本日6月18日は、サー・ポール・マッカートニーの82歳のお誕生日です。おめでとうございます。ポールのオリジナル・スタジオ最新アルバムは2020年12月にリリースされた「McCARTNEY V」ですが、2021年7月にはポールが監修したカヴァー集「McCARTNEY V IMAGINED」がリリースされていて、2022年8月には箱の「McCARTNEY 1, 2, 3 BOX」がリリースされて、同2022年12月にはアナログ・7インチ・シングル80枚組の木箱「PAUL McCARTNEY THE 7‘’ SINGLES BOX」をリリースしています。此のシングル80枚全163曲(配信音源はダブリを抜いた全159曲)に関しては、前回までたっぷりと紹介させていただきました。ソノ間には、2020年7月にはアルバム「FLAMING PIE」の「アーカイヴ・コレクション」がリリースされていて、本隊であるビートルズの「50周年記念盤」は2021年10月にアルバム「LET IT BE」の箱(幻のアルバム「GET BACK」も公式化)が、2022年10月には遡ってアルバム「REVOLVER」の箱が、それぞれリリースされました。2021年11月に配信されて、2022年7月にソフト化されたドキュメンタリー作品「GET BACK」もありました。
2023年にはポールのソロ・アルバム関連商品はリリースしなかったものの、ビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」と「赤盤」と「青盤」のリミックス新装盤がリリースされたのは記憶に新しいところです。そして、今年(2024年)には、2月にアルバム「BAND ON THE RUN」の「50周年記念盤」をリリースしたポールですが、なんと、6月14日にはアルバム「ONE HAND CLAPPING」をCD2枚組・LP2枚組でMPL/キャピトルからリリースしたのです。此の「ONE HAND CLAPPING」と云うスタジオ・ライヴ盤は、1973年12月にリリースしたアルバム「BAND ON THE RUN」ではポール&リンダ・マッカートニーとデニー・レインの3人だけの「第3期ウイングス」になってしまったので、新たにリード・ギタリストのジミー・マカロックとドラマーのジェフ・ブリトンを加入させて「第4期ウイングス」となって、1974年8月にアビイ・ロード・スタジオでライヴ・リハーサルと当時の新曲「JUNIOR'S FARM」のレコーディングをした模様を撮影して映像作品にしようと構想されたものです。
今回リリースされたのはCD2枚組と同内容のLP2枚組で、CD1は、1「ONE HAND CLAPPING」、2「JET」、3「SOILY」、4「C MOON / LITTLE WOMAN LOVE」、5「MAYBE I’M AMAZED」、6「MY LOVE」、7「BLUEBIRD」、8「LET'S LOVE」、9「ALL OF YOU」、10「I'LL GIVE YOU A RING」、11「BAND ON THE RUN」、12「LIVE AND LET DIE」、13「NINETEEN HUNDRED AND EIGHTY FIVE」、14「BABY FACE」で、CD2が、1「LET ME ROLL IT」、2「BLUE MOON OF KENTUCKY」、3「POWER CUT」、4「LOVE MY BABY」、5「LET IT BE」、6「THE LONG AND WINDING ROAD / LADY MADONNA」、7「JUNIOR'S FARM」、8「SALLY G」、9「TOMORROW」、10「GO NOW」、11「WILD LIFE」、12「HI, HI, HI」の、全26曲入りです。ドラマーのジェフ・ブリトンが表向きには「空手映画俳優になる!」との理由(実際にはポールとケンカしたらしい)でアルバム「VENUS AND MARS」のレコーディング途中で脱退してしまうので、第4期ウイングスとしては唯一のスタジオ・ライヴを記録した音源です。
音楽史上最も多くのブートレグが出回ったとも云われる「ONE HAND CLAPPING」は、あたくしもブートレグCDも持っていますが、流石に公式盤は音が違います。1974年8月のライヴですから、ポールはまだ32歳で、声の張りが全く違いますし、此の後の1975年から1976年にかけての「第5期ウイングス」での絶頂期と比較しても、時には荒々しくもあるポールのヴォーカルが良過ぎます。「MAYBE I’M AMAZED」や「MY LOVE」と云ったバラード曲でも叫び捲るんですから、もう堪りませんなあ。此の音源は、2010年にリリースされたアルバム「BAND ON THE RUN」の「アーカイヴ・コレクション」に音源と映像が収録されて公式盤として既にリリースされているのですが、そちらには音源はアルバム「BAND ON THE RUN」関連曲のみで、DVDは今回のCD1の14曲しか収録されておらず、完全盤としては今回が初めての公式化です。完全盤と云っても、何故かピアノの弾き語りパートでの「SUICIDE」が抜けていたりもしますが、コレがポールにとっての「ONE HAND CLAPPING」完全盤だと云うのならば、まあ、そうなんでしょうなあ。それにしても、リンダが弾くシンセサイザーが入るだけで「B級バンド」みたいな音になるのはご愛嬌です。それから、やっぱり「GO NOW」は要らないと思いましたが「デニー、リンダ、ジミー、& ジェフ・エメリックに捧ぐ」となっているので、まあ、良しとしましょう。
ピアノの弾き語りでは「I'LL GIVE YOU A RING」も演奏していて、コレはポールが10代の頃に書いた曲ですが、公式盤では1982年のシングル「TAKE IT AWAY」のB面でようやく発表された曲です。特にほとんどの楽曲が初の公式化となったCD2に珍しい曲が多くて、1973年リリースのアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」からのメドレーの一部だった「POWER CUT」や、1971年リリースのアルバム「WILD LIFE」からの「TOMORROW」あたりは、他では聴けない弾き語りでの音源です。ソノ「TOMORROW」では歌い方がオリジナル・ヴァージョンとは大きく異なっています。此の時点で「LET IT BE」と「THE LONG AND WINDING ROAD / LADY MADONNA」のビートルズ・ナンバーを洒落で少しだけ披露しているのも興味深いです。個人的なメインは、やはり当時の新曲「JUNIOR'S FARM」で、文句なしにカッコイイ、ポールのロックンロールです。こう云う50年前の全盛期のポールの野獣の如く吠え捲るヴォーカルを聴かされちゃうと、82歳になった現在のライヴへ行くとガッカリするかと思われるかもしれませんが、心配ご無用です。近年の「GOT BACK」ツアーのライヴ盤ブートレグを聴くと、もう最初から最後までお客さんがポールと一緒に大合唱しているので、ポールの声の衰えなど気にならない程に盛り上がっているのです。ポールとツアー・バンドの演奏は完璧なので、ポールと一緒に歌って時を過ごすお祭りみたいなライヴです。
(小島イコ)