ビートルズの初主演映画「A HARD DAY'S NIGHT」は1964年の夏に公開されましたが、総天然色ではなくモノクロ映像です。ソレは狙ったのではなく、1963年の秋に映画の話が出た頃には数か月後にはビートルズの人気がどうなっているのか予想がつかず、経費節減の為にモノクロにしたのです。ソレが逆に効果的になってしまったのは、ビートルズがビートルズであるからなのです。ウォルター・シェンソンが製作し、リチャード・レスターが監督で、アラン・オーエンが脚本を書いたドキュメンタリー風な作風も、実はジョンのアドリブが少し入っているだけで、ガチガチに脚本通りに演じているし、ストーリー展開は、ビートルズがファンに追っかけられながら駅から走って来て、車や列車で移動して、TV局でリハーサルをやって、ポールの祖父さん(ジョン・マッカートニー)に唆されたリンゴがひとりで外出したら逮捕されて、他の3人が助けにいって、ライヴをやって、最後はヘリコプターで次のライヴへと飛び立ってゆくと云う感じなのですが、ソレが面白いのです。もっと簡単に云えば、ビートルズが走り捲ってライヴをやるだけの話なのですが、本当に面白いんですよ。
本国英国では、1964年7月10日に3作目のアルバムとして「A HARD DAY'S NIGHT」がリリースされて、全13曲「レノン=マッカートニー」のオリジナルで固めていて、A面が映画用でB面がその他の楽曲で構成されていて、既発シングル2作4曲が重複しますが、ソノ分1964年6月19日に全4曲アルバム未収録のEP「LONG TALL SALLY」をリリースしています。コレが例によって米国ではトンデモな事になっていて、1964年3月16日にシングル「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」をキャピトルが英国パーロフォンよりも早くリリースして、肝心なサントラ盤は1964年6月26日に映画配給と同じユナイテッド・アーティスツからのリリースとなり、ビートルズが8曲とサー・ジョージ・マーティンによるオーケストラが4曲の構成で、1964年7月13日には何故かシングル「A HARD DAY'S NIGHT / I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」をキャピトルが出して、1964年7月20日にはキャピトルからシングル「I'LL CRY INSTEAD / I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」とシングル「AND I LOVE HER / IF I FELL」とキャピトルでは3作目のアルバム「SOMETHING NEW」が同時にリリースされたのです。
アルバム「SOMETHING NEW」は、A面が、1「I'LL CRY INSTEAD」、2「THINGS WE SAID TODAY」、3「ANY TIME AT ALL」、4「WHEN I GET HOME」、5「SLOW DOWN」、6「MATCHBOX」で、B面が、1「TELL ME WHY」、2「AND I LOVE HER」、3「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」、4「IF I FELL」、5「KOMM, GIB MIR DEINE HAND」の全11曲入りで、英国オリジナルのアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」から8曲と、EP「LONG TALL SALLY」から2曲に、ドイツ語ヴァージョンの「I WANT TO HOLD YOUR HAND」である「KOMM, GIB MIR DEINE HAND」と云う、何だかよく分からない選曲となっております。前回も書きましたが、ユナイテッド・アーティスツからのサントラ盤に収録された楽曲が、全てキャピトル盤のシングルやアルバムにも収録出来たのは何故なのか、サッパリ分かりません。それにしたってアルバム「SOMETHING NEW」の選曲は滅茶苦茶で、英国オリジナルでは全曲が「レノン=マッカートニー」のオリジナルだったのが売りだったのに、そんなこたあ知ったこっちゃないとばかりの荒技を使っています。最後の曲がドイツ語ヴァージョンと云うのも、何も考えていない感じで、凄いっちゃあ凄いですなあ。
そしてキャピトルは、1964年8月24日にアルバム「SOMETHING NEW」からのシングル・カットと云う触れ込みで、シングル「MATCHBOX / SLOW DOWN」をリリースしちゃったのです。英国オリジナルでは全4曲がアルバム未収録だったEP「LONG TALL SALLY」に収録されていた2曲(共にB面曲)のカップリングなんですからね。EP「LONG TALL SALLY」のA面だった「LONG TALL SALLY」と「I CALL YOUR NAME」の2曲は、キャピトルでは2作目(米国では3作目)の1964年4月10日リリースのアルバム「THE BEATLES' SECOND ALBUM」に、英国よりも早く収録していたのですから呆れちゃいます。米国では此のシングルは14作目で、英国ではまだ7作しかシングルになっていなかったので、もう此の時点で倍も連発していたのです。カール・パーキンスのカヴァーでリンゴが歌った「MATCHBOX」は全米17位、ラリー・ウィリアムズのカヴァーでジョンのシャウトが炸裂する「SLOW DOWN」は全米25位と、ビートルズとしては低い成績でした。アルバム「SOMETHING NEW」も、全米では首位にサントラ盤の「A HARD DAY'S NIGHT」が居座っていたので2位止まりでした。こんな無茶なアルバムでも、予約だけで50万枚で、軽く100万枚以上も売れたのですから、そりゃあキャピトルも水増ししますわなあ。
(小島イコ)