アップル・レコードはビートルズが立ち上げた会社なので、そこからリリースされたシングルやアルバムは全てが「ビートルズ関連作品」となってしまいます。しかしながら、例えばジェームス・テイラーのシングルやアルバムはピーター・アッシャーがプロデュースしていて、ポールが何曲かベースを弾いていたり、ジョージが「SOMETHING IN THE WAY SHE MOVES」から冒頭の歌詞をパクって「SOMETHING」を書いた位の関わりしかありません。モダン・ジャズ・カルテットやジョン・タブナーなどがアルバムを出しているのは、ジョンとポールがアップルを「何でもアリ」のレーベルにしたかったからで、音楽的にはビートルズは関与していません。ジョンとポールは、アップルとザップルを、アルバム「THE BEATLES（ホワイト・アルバム）」の拡大版レーベルにしたかったのでしょう。アップルで他のミュージシャンを最も多くプロデュースしているビートルズのメンバーはジョージ・ハリスンで、それはビートルズ本隊で自作をなかなか取り上げてもらえなかった為に印税収入がジョンやポールよりも少なかったのと、その状況で不満だったジョージのガス抜きの効果も考えての事だったでしょう。
１９６９年９月２６日（英国）・同年１０月１日（米国）にビートルズはアルバム「ABBEY ROAD」をリリースしましたが、英国では同日に、米国でも同年１０月１７日に、トラッシュと云うバンドがシングル「GOLDEN SLUMBERS〜CARRY THAT WEIGHT / TRASH CAN」をアップルからリリースしています。A面は、アルバム「ABBEY ROAD」B面のメドレーから美味しいところを原曲と余り変わらないアレンジでカヴァーしたもので、要するに身内のバンドが最速カヴァーした作品です。あくまでもカヴァーなので、ソレを取り上げると他の膨大なカヴァーも取り上げなければならなくなるので、スルーしていました。それで、１９６９年１０月１０日（英国）・同年１０月１７日（米国）にはホット・チョコレート・バンドがアップルから「GIVE PEACE A CHANCE / LIVING WITHOUT TOMORROW」をリリースしています。こちらも、１９６９年７月４日（英国）・同年７月７日（米国）にジョン・レノンが率いるメンバーは流動的なプラスティック・オノ・バンドのデビュー・シングルのカヴァーです。ホット・チョコレート・バンドがジョンに「レゲエにして歌詞を変えてカヴァーしたい」とお願いして、ジョンが「だったらアップルで出せ」と返して実現したカヴァーです。
この「GIVE PEACE A CHANCE」と云う曲は、１９６９年６月１日にジョンとヨーコさんが行った「ベッド・イン」でのホテルの一室でライヴ・レコーディングされたもので、ポールは全く関与していないジョン単独作ですが、リリース当時は「レノン＝マッカートニー」名義でした。それは１９７５年リリースのジョンのシングル集「SHAVED FISH」でも、死後の１９８２年リリースのジョンのベスト盤「THE JOHN LENNON COLLECTION」でも、１９８８年リリースの伝記映画のサントラ盤「IMAGINE」でも、ずっと「レノン＝マッカートニー」名義だったのです。更に、ポールが１９９０年にリリースしたライヴ盤シングル「ALL MY TRIALS」にカップリングされた「ジョン・レノン・メドレー」の「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / HELP / GIVE PEACE A CHANCE」でも「レノン＝マッカートニー」名義だったのです。それが、１９９７年リリースのジョンのベスト盤「LENNON LEGEND」から「ジョン・レノン」単独名義に変わってしまったのです。生前のジョンがリリースしたのはオリジナルのシングルと１９７５年の「SHAVED FISH」だけなので、死後に誰かが変えてしまったわけです。確かにジョンの単独作だったものの、ジョンの意思でポールとの共作としていたので、これは納得がゆきませんなあ。
それが何で困ったちゃんなのかと云うとですね、そんな「コレはジョンで、アレはポール」なんて事がまかり通ってしまうと、だったら他のビートルズ・ナンバーでの「レノン＝マッカートニー」名義の楽曲まで、単独名義に変更されると云うトンデモナイ事態になりかねないのですよ。例えば「YESTERDAY」や「HEY JUDE」や「LET IT BE」や「THE LONG AND WINDING ROAD」などは、基本的にはポールが書いたからポールの単独作にされてしまうし、アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」は全１３曲中１０曲はジョンが書いたからジョンの単独作になってしまうし、レノン＝マッカートニーによる最強シングルの「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」も、ジョン作とポール作にされちゃったら、面白くないじゃないですか。「コレはジョンで、アレはポール」と云うのは、ジョンがビートルズ解散後に「レノン＝マッカートニーの真実」みたいにインタビューで種明かししていて、ジョンの死後にポールも言及する様になったのですけれど、双方で食い違っている点もあるし、やっぱり「ビートルズはビートルズ」だし、あくまでも「レノン＝マッカートニーはレノン＝マッカートニー」なのです。ジョンがビートルズ時代に唯一単独でレコーディングした「JULIA」ではポールが立ち会っていたし、レノン＝マッカートニー作品が書かれて、お互いに最初に聴いたのは、ジョンでありポールなのです。
（小島イコ）
