ジョン・レノンは、ポール・マッカートニーやジョージ・ハリスンに比べると、提供曲やプロデュース作がとても少ないミュージシャンです。特に、ビートルズが解散した後は、リンゴ・スターやニルソンなどの仲間内でしかやっていません。それらも所謂ひとつの「失われた週末」時代に集中していて、つまりはヨーコさんと一緒にいる時にはそう云う仕事はほとんどやっていません。何せ「失われた週末」時代にはポール・マッカートニーと和解して、一緒にセッションをやったり、もう少しで二人でレコーディングする可能性まであったのに、ヨーコさんと復縁してヨーコさんに反対されてオジャンになったとまで云われているのです。そんな中で、ジョンが曲を書いてプロデュースしたエラスティック・オズ・バンドのシングル「GOD SAVE US / DO THE OZ」は稀有な例です。1971年7月7日(英国)・同年7月16日(米国)にアップルからリリースされたこのシングルは、ジョンとヨーコさんが曲を書いて、ジョンとヨーコさんとフィル・スペクターがプロデュースしていて、A面の「GOD SAVE US」はマル・エヴァンスもプロデュサーに加わっています。マル・エヴァンスはビートルズのロード・マネジャーで、バッドフィンガーの1970年リリースのシングル「NO MATTER WHAT(嵐の恋)」もプロデュースした事になっているのですけれど、ホントかしら?なのです。
エラスティック・オズ・バンド名義のこのシングルは、アンダーグランド・マガジン「OZ」が「猥褻雑誌」だと訴追を受け、訴訟費用を捻出する為に設立された支援グループ「FRIENDS OF OZ」に依頼されたジョンが制作したものです。レコーディング・メンバーは、ビル・エリオット(ヴォーカル:A面)、ジョン・レノン(ヴォーカル:B面、エレクトリック・ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、フィル・ケンジー(テナー・サックス)、ジェフ・ドリスコル(テナー・サックス)、デイヴ・コックスヒル(バリトン・サックス)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、オノ・ヨーコ(ヴォーカル)です。A面の「GOD SAVE US」は1971年4月にレコーディングしたものの、ボツにしていて(そちらにはリンゴ・スターもドラムスで参加)、1971年5月に再レコーディングしてジョンが歌った「GOD SAVE OZ」として完成したものの、契約の問題でジョンが歌った曲がA面ではシングルをリリース出来ないとなって、そこにマル・エヴァンスがビル・エリオット(後にジョージ・ハリスンのダーク・ホース・レコードから、ボブ・パーヴィスとのデュオのスプリンターとしてレコードをリリースする)を連れて来て、タイトルを「GOD SAVE US」に変更して歌入れしたのです。マル・エヴァンスは、たぶんビル・エリオットを連れて来たからプロデューサーとして名を連ねているのでしょう。
B面の「DO THE OZ」は、ジョンの「DO THE OZ」と繰り返す雄叫びと、ヨーコさんの「キエーッ!」と云うお馴染みの奇声が交錯するハードな楽曲で、2000年10月にリリースされたアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」のリミックス盤に「POWER TO THE PEOPLE」と共にボーナス・トラックとして収録されたのですけれど、リミックス自体が不評だった「ジョンの魂」の余韻を更にぶち壊しにするボーナス・トラックで大不評でした。但し「DO THE OZ」は初CD化だったし、このシングルは日本では未発売だったので、貴重ではありました。ジョンが歌ったヴァージョンの「GOD SAVE OZ」は、1998年10月にリリースされたCD4枚組の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」と、そのダイジェスト盤である「WONSAPONATIME」に収録されたので、容易に聴く事が出来ます。更に、2018年10月にリリースされた4CD+2BDのアルバム「IMAGINE」のアルティメイト・コレクションには「GOD SAVE US」と「GOD SAVE OZ」と「DO THE OZ」のデモやアウトテイクやリリース・ヴァージョンが収録されています。今年(2024年)にリリースされたアルバム「MIND GAMES」の箱みたいに、3万5千2百円とか24万7千5百円とかぼったくりではなく、価格も1万3千2百円でした。それでも高いし「GOD SAVE US」が聴ければいいや、と云う方は「COME AND GET IT THE BEST OF APPLE RECORDS」にも入っているので、他のミュージシャンも含めて、まずはソレでしょう。
(小島イコ)