アップル・レコーズが崩壊してバッドフィンガーもワーナーに移籍するところで、サラリと流していた1969年リリースのアイヴィーズのアルバム「MAYBE TOMORROW」と、1970年リリースのバッドフィンガーのアルバム「MAGIC CHRISTIAN MUSIC」について書きます。まずは、1969年8月29日にドイツでアップルからリリースされたアイヴィーズ名義でのデビュー・アルバム「MAYBE TOMORROW」ですけれど、当時はドイツ、イタリア、日本でしかリリースされていません。内容は、A面が、1「SEE-SAW, GRANPA」、2「BEAUTIFUL AND BLUE」、3「DEAR ANGIE」、4「THINK ABOUT THE GOOD TIMES」、5「YESTERDAY AIN'T COMING BACK」、6「FISHERMAN」で、B面が、1「MAYBE TOMORROW」、2「SALI BLOO」、3「ANGELIQUE」、4「I'M IN LOVE」、5「THEY'RE KNOCKING DOWN OUR HOME」、6「I'VE BEEN WAITING」の、全12曲入りです。この内、「SEE-SAW, GRANPA」と「SALI BLOO」と「I'M IN LOVE」と「THEY'RE KNOCKING DOWN OUR HOME」と「I'VE BEEN WAITING」の5曲がピート・ハム作で、「BEAUTIFUL AND BLUE」と「FISHERMAN」と「MAYBE TOMORROW」と「ANGELIQUE」の4曲がトム・エヴァンス作で、「DEAR ANGIE」がロン・グリフィス作で、「THINK ABOUT THE GOOD TIMES」がマイク・ギビンズ作で、「YESTERDAY AIN'T COMING BACK」がピート・ハムとトム・エヴァンスの共作です。
メンバー4人全員が曲を書けるアイヴィーズでしたが、この時期はピート・ハムよりもトム・エヴァンスの方が目立っていて、シングルになって日本を含む一部の国ではヒットした「MAYBE TOMORROW」もトムの作品です。ヨーロッパや日本で「MAYBE TOMORROW」がヒットしたので、ドイツとイタリアと日本でだけアルバムがリリースされたのでしょう。このアルバムはレアでしたが、1992年にCD化されて、英国や米国では初めてリリースされました。その際にボーナス・トラックとしてシングル「MAYBE TOMORROW」のB面でアルバム未収録曲「AND HER DADDY'S A MILLIONAIRE(ダディは百万長者)」やヨーロッパや日本だけでリリースされたセカンド・シングル「DEAR ANGIE」のB面でアルバム未収録曲「NO ESCAPING YOUR LOVE」や、未発表だった「MRS JONES」と「LOOKING FOR MY BABY」の4曲がボーナス・トラックとして収録された全16曲入りとなっています。アイヴィーズのアルバム「MAYBE TOMORROW」は基本的にはトニー・ヴィスコンティがプロデュースしているのですが、オーケストラを被せるなど些かオーバー・プロデュースが目立っていて、1969年のロック・シーンを考えると裏ジャケのデザインも含めて古い感じがします。何故か4曲(「SEE-SAW, GRANPA」、「BEAUTIFUL AND BLUE」、「FISHERMAN」、「THEY'RE KNOCKING DOWN OUR HOME」)はマル・エヴァンスのプロデュースになっています。しかしながら、ほとんどの曲を書いたピート・ハムとトム・エヴァンスによる楽曲自体の出来栄えは良いです。
幾らアルバムが良くてもリリースされないのではお話にならないわけで、その窮状を聞いたポール・マッカートニーが一肌も二肌も脱いで、バンド名をバッドフィンガーに改名させて、自ら再デビュー曲「COME AND GET IT」を書いて、ひとりで多重録音したデモを制作して、その通りにコピーさせて全英4位・全米7位と大ヒットさせました。そして、1970年1月9日(英国)・同年2月16日(米国)にアップルからリリースされたのが、バッドフィンガー名義では1作目のアルバム「MAGIC CHRISTIAN MUSIC」です。内容は、A面が、1「COME AND GET IT」、2「CRIMSON SHIP」、3「DEAR ANGIE」、4「FISHERMAN」、5「MIDNIGHT SUN」、6「BEAUTIFUL AND BLUE」、7「ROCK OF ALL AGES」で、B面が、1「CARRY ON TILL TOMORROW」、2「I'M IN LOVE」、3「WALK OUT IN THE RAIN」、4「ANGELIQUE」、5「KNOCKING DOWN OUR HOME」、6「GIVE IT A TRY」、7「MAYBE TOMORROW」の、全14曲入りです。が、しかし、「DEAR ANGIE」と「FISHERMAN」と「BEAUTIFUL AND BLUE」と「I'M IN LOVE」と「ANGELIQUE」と「KNOCKING DOWN OUR HOME」と「MAYBE TOMORROW」のアルバム半数に及ぶ7曲は、リミックスはされていますが、アイヴィーズのアルバム「MAYBE TOMORROW」からの再収録曲です。
新たに収録された7曲の内、シングル「COME AND GET IT / ROCK OF ALL AGES」と「CARRY ON TILL TOMORROW」の3曲は映画「マジック・クリスチャン」に使われていて、ポール・マッカートニーが「COME AND GET IT」を書いて、3曲のプロデュースもしています。つまり、完全なる新曲は4曲しか収録されていません。レコーディング中にベースのロン・グリフィスが脱退して、トム・エヴァンスがベースに転向していて、裏ジャケには3人の写真しか載っていません。新たに収録された7曲は、「COME AND GET IT」がポール・マッカートニー作、「CRIMSON SHIP」と「CARRY ON TILL TOMORROW」の2曲がピート・ハムとトム・エヴァンスの共作、「MIDNIGHT SUN」と「WALK OUT IN THE RAIN」の2曲がピート・ハム作、「ROCK OF ALL AGES」がトムとピートとマイク・ギビンズの共作、「GIVE IT A TRY」がトムとピートとマイクとロン・グリフィスの共作です。アイヴィーズのアルバムからの4曲と「CRIMSON SHIP」はトニー・ヴィスコンティがプロデュースしていて、映画に使われた3曲はポール・マッカートニーがプロデュースしているのは分かるのですけれど、他がマル・エヴァンスのアレンジとプロデュースになっているのです。マルは一体何をしていたのか、甚だ疑問です。英国や米国ではアイヴィーズのアルバムはリリースされていないので良いでしょうけれど、当時の日本のファンは新曲が半分しかないアルバムに困惑したでしょうね。そんなアルバム「MAGIC CHRISTIAN MUSIC」ですが、CDでは1991年盤と2010年盤で異なるボーナス・トラックがそれぞれ2曲と5曲入っているので、両方買うしかありません。つまり、アイヴィーズの7曲は、CD3枚でダブっています。
(小島イコ)