1967年11月24日に、ビートルズは英国オリジナルでは16作目のシングル「HELLO GOODBYE / I AM THE WARUS」をパーロフォンからリリースしました。英国ではA面のポール作「HELLO GOODBYE」が全英首位!となり、此の辺りからシングルのA面曲はポール作が独占してゆきます。ジョンが「此の曲は百年後でも遺る」と自信作だった「I AM THE WARUS」でしたが、B面になった事で不満を持ち、ジョージとリンゴもジョンの側に付いて、ポールVSジョン、ジョージ、リンゴと云う図式となってゆきます。ソレと云うのも、ビートルズのマネジャーだったブライアン・エプスタインが1967年8月27日にアスピリンの過剰摂取で32歳の若さで亡くなってしまい、ポールが実質的にエプスタインの後を継いでビートルズを引っ張ってゆこうとしたからです。
ポール主導体制は、既に1967年6月1日リリースのアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」でも明らかになっていましたが、そこにエプスタインの死が重なって、サー・ジョージ・マーティンも独立していたので雇うのではなくビートルズに雇われる状態となり、ポールに文句を云える立場の人間がいなくなってしまいました。無論、それでもビートルズのリーダーだったのはジョンでしたが、音楽面でのリーダーは完全にポールへと移行してゆきます。1967年以降のビートルズの音楽とは、即ちポールの音楽とイコールなので、解散後のポールは苦しむ事となるのです。先を急げば、解散後にジョンやジョージの作品が高く評価されたのは「反ビートルズ」だったからで、ポールには「反ビートルズ」と云う引き出しがなかったのです。
此のシングルは米国キャピトルでは1967年11月27日に18作目(米国では26作目)のシングルとして英国オリジナルと同じカップリングでリリースされていて、A面の「HELLO GOODBYE」が全米首位!、B面の「I AM THE WARUS」は56位までしか上がっていません。しかし、ジョンが予言した通り「I AM THE WARUS」が後のロックに与えた影響は大きいのです。ビートルズはポールの発案でテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」を制作して、1967年12月26日にBBCで放送して酷評を食らい「ビートルズ史上初めての大失敗作」と断じられました。しかし、後にMTVの元祖であるとされ、評価が大きく変わっています。
映画は酷評されたものの、サントラ盤の音楽は絶賛されて、英国では1967年12月8日に2枚組EP「MAGICAL MYSTERY TOUR」をリリースしていて、英国では13作目のEPでした。A面が、1「MAGICAL MYSTERY TOUR」、2「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」で、B面が、1「I AM THE WARUS」で、C面が、1「THE FOOL ON THE HILL」、2「FLYING」で、D面が、1「BLUE JAY WAY」の、全6曲入りです。レノン=マッカートニー作が4曲に、ジョージ作が1曲に、4人の共作が1曲ですが、「MAGICAL MYSTERY TOUR」と「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」と「THE FOOL ON THE HILL」はポール作で、ジョンは単独では「I AM THE WARUS」しか書いていません。EPながら全英シングル・チャートで2位まで上がる(首位!は「HELLO GOODBYE」)大ヒットとなりました。
ところが、米国ではEPで聴く習慣がないので、A面にEP「MAGICAL MYSTERY TOUR」全6曲を、B面に1967年リリースのアルバム未収録シングル5曲を収録した編集盤にしてしまったのです。1967年11月27日にキャピトルからリリースされた13作目(米国では15作目)の編集盤「MAGICAL MYSTERY TOUR」は、A面が、1「MAGICAL MYSTERY TOUR」、2「THE FOOL ON THE HILL」、3「FLYING」、4「BLUE JAY WAY」、5「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」、6「I AM THE WARUS」で、B面が、1「HELLO GOODBYE」、2「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、3「PENNY LANE」、4「BABY, YOU'RE A RICH MAN」、5「ALL YOU NEED IS LOVE」の全11曲入りです。
英国では1976年11月19日になって、唐突に米国編集盤と同じ内容でパーロフォンからリリースされています。そして、1987年にビートルズのアルバムが初CD化された時に、準オリジナル・アルバムとしてカタログに入ったのですけれど、元々はEPとシングルのみのリリースでした。ビートルズ風の作品を作る時には、ジョン作の「I AM THE WARUS」や、ポール作の「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」がお手本にされる事も多いし、B面のシングル曲は傑作ばかりでジョンも目立っているので、バランスも良く、人気がある編集盤です。EP収録曲はそのまんまプロモーション・フィルムとして観れるし、シングル「HELLO GOODBYE」はポールが監督してプロモーション・フィルムを制作していて、2023年のビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」にも流用されていたツイストを踊るジョンが観れます。
(小島イコ)