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2024年05月25日

「ポールの道」#381「THE 7‘’ SINGLES BOX」#57「YOUNG BOY / LOOKING FOR YOU」

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ポール・マッカートニーは、1993年には、新作アルバム「OFF THE GROUND」と、ソノ拡大盤CD2枚組の「OFF THE GROUND:COMPLETE WORKS」と、最新ライヴ盤「PAUL IS LIVE」と、変名ユニット「THE FIREMAN」のデビュー・アルバム「STRAWBERRY OCEANS SHIPS FOREST」と、新作アルバムだけでも4作もリリースして、過去のアルバム16作もリマスターして「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」としてリイシューしていて、1年間で20作!ものアルバムをリリースしたのです。リンゴ・スターも最近のインタビューで「僕たちがビートルズとして沢山アルバムを出せたのは、ワーカホリックなポールのおかげ」と語っている程に、ポールは「音楽活動を止めると死ぬ病」に罹っているのです。ちなみにリンゴは其のインタビューで「エルヴィス・プレスリーにビートルズ時代に4人で逢った時に、エルヴィスの周りには沢山の人はいたけれど、彼はひとりぼっちだった。僕には、かけがえのない3人の仲間がいた」と、なかなか核心を突いたイイ話もしています。それにしては、リンゴも近年は矢鱈と新作レコードを出していて、コレはポールの病気がうつってしまったのでしょうか。

そんなワーカホリックなポールですが、鬼の様に20作もアルバムを出した1993年の後は、1997年5月5日にMPL/パーロフォンからリリースしたソロとしては10作目のアルバム「FLAMING PIE」までに4年ものブランクがあります。コレはですね、1994年にビートルズのラジオ用のスタジオ・ライヴ盤「LIVE AT THE BBC」が、1995年から1996年までにはビートルズのボツ音源を集めたアルバム「ANTHOLOGY」の3作がリリースされているからなのです。ポールは「ANTHOLOGY」用に、ビートルズの新曲として「FREE AS A BIRD」と「REAL LOVE」と当時は未発表になった「NOW AND THEN」を、ジョンのデモ音源を元にして、ジョージ・ハリスンとリンゴ・スターとの3人でオーバーダビングしてリリースしたのですが、ソノ新曲をプロデュースしたジェフ・リンと共に、ポールの新作アルバム「FLAMING PIE」となる楽曲を制作したものの、レコード会社から「今はビートルズで盛り上がっているんだから、ポールの新作アルバムなんか要らないんだよ」と云われてしまい、結局は「ANTHOLOGY」プロジェクトが終了後の1997年にならないと、新作アルバムを出せなかったのです。

ポールにとっては、1970年のビートルズのアルバム「LET IT BE」とソロ・アルバム「McCARTNEY」のバッティング事件からの「ビートルズ脱退宣言」と同じ悪夢の様な展開で、つまり、ポールにとっての最大の敵は「かつての自分自身であるビートルズ」なのでした。ソレでアルバム「FLAMING PIE」は、1「THE SONG WE WERE SINGING」、2「THE WORLD TONIGHT」、3「IF YOU WANNA」、4「SOMEDAYS」、5「YOUNG BOY」、6「CALICO SKIES」、7「FLAMING PIE」、8「HEAVEN ON A SUNDAY」、9「USED TO BE BAD」、10「SOUVENIR」、11「LITTLE WILLOW」、12「REALLY LOVE YOU」、13「BEAUTIFUL NIGHT」、14「GREAT DAY」の、全14曲なのですが、「CALICO SKIES」と「GREAT DAY」の2曲が1992年のレコーディングで、他の12曲は1995年から1997年までにレコーディングされています。ポールにとっては愛妻リンダが参加した最後のアルバムとなり、旧友であるスティーヴ・ミラーとリンゴ・スターも一部で参加していますが、基本的にはポールとジェフ・リンの二人だけでレコーディングした楽曲が多く収録されています。

結果的には、アルバム「FLAMING PIE」は、全英2位・全米2位と大ヒットしていて、英国では人気に衰え知らずだったポールですが、米国では1982年リリースのアルバム「TUG OF WAR」(全米首位!)以来の15年ぶりのトップ10ヒット・アルバムとなったのです。つまりですね、1980年代にポールが低迷していた事にしたい日本のバカな評論家は、全米チャートの成績でそう云うのであれば、1989年リリースのアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」は全米21位(全英首位!)だし、1993年リリースのアルバム「OFF THE GROUND」は全米17位(全英5位)なわけで、エルヴィス・コステロとの共作が入っているアルバムは2作共に米国では当たっていないんですよ。もっと云えば、ポールとコステロの共作曲が入っているエルヴィス・コステロのアルバムは、1989年リリースのアルバム「SPIKE」が全米32位(全英2位)で、1991年リリースのアルバム「MIGHTY LIKE A ROSE」が全米55位(全英3位)なんですよ。となるとですね、此の1997年リリースのアルバム「FLAMING PIE」こそが米国での復活となってしまうわけですなあ。まさか、ジェフ・リンと組んだからだ、とか、スティーヴ・ミラーやリンゴ・スターも参加したからだ、とは云いませんよね。

つまり、日本のアホ丸出しな評論家は、自分の都合が良い様に、英国での成績と米国での成績を意図的に取り上げて語っているのです。米国の成績だけを見れば、ポールとコステロの共作曲なんて、まるで相手にされていなかったのですよ。最も売れた「VERONICA」でさえ、全米19位なんですからね。さて、アルバム「FLAMING PIE」からは、1997年4月28日に「YOUNG BOY」が先行シングルとしてリリースされています。スティーヴ・ミラーがギターで参加した此の楽曲は、全英19位で米国では未発売です。7インチ・ピクチャー盤のカップリングの「LOOKING FOR YOU」は、ポールとジェフ・リンの共同プロデュースで、リンゴがドラムスで参加しているアルバム未収録曲です。ソノ2曲に「OOBU JOOBU-Part 1」(1987年レコーディングの未発表曲「I LOVE THIS HOUSE」や「YOUNG BOY」の秘話が聴ける)を加えたCDシングルと、「YOUNG BOY」に、スティーヴ・ミラーが参加しているアルバム未収録曲の「BROOMSTICK」と「OOBU JOOBU-Part 2」(1987年レコーディングの未発表曲「ATLANTIC OCEAN」が聴ける)を加えた2種のCDシングルが英国では出ていて、アルバム「FLAMING PIE」からのシングルは3作あるのですが、全て表題曲以外は別のカップリングを加えた2種ずつでリリースされているので、コレクター泣かせです。何だか、坂道シリーズのシングルなんかの元ネタになっているかの如く、ポールのシングルは凝っています。「OOBU JOOBU」は、1995年にポールが制作したラジオ番組から編集した音源で、CDシングル3作2種ずつの6枚を揃えないと全てが聴けません。「YOUNG BOY / LOOKING FOR YOU」は「THE 7‘’ SINGLES BOX」では57枚目で、7インチ・ピクチャー盤を元にした新たなピクチャー・スリーヴで収録されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする