ビートルズは1964年11月23日に、米国では15作目でキャピトルからは7作目のシングル「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」をリリースしました。本国英国パーロフォンからは8作目のシングルとして、1964年11月27日にリリースされているので、米国キャピトル盤が先にリリースされています。此のシングル両面は、英国では1964年12月4日にリリースされた4作目のアルバム「BEATLES FOR SALE」のレコーディング・セッションからの先行シングルで、アルバム「BEATLES FOR SALE」には未収録曲です。英国でのビートルズは、そうしてシングル曲はなるべくアルバムには未収録にして、ファンに2度買いさせない様にしていました。ソレが米国だと、アルバムからの曲を減らしてシングル曲もぶち込んで、多くの水増しアルバムをリリースしていました。更には、英国とは別のミックスを採用したり、英国ではリリース前の曲を先にリリースしたりしていました。
此のシングル「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」も英国盤と米国盤ではミックスが違っていて、米国では両面共に深いエコーがかかっています。ソレはいち早く米国でのリリースを急かしたので、元々は英国と米国では別のモノ・ミックスを制作していて、英国でのシングルはモノラルなのでソレで通していて、米国では1964年12月15日にアルバム「BEATLES ’65」をモノラルとステレオでリリースするので、シングル2曲はモノラル・ヴァージョンを疑似ステレオ化して、ソレを目立たなくする為にエコーをかけたわけですが、余計に他の曲との差が目立っています。更に、何故かモノラルでもエコーがかかっています。A面の「I FEEL FINE」はジョン作のギター・リフからなるロックンロールで、イントロにフィードバックを史上初めて意図的に入れています。B面の「SHE'S A WOMAN」はポール作のロックンロールですが、1959年リリースのジョニー&ザ・ハリケーンズの「CROSSFIRE」(全米23位)と云うインストゥルメンタル曲にソックリです。
「SHE'S A WOMAN」は、ジェフ・ベックが1975年のアルバム「BLOW BY BLOW(ギター殺人者の凱旋)」でインストゥルメンタルでカヴァーしていて、そちらのプロデュースもビートルズと同じサー・ジョージ・マーティンです。ジェフ・ベックは1998年のサー・ジョージ・マーティンの引退作「IN MY LIFE」でも「A DAY IN THE LIFE」をインストゥルメンタルでカヴァーしていて、晩年のライヴではよく披露していました。さて、米国では6作目(キャピトルでは4作目)のアルバム「BEATLES ’65」ですが、A面が、1「NO REPLY」、2「I'M A LOSER」、3「BABY'S IN BLACK」、4「ROCK AND ROLL MUSIC」、5「I'LL FOLLOW THE SUN」、6「MR. MOONLIGHT」で、B面が、1「HONEY DON'T」、2「I'LL BE BACK」、3「SHE'S A WOMAN」、4「I FEEL FINE」、5「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」の全11曲入りです。一見して、英国での4作目のアルバム「BEATLES FOR SALE」を元にしているのは分かります。
ところが、内実はアルバム「BEATLES FOR SALE」から全14曲中8曲に、アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」から1曲(「I'LL BE BACK」)と、シングル「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」の両面を加えているのです。アルバム「SOMETHING NEW」に入れ忘れたので無理矢理「I'LL BE BACK」を持ってきて、深いエコーをかけた最新シングル2曲と云う、場違いな構成です。ビートルズが時間がなくてアルバム「BEATLES FOR SALE」をオリジナル8曲にカヴァー6曲と云う一歩後退した内容にしてまで、オリジナルのシングル「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」の2曲を収録しなかった志など、米国キャピトルにとっては屁の河童だったわけですなあ。こうしてアルバム「BEATLES FOR SALE」からの6曲は温存して、新たに水増しアルバムを制作するのです。まあ、1964年11月23日にキャピトルからリリースされたドキュメンタリー盤「THE BEATLES STORY」に比べたら、中味はビートルズによる演奏なのでマシと云えるかもしれません。
(小島イコ)