1975年9月22日(米国)・10月3日(英国)・10月20日(日本)にアップルからリリースされたジョージ・ハリスンのアルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)(ジョージ・ハリスン帝国)」からは、同年9月12日に先行シングルとして「YOU(二人はアイ・ラヴ・ユー) / WORLD OF STONE(悲しみの世界)」がリリースされていて、全英38位・全米20位とスマッシュ・ヒットしました。ジョージはアルバムからの第2弾シングルとして、1975年12月8日(米国)・1976年2月6日(英国)・1976年2月5日(日本)に「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)(ギターは泣いている) / MAYA LOVE」をアップルからリリースしました。しかしながら、ジョージは移籍先のアルバム制作で多忙でプロモーション活動を行われなかった為か、全英でも全米でもチャート入りしていません。あの「HEY JUDE」の全米9週連続首位!で華々しく始まったアップルは、このジョージの曲で全米トップ100入りも出来ずに終わったのでした。アルバムからのシングル・カットで、英米ではピクチャー・スリーブもなかったので、魅力がなかったのですけれど、実はこのシングル・ヴァージョンはエンディングがフェイドアウトする「3分49秒」に編集された音源で、アルバムでは「4分11秒」なので20秒以上も長さが違っています。更に日本盤などではピクチャー・スリーブ付きなので、海外のマニアの間では日本盤の人気は高いそうです。
A面の「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)(ギターは泣いている)」のレコーディング・メンバーは、ジョージ・ハリスン(ヴォーカル、12弦アコースティック・ギター、シンセベース、ミニモーグ、スライド・ギター)、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)、デイヴィッド・フォスター(ピアノ、ストリングス編曲)、ゲイリー・ライト(シンセサイザー)、ジム・ケルトナー(ドラムス)です。楽曲は、ビートルズ時代の1968年11月22日リリースのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」に収録された「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」の続編と申しますか、二番煎じです。コレはですね、1974年11月2日から同年12月20日まで行われた「北米ツアー」がバカな評論家に叩かれていて、その中には「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」の歌詞を「WHILE MY GUITAR GENTLY SMILE」と変えていた事なども含まれていたので、真面目なジョージは「いやいや、まだギターは泣いているよ」と歌にして返したわけですなあ。云わばビートルズのパロディを本人がやっていて、ビートルズの「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」ではエリック・クラプトンがリード・ギターを弾いていましたが、この「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」ではジェシ・エド・デイヴィスが弾いています。
ジョージは北米ツアーがバカ丸出しの評論家にけちょんけちょんに叩かれた事で、その後17年もツアーをやっていません。故に、1991年12月のジョージの来日公演は貴重で、ジョージはその後に亡くなるまでツアーを行っていないので、日本のファンは本当に幸せな体験をしました。アノ来日公演も、エリック・クラプトンが熱心に説得して実現していて、来日経験が多いクラプトンが「日本のファンは優しいから大丈夫」と、何とかジョージにやる気を起こさせたのです。「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」は、来日公演のセット・リストに入れる案もあったそうです。北米ツアーに関しては、実際に観たジョン・レノンやポール・マッカートニーやリンゴ・スターも好意的でしたし、ツアー・バンドのメンバーも自信を持っているし、大観客も盛り上がっていたのに、バカばかりの評論家だけが貶していたわけですよ。ラヴィ・シャンカール先生のパートも、現在では「ワールド・ミュージックの先駆け」と云われているわけで、まあ、当時の評論家がバカだったわけですなあ。この「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」は、後の「HERE COMES THE MOON」程には突き抜けていないので評価は低いものの、ジョージ本人は気に入っていたらしく、1992年に元・ユーリズミックのデイヴ・スチュワートとジョージでリメイクしています。
約10年後にその「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」の音源に、リンゴ・スター(ドラムス)、ダニー・ハリスン(アコースティック・ギター)、カラ・ディオガーディ(バッキング・ヴォーカル)をオーバー・ダビングして、2014年リリースの箱「APPLE YEARS 1968-1975」の「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」にボーナス・トラックとして収録されています。シングルB面となった「MAYA LOVE」は、アルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」からではなく、ひとつ前の1974年リリースのアルバム「DARK HORSE」からのシングル・カットです。レコーディング・メンバーは、ジョージ・ハリスン(リード・ヴォーカル、スライド・ギター、アコースティック・ギター、シェイカー、バッキング・ヴォーカル)、ビリー・プレストン(エレクトリック・ピアノ)、ウィリー・ウィークス(ベース・ギター)、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、トム・スコット(サックス、ホーンアレンジ)です。この曲は、北米ツアーでもほぼ同じメンバーで演奏されていて、ジョージのお気に入りのひとつなのでしょう。アルバム「DARK HORSE」に比べると、一気に「AOR」化したアルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」の要因は、まだ無名だったデイヴィッド・フォスターにアレンジを任せたからで、ジョージは一寸早過ぎたのです。
(小島イコ)