米国での販売権が大手キャピトルへ移ってからのビートルズは、1963年12月26日リリースのシングル「I WANT TO HOLD YOUR HAND / I SAW HER STANDING THERE」も、1964年1月20日リリースのアルバム「MEET THE BEATLES!」も、1964年3月16日リリースのシングル「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」も、1964年4月10日リリースのアルバム「THE BEATLES' SECOND ALBUM」も、全てが何百万枚も売れる大ヒットとなりました。しかし、そんな狂乱状態の中で、最初にキャピトルが相手にしなかった為にマイナー・レーベルからのリリースとなっていた16曲(ヴィー・ジェイ)と2曲(スワン)も便乗して売れてしまったのです。そんな中でも最も便乗したと思われるのが、1964年4月27日にヴィー・ジェイの子会社トリーから第2弾シングルとしてリリースされた「LOVE ME DO / P.S. I LOVE YOU」でしょう。如何にも怪しげなビートルズのイラストを載せたジャケットで、本国英国では1962年10月5日にリリースされたデビュー・シングルが、1年半後にドサクサ紛れで米国でシング・リリースされたのです。
既にヴィー・ジェイから1963年7月22日にリリースした米国デビュー・アルバム「INTRODUCING THE BEATLES」の第1版には収録されていたのに、キャピトル盤に便乗して1964年1月27日にリイシューした時には「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」を戻して代わりに抜いた「LOVE ME DO / P.S. I LOVE YOU」を、1964年4月27日になって子会社からシングルでリリースしたわけですなあ。ところが、もうビートルズの曲だったならば何でもいいや状態になっていた当時の米国で、なんと、1964年5月30日付で全米首位になってしまったのです。本国英国では17位までしか上がらなかったし、ソレもマネジャーのブライアン・エプスタインが1万枚買ってチャートを操作した結果だっだと云うのに、地味な「LOVE ME DO」の分際で全米首位になっちゃったのですよ。ソレで、英国もしくは米国で首位になった曲を集めた2000年にリリースされたベスト盤「1」には「LOVE ME DO」なんぞが堂々と1曲目に収録されてしまったわけですなあ。全く「LOVE ME DO」のくせに生意気ですし、「PLEASE PLEASE ME」や「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」に申し訳ないと思わないのでしょうか。
前回に取り上げたヴィー・ジェイからのシングル「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET / THANK YOU GIRL」やEP「SOUVENIR OF THEIR VISIT TO AMERICA」もどうかと思いますけれど、出せば売れるわけですから、ヴィー・ジェイやトリーやスワンも必死でした。1964年5月21日には、シングル「SIE LIEBT DICH / I'LL GET YOU」がスワンからリリースされています。スワンはシングル「SHE LOVES YOU / I’LL GET YOU」の1作2曲しか契約していなかったので、こんな奇怪なシングルまで出してしまったのです。「SIE LIEBT DICH」は「SHE LOVES YOU」のドイツ語ヴァージョンで、「I WANT TO HOLD YOUR HAND」のドイツ語ヴァージョン「KOMM, GIB MIR DEINE HAND」とのカップリングでドイツで発売された曲です。ソレをですね、米国でもリリースしちゃったわけですから、もう、狂っていますよ。但し、キャピトルから出る「KOMM, GIB MIR DEINE HAND」が「I WANT TO HOLD YOUR HAND」のカラオケで歌っているのに対して、スワンから出た「SIE LIEBT DICH」は「SHE LOVES YOU」のセッション・テープが破棄されていたので、演奏も新しくレコーディングし直しています。
こうしてマイナー・レーベルからのリリースもある中で、大手キャピトルは前述の通り1964年4月10日に早くもキャピトルでは2作目のアルバム「THE BEATLES' SECOND ALBUM」をリリースしていて、内容は、A面が、1「ROLL OVER BEETHOVEN」、2「THANK YOU GIRL」、3「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」、4「DEVIL IN HER HEART」、5「MONEY」、6「YOU CAN'T DO THAT」で、B面が、1「LONG TALL SALLY」、2「I CALL YOUR NAME」、3「PLEASE MR. POSTMAN」、4「I'LL GET YOU」、5「SHE LOVES YOU」の全11曲入りです。英国ではまだリリース前だったEPから「LONG TALL SALLY」と「I CALL YOUR NAME」が入っていて、ヴィー・ジェイとの契約だったはずの「THANK YOU GIRL」やスワンとの契約だったはずの「SHE LOVES YOU」と「I'LL GET YOU」も入っていて、シングルB面の「YOU CAN'T DO THAT」も入れて、残りはアルバム「WITH THE BEATLES」の収録曲でアルバム「MEET THE BEATLES!」に入れなかった5曲と云う、後々まで続く「水増しアルバム」となっています。
(小島イコ)