ジョン・レノンは、1973年10月30日(米国)・同年11月16日(英国)に、単独名義では3作目のアルバム「MIND GAMES」をアップルからリリースしました。ジョンも楽曲提供をしてレコーディングにも参加したリンゴ・スターのアルバム「RINGO」は、同年11月2日(米国)・同年11月23日(英国)にアップルからリリースされたので、元ビートルズ同士でリリース時期が被っています。そして、ジョンのアルバム「MIND GAMES」は全米9位・全英13位で、リンゴのアルバム「RINGO」は全米2位・全英7位と、信じられないかもしれませんが、リンゴの方が売れました。それはシングルだともっと分かり易く、ジョンのシングル「MIND GAMES」は全米18位・全英26位だったのに、リンゴのアルバム「RINGO」からの第1弾シングル「PHOTGRAPH(想い出のフォトグラフ)」は全米首位!・全英8位で、第2弾シングル「YOU'RE SIXTEEN(YOU'RE BEAUTIFUL AND YOU'RE MINE)」は全米首位!・全英4位で、米国での第3弾シングル「OH MY MY」まで全米5位と、トップ5ヒットを3曲も連発して、その内の2曲は全米首位!だったのです。
現在の感覚だと、ジョンがリンゴよりも売れていなかったなんて信じられないでしょうけれど、ジョンのシングルはあの「IMAGINE」ですら全米3位だったし、生前のジョンのシングルで全米首位!になったのは1974年リリースの「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT(真夜中を突っ走れ)」だけです。シングル「(JUST LIKE)STARTING OVER」が全米首位!になったり、シングル「WOMAN」が全米2位・全英首位!になったり、シングル「IMAGINE」が全英首位!になったのは、ジョンが殺された後なのです。アルバムも、そもそもジョンにはマトモなオリジナル・スタジオ・ソロ・アルバムが、1970年の「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」(全米6位・全英8位)と、1971年の「IMAGINE」(全米首位!・全英首位!)と、1973年の「MIND GAMES」(全米9位・全英13位)と、1974年の「WALLS AND BRIDGES」(全米首位!・全英6位)の4作しかなく、カヴァー集で1975年の「ROCK ’N' ROLL」(全米6位・全英6位)を加えてもたったの5作しかありません。そして、生前に全米首位!となったアルバムは「IMAGINE」と「WALLS AND BRIDGES」だけです。
アルバム「MIND GAMES」が完成してリリースを控えていた1973年9月18日に、ジョンはヨーコさんと別居します。それで、ヨーコさんが公認の愛人・メイ・パンを同行したジョンは、ロサンゼルスへ向かい、以後18か月にも及ぶ「失われた週末」に突入したのです。以前に「ジョン・レノン・ミュージアム」に行ったら、この「失われた週末」時期を廃墟みたいに表されていたのですけれど、アレはその内実をヨーコさんが知らないからアンナ風にしか描けなかったのでしょう。実際には、1973年から1975年の間には、数多くの名作が生まれているし、ソロのジョンとしても、提供曲やプロデュースも、最も充実していたと思います。何せ「失われた週末」を終えたジョンは、音楽業界から足を洗ってしまうわけで、やり切った感もあったのでしょう。「失われた週末」時代には、リンゴ、ニルソン、キース・ムーン、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガーなど、提供曲や共演作も多く、アルバムも「WALLS AND BRIDGES」と「ROCK ’N' ROLL」を残しているのです。
さて、1974年11月にリリースされたジョニー・ウィンターのアルバム「JOHN DAWSON WINTER V(俺は天才ギタリスト)」のA面1曲目には、ジョンの未発表曲だった「ROCK ’N' ROLL PEOPLE」が収録されています。コレが収録されたのは、ジョンとも仕事をしたプロデューサーのシェリー・ヤクスが勧めたらしいのですが、アルバム「MIND GAMES」のアウトテイクだった曲です。ほとんどアレンジも変わらないジョンが歌うヴァージョンは、1986年にリリースされたアルバム「MENLOVE AVE.」(現在は廃盤)に収録されて聴ける様になりました。今年(2024年)にリリースされたアルバム「MIND GAMES」の箱にもボーナス・トラックとして収録されているのですけれども、特別な手順を踏まないと聴けない仕掛けになっていて、困ったちゃんなのです。バカ高い値段の上に、本編CDが13曲目から90曲目まで無音だったりもして、評判が悪いリイシュー盤です。ところで、ジョニー・ウィンターは異名の「100万ドルのギタリスト」と云い、この邦題「俺は天才ギタリスト」と云い、豪快でいいですなあ。
(小島イコ)