ジョン・レノンのアルバム「MIND GAMES」が7月12日にリイシューされましたので、「FAB4 U.S. SINGLES」の途中ですが取り上げます。ジョンがビートルズ解散後に発表したオリジナル・ソロ・アルバムは驚く程に少なくて、1970年リリースのアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と、1971年リリースのアルバム「IMAGINE」と、1973年リリースのアルバム「MIND GAMES」と、1974年リリースのアルバム「WALLS AND BRIDGES」の4作しかありません。ソレにカヴァー集の1975年リリースのアルバム「ROCK'N'ROLL」と、シングル集で1975年リリースのアルバム「SHAVED FISH」を加えても6作ですし、1972年リリースのアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」と、1980年リリースのアルバム「DOUBLE FANTASY」は、ヨーコさんとの共作です。1984年リリースのアルバム「MILK AND HONEY」もジョンとヨーコさんの共作ですけれど、ジョンは1980年に亡くなっているので、アレはオリジナル・アルバムではなく遺稿集です。
ジョンとヨーコさんは共作で1968年リリースのアルバム「UNFINISHED MUSIC NO.1 : TWO VIRGINS」と1969年リリースのアルバム「UNFINISHED MUSIC NO.2 : LIFE WITH THE LIONS」とアルバム「WEDDING ALBUM」もリリースしていますが、それらは前衛作品ですし、1969年リリースのライヴ盤「LIVE PEACE IN TORONT 1969」も二人の共演作(プラスティック・オノ・バンド名義)です。故に、生前にジョンが発表したソロのマトモな楽曲を全て聴きたい場合には、4作のソロ・アルバムと、1作のカヴァー・アルバムと、シングル集と、ヨーコさんとのマトモな共作2作の合計8作を手に入れれば、ほぼほぼ揃ってしまうのです。故に、1990年にリリースされたCD4枚組の箱「LENNON」全73曲入りや、2010年にリリースされたCD4枚組の箱「GIMME SOME TRUTH」全72曲入りと云った作品で、ほとんどの曲が聴けてしまいます。そんな全曲集に近い箱でも、アルバム「MIND GAMES」の扱いは低かったのです。アルバム「ジョンの魂」が全曲収録されて、アルバム「IMAGINE」とアルバム「WALLS AND BRIDGES」もほとんどの曲が選ばれていたのに、アルバム「MIND GAMES」からは「LENNON」ではたったの5曲で、「GIMME SOME TRUTH」でも7曲と少なかったのです。
ジョンの死後にも色々なアルバムがリリースされていますが、生前のジョンのオリジナル・ソロ・アルバムはたったの4作しかなくて、ソレはジョンが1975年を最後に引退状態になっていたからで、つまりジョンがソロで活動したのは1970年から1975年までだったのです。ソノたったの4作の内、2018年にはアルバム「IMAGINE」が、2021年にはアルバム「ジョンの魂」が、それぞれ箱でリリースされたので、残るのはアルバム「MIND GAMES」とアルバム「WALLS AND BRIDGES」しかなく、まあカヴァー集でレコーディングに謎も多いアルバム「ROCK'N'ROLL」を加えても残り3作となって、今回リリースされたのがアルバム「MIND GAMES」の箱なのです。アルバム「MIND GAMES」は繰り返しますがジョンのアルバムの内でも評価が低い作品ですけれど、今回の箱は6CDと2BDで日本盤が3万5千2百円(税込み)もする強気な価格設定での登場です。音源が同内容と思われるアナログ盤10枚(LP9枚+EP1枚)とCD6枚とBD2枚のメガ箱に至っては、24万7千5百円!(税込み)と、完全に常軌を逸した価格設定です。
ポールが2020年にリリースしたアルバム「FLAMING PIE」の「コレクターズ・エディション」が14万円(税込み)もして「誰が買うんだ?犬か?」と思ったのですけれど、流石はビートルズのボスであるジョンは遥かに上を行っています。此のご時世に、基本的にはリイシュー盤にすぎない50年前の音源を25万円近い価格で、しかも評価が低いアルバム「MIND GAMES」でやっちまったのですから、驚きを隠せません。ジョンの箱は「IMAGINE」と「ジョンの魂」で懲りているので、価格が信じられない程に高騰した事ですし、今回は2CD一択とさせて頂きました。オリジナルのアルバム「MIND GAMES」の内容は、A面が、1「MIND GAMES」、2「TIGHT A$」、3「AISUMASEN(I’m Sorry)」、4「ONE DAY(At A Time)」、5「BRING ON THE LUCIE(Freda People)」、6「NUTOPIAN INTERNATIONAL ANTHEM」で、B面が、1「INTUITION」、2「OUT THE BLUE」、3「ONLY PEOPLE」、4「I KNOW(I Know)」、5「YOU ARE HERE」、6「MEAT CITY」の、全12曲入りです。が、しかし「NUTOPIAN INTERNATIONAL ANTHEM」は無音なので、実質11曲入りです。此の中で有名なのは表題曲「MIND GAMES」位で、他に知られているのは、隠れた名曲「OUT THE BLUE」位でしょう。
