
1975年4月24日にピート・ハムが27歳で首吊り自殺して、バッドフィンガーの歴史は終わったかに思えました。ところが、1979年3月にジョーイ・モーランドとトム・エヴァンスのオリジナル・メンバー2人を中心としたアルバム「AIRWAVES(ガラスの恋人)」が、1981年1月にはアルバム「SAY NO MORE」が、それぞれ「バッドフィンガー」名義でリリースされています。1980年代になってバッドフィンガーは「パワーポップの元祖」として評価される様になったのですけれど、この再結成バッドフィンガーのよる2作はオリジナル・メンバーでの諸作に比べるならば、ちっとも「パワーポップ」ではありません。その後、今度はトム・エヴァンスが、1983年11月19日に36歳で首吊り自殺してしまい、遂にバッドフィンガーは終わったと思われたのです。ところがどっこい、1990年9月に突如としてリリースされたのが、ライヴ盤「DAY AFTER DAY:LIVE」です。コレは、1974年2月18日から4月5日まで行われたオリジナル・バッドフィンガーとしては最後のアメリカ・ツアーの3月4日のクリーブランド公演を元にしたライヴ音源集です。
内容は、1「SOMETIMES」、2「I DON'T MIND」、3「BLIND OWL」、4「GIVE IT UP」、5「CONSTITUTION」、6「BABY BLUE」、7「NAME OF THE GAME」、8「DAY AFTER DAY」、9「TIMELESS」、10「I CAN'T TAKE IT」の、全10曲入りです。このライヴ音源は、リリースを前提としてレコーディングされていて、おそらくワーナーとの3年で6枚の契約の内の1枚にライヴ盤もリリースしようと考えていたのでしょう。それを、1974年11月4日にバッドフィンガーを脱退したジョーイ・モーランドが持ち出していて、1980年代から始まったバッドフィンガーへの正当な評価に乗じて、レコーディングから16年後にレコード会社へ売り込んでいて、リリースする際にジョーイが実際のライヴから5曲をボツにして、曲順も変更して、一部の曲では新たにギターとヴォーカルをオーバーダビングしています。元の演奏は、ピート・ハム(ギター、ヴォーカル)、トム・エヴァンス(ベース、ヴォーカル)、マイク・ギビンズ(ドラムス、ヴォーカル)、ジョーイ・モーランド(ギター、ヴォーカル)のオリジナル・メンバーによる演奏ですが、真の姿を記録したライヴ盤ではありません。
1990年代に入って、オリジナル・アルバムが全てCD化された後の1997年になって、ライヴ盤「IN CONCERT AT THE BBC 1972-3」がリリースされました。こちらは1972年6月8日と1973年8月10日に行われたロンドンのパリス・シアターでのライヴ音源14曲に、「トップ・オブ・ザ・ポップス」用の「COME AND GET IT」を加えた正真正銘のライヴ音源集です。内容は、1「BETTER DAYS」、2「ONLY YOU KNOW AND I KNOW」、3「WE’RE FOR THE DARK」、4「SWEET TUESDAY MORNING」、5「FEELIN' ALRIGHT」、6「TAKE IT ALL」、7「SUITCASE」、8「LOVE IS EASY」、9「BLIND OWL」、10「CONSTITUTION」、11「ICICLES」、12「MATTED SPAM」、13「SUITCASE」、14「I CAN'T TAKE IT」、15「COME AND GET IT」の、全15曲入りです。トラフィックのデイヴ・メイスン作の「ONLY YOU KNOW AND I KNOW」と「FEELIN' ALRIGHT」と云ったカヴァーも演奏していて、バンドがノリノリだった頃の演奏なので爽快なライヴ音源集となっております。
更にブートレグでは、1970年12月のフィラデルフィア公演を収録した「KICKIN' ASS」と云うのを持っているのですけれど、音は悪いものの内容は面白いので紹介すると、1「MY DARK HOUR」、2「MIDNIGHT SUN」、3「BETTER DAYS」、4「BLODWYN」、5「WE’RE FOR THE DARK」、6「FEELIN' ALRIGHT」、7「I CAN'T TAKE IT」、8「NO MATTER WHAT」、9「MEDLEY:LOVE ME DO〜LUCILLE〜RIP IT UP〜LONG TALL SALLY」、10「SUITCASE」、11「ROLL OVER BEETHOVEN」で、最後が途中までで切れていますが、リトル・リチャードのカヴァー・メドレーがあったりして楽しめます。その後は、12「WE’RE FOR THE DARK」、13「I CAN'T TAKE IT」の2曲の1970年のアセテイト盤音源と、14「DREAMING」、15「PIANO RED」、16「ROCK AND ROLL」、17「REGULAR.」、18「DO YOU MIND」と5曲のアルバム「ASS」の1972年のアウトテイクを加えて、全18曲入りです。バッドフィンガーはライヴでは、スタジオ盤よりもよりハードロック寄りの演奏をしています。3作共に、やはり、バッドフィンガーはオリジナルの4人がいいな、と思わせるライヴ音源です。
(小島イコ)