ビートルズが立ち上げたアップル・レコードの第1弾ミュージシャンのひとりとして1968年8月に「THOSE WERE THE DAY(悲しき天使)」でデビューしたメリー・ホプキン(当時18歳)は、忽ち人気者となり、日本でのデビュー盤(原題「POST CARD」)の邦題は「ポップスのシンデレラ / メリー・ホプキン・ファースト」と云うものでした。第2弾シングルとして、イタリアとフランスでは別の曲が1969年3月7日にリリースされていますが、英国では1969年3月28日、米国では同年4月7日、日本では同年4月1日にリリースされたのが、第2弾シングルの「GOODBYE / SPARROW」です。「全世界同時発売」と書いてあるのは、厳密に云えばウソです。A面の「GOODBYE」はポールが書き下ろしたレノン=マッカートニー名義の作品で、ズバリ云って名曲です。ポールはアコースティックギターの弾き語りでデモ音源もレコーディングしていて、2019年リリースのアルバム「ABBEY ROAD」50周年記念盤にそのデモ音源が収録されています。「STEP INSIDE LOVE」と同じく、サビはタイトルを連呼するだけなのですが、それが良いのです。
1969年3月1日と2日にモーガン・スタジオで行われたレコーディングもポールが全面的にプロデュースしていて、主役のメリー・ホプキンがアコースティックギターとヴォーカルを担当している以外は、ポールがイントロと間奏のアコースティックギター、ベース、ドラムス、パーカッションとマルチプレイヤーぶりを発揮していて、オーケストラ・アレンジは「悲しき天使」に続いて再びリチャード・ヒューソン(後に「THE LONG AND WINDING ROAD」のオーケストラ・アレンジでポールと揉める)を起用しています。オーケストラはオーバーダビングなので、つまりベーシック・トラックのレコーディングは、メリー・ホプキンとポールの二人だけで行われていて、その模様は撮影されてプロモーション・フィルムとして観る事が出来ます。1969年3月ですから、ポールはビートルズの「THE GET BACK SESSIONS」とアルバム「ABBEY ROAD」のレコーディングの狭間にいた時期です。この方法が、翌月にジョンとポールだけでレコーディングした「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」に繋がっているのかもしれません。
B面の「SPARROW」は、ギャラガー&ライルによる書き下ろしで、そちらもポール作の「GOODBYE」と共にレコーディングされています。「GOODBYE」は、全英2位・全米13位と大ヒットしていて、他の国でも軒並みトップ3に入るヒットとなっています。此の辺になると、もうこう云う曲を書いているのはポールだと云う事実がかなりバレていたと思われますが、それでも「レノン=マッカートニー名義」なのです。当のメリー・ホプキンは、ポールによる楽曲やプロデュースが自分には合っていないんじゃないか、と悩んでいたそうです。ソレを感じ取ったポールがそのまんま「GOODBYE」と云うメッセージにして歌わせた、なんて話まであります。メリー・ホプキンのシングルはアルバム未収録曲が多くて「GOODBYE」もオリジナル・アルバムには未収録なのでベスト盤も侮れませんが、アップル時代のアルバムはオリジナル2作とベスト盤1作の合計3作なので、全部集めても良いでしょう。元祖・ケイト・ブッシュみたいな歌声で、いい感じですよ。
(小島イコ)