箱の内容は、CD1がアルティメイト・ミックス、CD2がエレメンタル・ミックス、CD3がエレメンツ・ミックス、CD4がエヴォリューション・ドキュメンタリー、CD5がロウ・スタジオ・ミックス、CD6がアウトテイク集との事で、全てアルバム「MIND GAMES」全12曲(実質11曲)を収録しているわけですが、コレが「IMAGINE」や「ジョンの魂」の箱と同じで、通常盤CD2枚組(CD1のアルティメイト・ミックスと、CD6のアウトテイク集)以外の4枚は「なんちゃってリミックス」です。ズバリ云って、通常盤CD2枚組で充分でしょう。箱のBD2枚にはCD6枚分の音源が、ハイレゾ24−96ステレオ、5.1とドルビー・アトモス・ヴァージョンで収録されていて、映像は「MIND GAMES」と「YOU ARE HERE」のMVだけで、豪華本やオマケも付いています。表題曲以外は評価が低いものの、此のメロウなジョンが好きだと云う方々には、3万5千円とか25万円とか出して頂いて、バカでかい箱を買って頂いて、これまでハブにされていたアルバム「MIND GAMES」をたっぷりと堪能して頂ければ、と思います。
アルバム「IMAGINE」やアルバム「ジョンの魂」の箱でゲンナリしたあたくしの様な底が浅いファンは、通常盤が選べるので安心安全です。映像は観たいかな、と思ったら、発売前日の「ベストヒットUSA」で小林克也さんが2曲共に流してくれました。通常盤にも「個別にナンバリングされたヌートピア市民IDカード」は付いています。そもそも当初の邦題だった「ヌートピア宣言」と云うコンセプトが、浮世離れした大金持ちの発想としか思えず、攻撃的で過激だった前作「SOMETIME IN NEW YORK CITY」との落差がある作品でした。ジョンが殺された時に、あたくしは此のアルバム「MIND GAMES」とカヴァー集の「ROCK'N'ROLL」しか聴けなくなった時期がありました。特にジョンにしては甘すぎる内容のアルバム「MIND GAMES」には、癒されたものです。CDも、リミックスされたりリマスターされる度に買っています。ソレでも、流石に25万円近くする「メガ箱」なんて買えませんよ。ショーンがプロデュースしているみたいですけれど、大金持ちの感覚でやられてもねえ。ジョンと違って、ショーンは生まれた時から大金持ちなので、金銭感覚が庶民とはズレがあるのでしょう。
さて、何だかんだ云いつつも、発売日に2CD盤を買いました。前述の通り、CD1が「アルティメイト・ミックス」で、ポール・ヒックスによるリミックスです。音の分離が格段に良くなっていて、演奏の印象はかなり違います。オリジナル通りの全12曲(実質11曲)が収録されていて、アルバム「MIND GAMES」は元々レコーディングの音が良いので、こうしてリミックスしてもオリジナルに慣れた耳にも違和感がなく聴けます。そして、詞の内容からして「へなちょこ」だった楽曲たちが、リミックスによって力強く聴こえる様になっています。此の辺は、わざわざリイシューした甲斐があったと思われますし、ジョンのアルバムでは両極端で共に評価が低いアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」とアルバム「MIND GAMES」にも陽が当たる機会となるでしょう。が、しかし、ジョンのヴォーカルまで別テイクを使用している曲もあったのは気になりました。箱に入っている6CDの内、4枚は「なんちゃってリミックス」です。
本編であるCD1の「アルティメイト・ミックス」ですらリミックス音源ですから、ソレでもうオリジナルとの差が気になってしまったあたくしの様なアタマが固いファンは、アルバム「IMAGINE」の箱やアルバム「ジョンの魂」の箱を買ってしまって1回しか聴かずに放って置いているわけで、今回は価格が倍近くなったお陰で買わずに済んで良かったのかもしれません。通常盤のCD2は箱のCD6と同じアウトテイク集で、やはり「なんちゃってリミックス」よりも単なるアウトテイクの方がニーズがあるとレコード会社も分かっているのです。なんちゃってリミックスなどやらずに、レコーディング当時のアウトテイクを聴く方がずっと健全です。アルバム「MIND GAMES」の曲順にアウトテイクが並べられていて、無音の「NUTOPIAN INTERNATIONAL ANTHEM」のところには「DECLARATION OF NUTOPIA」と云うジョンとヨーコさんの「ヌートピア宣言」が入っています。「FUCKING」連発の「MEAT CITY」のエンディングでは、ゴフィン&キングの曲が飛び出します。それから、あたくしが買った盤はCD1が何故か90トラックも表示されるのですけれど、どこかにリンゴに書いた「I'M THE GREATEST」と「MEAT CITY」のシングル・ヴァージョンがボーナス・トラックとして隠れているのかと、流しっぱなしにしたものの無音のままで終わってしまいました。
(小島イコ)