
ジョン・レノンの提供曲やレコーディング参加曲やプロデュース作などをまとめて紹介して来たので、ジョンも結構やっているじゃないか、と思われるかもしれませんが、ジョンの場合はビートルズ初期の1963年と、1973年秋から1975年年明けまでの「失われた週末」時代に集中して、その数は驚くほどに少ないのです。書き忘れていたのは、1965年にシルキーがビートルズ・ナンバーの「YOU GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」をカヴァーした時にプロデュースした(ポールがギターで、ジョージもタンバリンで参加)位なもので、全部で15曲程度です。コレがポール・マッカートニーとなると、ビートルズの現役時代である1963年から1969年までだけでも30曲を超えていて、1966年リリースのドノヴァンの「MELLOW YELLOW」にベースとコーラスで参加とか、1967年リリースのビーチ・ボーイズの「VEGETABLES」で野菜をかじる音で参加(真偽不明)とか、1968年リリースのグレープフルーツの「DEAR DELILAH」でアレンジを担当(ジョンも担当)とか、1968年リリースのボンゾ・ドッグ・バンドの「I'M A URBAN SPACEMAN」を変名でプロデュースとか、1969年リリースのスティーヴ・ミラー・バンドの「MY DARK HOUR」にベースとドラムスとバッキング・ヴォーカルで参加とか、兎に角、ポールは色んなところに顔を出しています。
そんな中でも、1968年リリースのマッゴー&マクギアのアルバム「McGOUGH AND McGEAR」を2人とポールの3人でプロデュースして、ポールがハーモニー・ヴォーカルとメロトロンでレコーディングにも参加していたり、1969年リリースのスキャッフォルドのシングル「CHARITY BUBBLES / GOOSE」にギターで参加していたり、1972年リリースのマイク・マクギアのアルバム「WOMAN」で「BORED AS BUTTERSCOTCH」をマイクと共作していたり、1974年リリースのスキャッフォルドのシングル「LIVERPOOL LOU / TEN YEARS AFTER ON STRAWBERRY JAM」ではA面でプロデュースしB面で楽曲提供とプロデュースしていて、同1974年リリースのマイク・マクギアのアルバム「McGEAR」に至ってはプロデュースしていて、全10曲中マイクとの共作も含めて9曲も提供していて、アレンジして、レコーディングにも全面的に参加しているとなると、このマイク・マクギアとは何者だ?となります。ご存知の方も多いでしょうけれど、マイク・マクギアの本名は「ピーター・マイケル・マッカートニー」で、通称「マイク・マッカートニー」で、つまりは「ジェイムズ・ポール・マッカートニーの実弟」です。超有名な実兄ポールの実弟であるが故に色眼鏡で見られる事を嫌い、マイク・マクギアと云う芸名を名乗っていたのです。
日本の二世芸能人でも、敢えて父親や母親の名前を出さずに活動する人はいますが、ポールの弟に比べたら、大したプレッシャーではないでしょう。何せ、マイクのお兄さんは、あの天下御免の「サー・ポール・マッカートニー」大明神なのです。それで独自の路線で頑張っていたわけですが、1972年リリースのアルバム「WOMAN」では、母親のメアリー・マッカートニーの写真をジャケットにしています。スキャッフォルドの独自路線でヒット曲も飛ばしたし、ポールが絡めばレコード会社との契約も上手くゆくと考えたであろうマイクは、1974年のアルバム「McGEAR」では、実兄・ポールをそれまでになく大フィーチャーするのです。内容は、A面が、1「SEA BREEZES」、2「WHAT DO WE REALLY KNOW ?」、3「NORTON」、4「LEAVE IT」、5「HAVE YOU GOT PROGLEMS」で、B面が、1「THE CASKET」、2「RAINBOW LADY」、3「SIMPLY LOVE YOU」、4「GIVIN' GREASE A RIDE」、5「THE MAN WHO FOUND GOD ON THE MOON」の、全10曲入りで、CDではボーナス・トラックで「DANCE THE DO」と「SWEET BABY」の2曲が加わっています。
ポールはプロデュースだけではなく、ボーナス・トラックの2曲も含めた全12曲中、ブライアン・フェリー作の「SEA BREEZES」以外の全ての曲を、マイクとポールとリンダで共作(「WHAT DO WE REALLY KNOW ?」と「LEAVE IT」はポール&リンダ作、「THE CASKET」はポール&リンダとロジャー・マゴーフ作)し、リンダはおそらくソノ場に居ただけでしょうから、ほとんどの曲をポールとマイクの兄弟で書いたのでしょう。しかも、レコーディング・メンバーは、ポール・マッカートニー、リンダ・マッカートニー、デニー・レイン、ジミー・マカロックが全面的に参加していて、ドラマー(ジェリー・コンウェイ)以外は「ウイングス」です。つまり、1973年リリースのアルバム「BAND ON THE RUN」で3人になった「第3期ウイングス」から、1974年にレコーディングされて今年(2024年)にリリースされたスタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」で5人になった「第4期ウイングス」の狭間の「第3.5期ウイングス」をバックにマイクが歌うと云う事になっているのです。余りにもポール色が強くて、それまでマクギア名義で積み上げてきた路線は何だったんだ?とも思えますが、何だかんだ云っても実の兄弟なんですから仕方ないでしょう。このアルバムは「10cc」のストロベリー・スタジオで、10ccの2作目のアルバム「SHEET MUSIC」と同時進行でレコーディングされています。
(小島イコ)