとグレース・ケリーのデュエットです。映画会社も設立してしまう程の映画好きなジョージらしいカヴァーですけれど、シングルA面にするのは如何なものか?と云う選曲です。B面は日本盤ではシングル「CRACKERBOX PALACE」のB面だった「PURE SMOKEY」です。英国のみの第3弾シングルとなった「IT'S WHAT YOU VALUE / WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME」も、一体何を考えていたのか理解不能なカップリングです。「IT'S WHAT YOU VALUE」も「WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME」も、アルバム「THIRTY THREE & 1/3」からのシングル・カットで、音源的にも面白味はなく、アルバムが発売されてから半年以上も後になって、ピクチャー・スリーブも付けずにリリースした意図は全く不明です。「TRUE LOVE / PURE SMOKEY」も「IT'S WHAT YOU VALUE / WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME」も、碌にプロモーションも行っていないので、チャート入りしていません。コレクターの方々にとっても、売れなかったので数が少なくて貴重なだけのシングルでしょう。
(小島イコ)