リンゴ・スター単独作とされている1971年4月リリースのシングル「IT DON'T COME EASY(明日への願い)」が、実はジョージ・ハリスンとの共作だったと現在ではバレてしまったのですけれども、話はそれで終わりません。アップル・レコードは、1970年10月12日(米国)・同年11月6日(英国)にリリースしたバッドフィンガーのシングル「NO MATTER WHAT(嵐の恋)」を、コマーシャルではないとの理由でシングルにするのを中止しようとしたのです。「NO MATTER WHAT(嵐の恋)」がコマーシャルではないって、アップルの連中は何を考えていたのでしょうか。それでシングルとしてアップルが提案したのが「IT DON'T COME EASY」で、そうなるとですね、リンゴがシングルをリリースする半年も前に、バッドフィンガーが「IT DON'T COME EASY」をレコーディングさせられていたかもしれないのです。でも、それだと再デビュー曲でポール・マッカートニーが書いた「COME AND GET IT」の二の舞になってしまうし、バッドフィンガーは4人共に曲を書けるので、何とかお断りして、予定通りに「NO MATTER WHAT」をシングルでリリースして、全英5位・全米8位と大ヒットさせたのです。
リンゴは1968年には「IT DON'T COME EASY」を書き始めていたと云っていますが、例によって発表まで3年も掛かっています。そして、完成した「IT DON'T COME EASY」は、実際にはプロデュースも手掛けているジョージ・ハリスンとの共作と云われていて、リンゴもそれを認めています。それでジョージがバンドでデモ音源を残していて、そちらではジョージが歌っていて「ハレ・クリシュナ」とコーラスが入るのですけれど、単なるデモ音源とは云えない完成度なのです。もしかしたら、そのデモ音源はバッドフィンガー用だったのではないか、などと想像が膨らみます。それは兎も角として、リンゴが歌った「IT DON'T COME EASY」は、全英4位・全米4位と大ヒットしました。リンゴは約1年後の1972年3月17日(英国)・同年3月20日(米国)に、シングル「BACK OFF BOOGALOO / BLINDMAN」を、アップルからリリースしています。プロデュースはA面の「BACK OFF BOOGALOO」がジョージで、B面の「BLINDMAN」がリンゴとクラウス・フォアマンです。曲は両面共にリンゴの単独作となっていますけれど、1曲書くのに3年とか5年とか掛かるリンゴが、こんなにスラスラと曲を書けるとは到底信じられません。
おそらく、また、ジョージが上手くコントロールして曲をまとめたのでしょう。A面の「BACK OFF BOOGALOO」のレコーディング・メンバーは、リンゴ・スター(ヴォーカル、ドラムス)、ジョージ・ハリスン(ギター)、ゲイリー・ライト(キーボード)、クラウス・フォアマン(ベース)、マデリーン・ベル&レスリー・ダンカン&ジーン・ギルバート(バッキング・ヴォーカル)となっております。結果は、全英2位・全米9位と、これまた大ヒットしました。B面の「BLINDMAN」は、リンゴが出演した同名映画用に書いた曲です。ビートルズ時代にはアルバムで1曲(もしくは0曲)しか歌っていなかったリンゴが、解散後に「IT DON'T COME EASY」と「BACK OFF BOOGALOO」と立て続けにトップ10ヒットをものにしたわけで、ジョージの手助けがあったとは云え、俄かに信じ難い事実です。シングル「BACK OFF BOOGALOO / BLINDMAN」は両面共にアルバム未収録でしたが、現在ではアルバム「GOODNIGHT VIENNA」のボーナス・トラックで2曲共に聴けますし、A面の「BACK OFF BOOGALOO」はベスト盤にも収録されています。そして、リンゴは翌1973年に、他の元ビートルズの3人にはやれない事を、見事にやってのけるのでした。
(小島イコ)