
1973年11月26日(米国)・1974年3月8日(英国)に、アップルから最後のリリースとなったバッドフィンガーの4作目のアルバム「ASS」ですが、アルバム制作中に悪徳マネジャーのスタン・ポリーはワーナーと3年間で6枚と云う契約を交わしてしまいました。それで、バッドフィンガーは1973年4月にアルバム「ASS」のレコーディングを終了させると、同年6月にはバッドフィンガーの5作目でワーナー移籍後では初となるアルバム「BADFINGER(涙の旅路)」のレコーディングを、アルバム「ASS」から引き続きクリス・トーマスのプロデュースで開始しました。アルバム「BADFINGER」の内容は、A面が、1「I MISS YOU」、2「SHINE ON」、3「LOVE IS EASY」、4「SONG FOR A LOST FRIEND」、5「WHY DON'T WE TALK?」、6「ISLAND」で、B面が、1「MATTED SPAM」、2「WHERE DO WE GO FROM HERE?」、3「MY HEART GOES OUT」、4「LONELY YOU」、5「GIVE IT UP」、6「ANDY NORRIS」の、全12曲入りです。このアルバムは、米国では1974年2月11日にリリースされていて、つまり前作「ASS」の英国盤よりも先です。英国でのリリースは1974年6月なので、英国では僅か3か月の間にアルバムが2作続けてリリースされています。
アルバム「BADFINGER」は、「I MISS YOU」と「SONG FOR A LOST FRIEND」と「MATTED SPAM」と「LONELY YOU」の4曲がピート・ハム作で、「WHY DON'T WE TALK?」と「WHERE DO WE GO FROM HERE?」の2曲がトム・エヴァンス作で、「SHINE ON」がピートとトムの共作で、「LOVE IS EASY」と「ISLAND」と「GIVE IT UP」の3曲がジョーイ・モーランド作で、「MY HEART GOES OUT」がマイク・ギビンズ作で、「ANDY NORRIS」がジョーイと妻のキャッシー・モーランドの共作です。ジョン・コッシュ(ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」やアルバム「LET IT BE」も担当)が手掛けたジャケットはお洒落ですけれど、前作アルバム「ASS」から立て続けにレコーディングしたのでネタが切れている印象です。アルバムの原題はズバリ「BADFINGER」なので、それなりに自信はあったのでしょうけれど、邦題は「涙の旅路」となっていて、米国や日本でシングル・カットされた「I MISS YOU / SHINE ON」のA面である「I MISS YOU」の邦題も「涙の旅路」なのでややこしいのです。英国でのシングルは「LOVE IS EASY / MY HEART GOES OUT」ですけれど、アルバムもシングルも大爆死してしまいました。
何せ3年で6枚の契約なので、1974年10月14日には早くもワーナー移籍後第2弾でバッドフィンガーとしては6作目で、結果的にはオリジナル・メンバーでの最後となったアルバム「WISH YOU WERE HERE(素敵な君)」を、3作続けてクリス・トーマスのプロデュースでリリースしました。英国では1974年にバッドフィンガーの新作アルバムが3作もリリースされた事になります。内容は、A面が、1「JUST A CHANCE」、2「YOU'RE SO FINE」、3「GOT TO GET OUT OF HERE」、4「KNOW ONE KNOWS」、5「DENNIS」で、B面が、1「IN THE MEANTIME / SOME OTHER TIME」、2「LOVE TIME」、3「KING OF THE LOAD」、4「MEANWHILE BACK AT THE RANCH / SHOULD I SMOKE」の、全9曲入りです。曲は、「JUST A CHANCE」と「KNOW ONE KNOWS」と「DENNIS」の3曲がピート・ハム作で、「KING OF THE LOAD」がトム・エヴァンス作で、「YOU'RE SO FINE」がマイク・ギビンズ作で、「GOT TO GET OUT OF HERE」と「LOVE TIME」の2曲がジョーイ・モーランド作で、「IN THE MEANTIME / SOME OTHER TIME」がジョーイとマイクの共作で、「MEANWHILE BACK AT THE RANCH / SHOULD I SMOKE」がピートとジョーイの共作です。
共作となっている「IN THE MEANTIME / SOME OTHER TIME」と「MEANWHILE BACK AT THE RANCH / SHOULD I SMOKE」は、元々は未完成だった曲をメドレーにしたもので、ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」のB面メドレーの様な手法です。原題の「WISH YOU WERE HERE」は1975年リリースのピンク・フロイドに同名のアルバムがありますが、こちらが先です。原題は同じでもこちらの邦題は「素敵な君」で、あちらの邦題は「炎〜あなたがここにいてほしい」なのですから、邦題はいい加減です。当時に日本でだけリリースされたシングル「KNOW ONE KNOWS(誰も知らない) / YOU'RE SO FINE(素敵な君)」もB面がアルバムの邦題と同じになっています。A面の「KNOW ONE KNOWS」には、元・サディスティック・ミカ・バンド(1974年にクリス・トーマスのプロデュースで「黒船」をリリースした)の加藤ミカさん(翌1975年にクリス・トーマスと不倫関係になって加藤和彦さんと離婚)が日本語でナレーションを担当していて、以前にも触れましたが元・乃木坂46の齋藤飛鳥ちゃんが先日放送された「ハマスカ放送部」で洋楽プレイリストに5曲中の1曲として選んでいて、ぶったまげました。このアルバムは前々作アルバム「ASS」や前作アルバム「BADFINGER」よりも良い名盤だと思いますけれど、当時のチャートでは大爆死しています。
ワーナー移籍後のアルバムはリアルタイムでは売れなかったものの、後にバッドフィンガーが評価される様になって、契約の関係でアップル時代のアルバムはなかなかCD化されない中で、ワーナー時代の2作から選んだベスト盤や、当時は幻のアルバムだった7作目のアルバム「HEAD FIRST」からの楽曲や再結成バッドフィンガーのアルバム「AIRWAVES(ガラスの恋人)」からの楽曲も収録したベスト盤がリリースされたので、初めて聴いたバッドフィンガーがワーナー移籍後だったと云うファンも多いでしょう。現在では、アルバム「BADFINGER」には10曲、アルバム「WISH YOU WERE HERE」には9曲ものボーナス・トラックが収録されたリイシュー盤も出ています。画像は2枚組のお徳用盤で、1枚目がアルバム「BADFINGER」とアルバム「WISH YOU WERE HERE」のオリジナル全21曲の「2 in 1」で、2枚目が「IN CONCERT AT THE BBC 1972-3」のBBC音源全14曲入り(バラ売りは「トップ・オブ・ザ・ポップス」での「COME AND GET IT」を加えた全15曲入り)のライヴ音源を収録しています。ボーナス・トラックが多いので、結局はバラ売り盤も買ってしまうでしょうけれど、ワーナー移籍後の2作を一気に聴くには便利な編集盤です。
(小島イコ)