昔話ばかりでも何ですから、たまには最近の事も書いてみましょう。今年(2024年)のビートルズのリイシュー盤は、11月22日にリリースされる、1964年1月から1965年3月までに米国で発売された7作8枚のアナログ盤の箱となる模様です。ビートルズが全米制覇した1964年から60周年記念と云う事なのでしょうけれど、米国盤はCDでは2014年に13作がまとめてリリースされていて、中味は2009年リマスター音源に差し替えてありました。それで、今回の箱に入る米国盤は、「MEET THE BEATLES」と「THE BEATLES’ SECOND ALBUM」と「A HARD DAY’S NIGHT (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUND TRACK)」と「SOMETHING NEW」と「THE BEATLES STORY」と「BEATLES ‘65」と「THE EARLY BEATLES」の7作のモノラル盤LPとなっています。2014年の箱は、それぞれのアルバムが基本的には「2 in 1」でモノラルとステレオが楽しめたわけですが、前述の通り2009年リマスター音源に差し替えられていました。それでも、2004年に「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 1」と2006年に「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 2」が同じく「2 in 1」でリリースされていて、そちらはオリジナル音源だったのです。つまりCDでは「MEET THE BEATLES」と「THE BEATLES’ SECOND ALBUM」と「SOMETHING NEW」と「BEATLES ‘65」と「THE EARLY BEATLES」の5作は既にキャピトル音源でリリースされているわけで、今回のオリジナル・モノ音源では「A HARD DAY’S NIGHT (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUND TRACK)」と「THE BEATLES STORY」が目玉なのでしょう。
しかしながら「A HARD DAY’S NIGHT (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUND TRACK)」はその名の通り映画のサントラ盤で、全12曲中ビートルズによる演奏は8曲で、他の4曲はサー・ジョージ・マーティンによるインストゥルメンタル曲です。アナログなので2枚組の「THE BEATLES STORY」に至っては、ほとんどがナレーションやインタビューによるドキュメンタリーで、ビートルズの演奏はハリウッド・ボウルでの「TWIST AND SHOUT」のサワリと雑に編集されたヒット曲メドレーしか収録されていません。「A HARD DAY’S NIGHT (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUND TRACK)」のオリジナルは元々は映画配給会社だったユナイテッド・アーティスツからリリースされていて、ステレオ盤での8曲のビートルズによる演奏はモノラル音源が左右にパンされていると云う奇怪な代物ですし、「THE BEATLES STORY」はステレオでもモノラルでもどっちだっていいような内容(驚くべき事に両方リリースされた)です。それで、今更、水増しされた米国キャピトル仕様のアナログ盤を箱で出されてもなあ、と云う感じです。ソレにですね、昨年(2023年)は、ビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」と「THE BEATLES 1962-1966(「赤盤」)」と「THE BEATLES 1967-1970(「青盤」)」の50周年記念拡大盤がリリースされた関係で、ソロのアルバムの50周年記念盤が先延ばしにされたのです。
それでもって今年(2024年)になってから、ポールはアルバム「BAND ON THE RUN」の50周年記念盤と、1974年のスタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」と立て続けにリリースしたし、ジョンのアルバム「MIND GAMES」も50周年記念盤でトンデモナイ価格設定の箱がリリースされたのですけれど、ジョージのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」も11月15日に50周年記念盤がリリースされるのです。ここで注目なのは、現役であるポールが2月にアルバム「BAND ON THE RUN」の50周年記念盤をリリースして、6月には1974年の蔵出しスタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」をリリースしていて、チャッチャと自分のアルバムは先にリリースしちゃっているのですよ。つづいて、ジョンのアルバム「MIND GAMES」の50周年記念盤は、7月にリリースされています。それで、ジョージのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」と来たわけですけれど、ビートルズのキャピトル盤の箱とリリース時期がたったの1週間しか違っていなくて、つまりは被っているのです。過去にベスト盤と新作をほとんど同時にリリースされた事もあるジョージですけれど、50周年記念盤と云うのであれば、ジョージのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」は1973年6月リリースで、ジョンのアルバム「MIND GAMES」は同年11月リリースで、ポールのアルバム「BAND ON THE RUN」は同年12月リリースなので、順番が全く逆になっているのです。
ポールとしては、アルバム「BAND ON THE RUN」は1973年12月リリースだったから、本当は昨年(2023年)にリリース予定でクレジットでも2023年となっているので、ビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」と、ベスト盤「赤盤」と「青盤」の新装盤を昨年リリースしたからバッティングしない様に今年に出したと云い張るだろうし、スタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」は、それこそが本当の50周年記念盤で、しかも公式盤としては初の完全版なので、リリースが詰まっているんだよ、なんて普通に考えていて、全く悪気がないから始末に負えないわけですけれど、それを云っちゃうとジョンのアルバム「MIND GAMES」も、ジョージのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」も、本当は昨年が50周年だったので、ビートルズ本隊と被らないようにと云う、ポールと同じ理由で今年に延期されていたわけですよ。2月にアルバム「BAND ON THE RUN」50周年記念盤で、6月にスタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」と来た時には、ポールが上半期に2作もせかせかとリリースするんだから、下半期にはビートルズ本隊が来るぞ、とは思っていたものの、確かにビートルズのリリースは来たものの、ジョンやジョージのアルバムも来たわけで、全くもってポールらしいのです。しかし、50周年記念盤を出すなら1973年の「RINGO」しか考えられないリンゴは、病気で休んでいる場合じゃないんだよなあ。
(小島イコ)
